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「キール、貴方も転生者なんでしょ? 何で、私の世話係みたいな事をしているの?」
最初の疑問。 私の扱いと比べて、キールが使用人みたいな扱いなのが気になった。
彼も転生者なのに、今の私のような好待遇を受けていないのはなぜなのか? ……何かやらかした、なんて事なら納得するけど。
「それは、僕が望んだからだよ。 ギルバート様に言って、ここで働かせて貰ってるんだ」
なるほど。 転生者だからって、無理やり働かせられる事は無い……? 少なくとも、彼は自分の要望を通せている。
「あ、分かった。 不安なんでしょ? これから何するのか」
「そうね、悪い?」
あってるけど、ニヤケ面にイラッとした。 開き直ってしまった私に、キールはますます笑みを深める。
「あはは、大丈夫だよ。 ギルバート様は、君にピッタリな仕事を割り振ってくれるから。 暫くして慣れたら、僕みたいに好きな事をやれば良いよ」
「随分、適当ね……」
私が王様なら、貴重な能力を持った転生者なんて人材は手放さない。 自由にさせると言っておいて、実は見張られているとか?
いや、キールを見る限り縛られている様子もない。 それに、昨日の夜だって勝手に部屋から出入り出来てた。 あのまま、外に逃げる事もできた訳だし……?
「貴方の能力って何なの?」
「僕? 僕のは……」
次に、キールの能力。 馬車の中で紙を直していたけど、あれが能力なんだろうか。 私の質問に答えた彼は、近くにあった手鏡を持ち上げて落とした。
ガシャン、と大きな音をたてて割れた鏡。 驚いた私を見ながら、キールは鏡の残骸に手を翻した。
「"リペア"」
キールが言った途端、残骸がカタカタと動き始める。 ゆっくりと他の残骸とくっついていき、最終的には元の手鏡に戻ってしまった。
彼は、その手鏡を拾い上げて自慢気にしている。 手渡してきたので確かめて見たけど、亀裂の一つも残っていなかった。
「……何でも直す能力なの?」
「そのとおり……と言いたい所だけど、そこまで万能じゃないよ。 精密なものとか、大きすぎるものとか、生き物なんかは直せないんだ。 ……まだね」
便利な能力だ。 消耗品とかも直せるのだろうか? 出来るなら、道具なんて買ったら使い放題じゃない。 と、まだって?
「まだ?」
「そう、まだ。 ギルバート様が言ってたんだ、能力は伸ばせるんだって。 僕も最初は割れた小石くらいしか直せなかったんだよ? それがここまで出来るようになったんだ。 まぁ、努力の成果だね」
威張っている。 これは褒められるのを待ってる……? 代わりにジトッとした視線を送ってあげると、諦めたのかため息を吐いた。
「つまり、努力次第ではもっと色々直せるようになるかもしれないってこと。 割れた宝石を、それぞれ元に直せたりしたらお金持ちになれると思わない?」
いや、元の一つに戻るだけでしょ。 もし出来たとしても、それはそれで宝石の価値がガクッと落ちて、結局お金持ちにはなれなさそう。
「はいはい、頑張ってね」
「他人事じゃないよ! 君も、もしかしたら凄い能力に成長するかもしれないんだしね!」
私の能力……。 そもそもどういうものか分かっていないのだから何とも言えない。 でも、彼の様子を見ていると、不安が和らいだのは確か。
あのギルバートって人、初め見たときは怖いイメージだったけれど。 もしかしたら、意外と融通の聞く性格なのかもしれない。 新しい世界で、新しい自分を磨く事に、少しだけ期待感が出てきた。
「……あのギルバート……様? はどんな人なの?」
一番気になっていたことを聞くことにした。 召喚された私を引き受けた本人でありながら、あの場から馬車までしか接点がない。 これから会うというのに、微塵も知らないままだとやりづらい。
「ギルバート様はね。 二年前、僕が祝福の儀で呼ばれた時に引き受けてくれた人なんだよ。 さっきも言った通り、最初は小石くらいしか直せなかったからね。 他に誰も手を挙げなかったのに、あの人だけは僕を指名してくれたんだ」
祝福の儀……というのは、召喚者を呼ぶ術のこと? あの場所に敷かれていた、よくわからない文字列が、転生者を呼ぶのかもしれない。 私もあれの上に居たし。
小石しか直せなかった能力のせいで、誰も手を挙げなかった中、ギルバートって人だけは手を上げた。 つまり、あの祝福の儀とやらは勝手に人を呼んでおいて、能力の優劣で競売にかけられるという事だ。 予想はしていたけど、やっぱりモノ扱いで不満感が残る。
その辺まで理解した所で、キールの話の続きを待つ。 けど、いくら待っても話してくれない。 首をひねると、彼も同じように首をひねった。
「え、終わり?」
「うん。 僕も、ギルバート様にきちんと会ったのは最初と……三日前だけだね。 あとは別の人が担当してくれてたし、城内でちらっと見かけるくらいかな」
面食らってしまった。 自分で選んだ転生者なのに、まるで興味がないみたい。 呆れていると、キールも笑っていた。
「あはは、分かるよ。 僕も何で選ばれたんだろうって思った時があるからね。 でも、まぁ、好きにやらせて貰えてるし、成果に対して報酬もある。 知りたいことがあったら許可取るのも簡単だし……特に不満は無いんだよね。 だから、きっと君も大丈夫だよ」
「はぁ……」
そんな話を聞いて、私は尚更不安になってしまうのだった。 もしかして、彼が楽観的すぎるだけなんじゃないか……と。