表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

7



「キール、貴方も転生者なんでしょ? 何で、私の世話係みたいな事をしているの?」


 最初の疑問。 私の扱いと比べて、キールが使用人みたいな扱いなのが気になった。


 彼も転生者なのに、今の私のような好待遇を受けていないのはなぜなのか? ……何かやらかした、なんて事なら納得するけど。




「それは、僕が望んだからだよ。 ギルバート様に言って、ここで働かせて貰ってるんだ」


 なるほど。 転生者だからって、無理やり働かせられる事は無い……? 少なくとも、彼は自分の要望を通せている。




「あ、分かった。 不安なんでしょ? これから何するのか」


「そうね、悪い?」


 あってるけど、ニヤケ面にイラッとした。 開き直ってしまった私に、キールはますます笑みを深める。




「あはは、大丈夫だよ。 ギルバート様は、君にピッタリな仕事を割り振ってくれるから。 暫くして慣れたら、僕みたいに好きな事をやれば良いよ」


「随分、適当ね……」


 私が王様なら、貴重な能力を持った転生者なんて人材は手放さない。 自由にさせると言っておいて、実は見張られているとか?


 いや、キールを見る限り縛られている様子もない。 それに、昨日の夜だって勝手に部屋から出入り出来てた。 あのまま、外に逃げる事もできた訳だし……?




「貴方の能力って何なの?」


「僕? 僕のは……」


 次に、キールの能力。 馬車の中で紙を直していたけど、あれが能力なんだろうか。 私の質問に答えた彼は、近くにあった手鏡を持ち上げて落とした。


 ガシャン、と大きな音をたてて割れた鏡。 驚いた私を見ながら、キールは鏡の残骸に手を翻した。



「"リペア"」


 キールが言った途端、残骸がカタカタと動き始める。 ゆっくりと他の残骸とくっついていき、最終的には元の手鏡に戻ってしまった。


 彼は、その手鏡を拾い上げて自慢気にしている。 手渡してきたので確かめて見たけど、亀裂の一つも残っていなかった。




「……何でも直す能力なの?」


「そのとおり……と言いたい所だけど、そこまで万能じゃないよ。 精密なものとか、大きすぎるものとか、生き物なんかは直せないんだ。 ……まだね」


 便利な能力だ。 消耗品とかも直せるのだろうか? 出来るなら、道具なんて買ったら使い放題じゃない。 と、まだって?




「まだ?」


「そう、まだ。 ギルバート様が言ってたんだ、能力は伸ばせるんだって。 僕も最初は割れた小石くらいしか直せなかったんだよ? それがここまで出来るようになったんだ。 まぁ、努力の成果だね」


 威張っている。 これは褒められるのを待ってる……? 代わりにジトッとした視線を送ってあげると、諦めたのかため息を吐いた。




「つまり、努力次第ではもっと色々直せるようになるかもしれないってこと。 割れた宝石を、それぞれ元に直せたりしたらお金持ちになれると思わない?」


 いや、元の一つに戻るだけでしょ。 もし出来たとしても、それはそれで宝石の価値がガクッと落ちて、結局お金持ちにはなれなさそう。




「はいはい、頑張ってね」


「他人事じゃないよ! 君も、もしかしたら凄い能力に成長するかもしれないんだしね!」


 私の能力……。 そもそもどういうものか分かっていないのだから何とも言えない。 でも、彼の様子を見ていると、不安が和らいだのは確か。


 あのギルバートって人、初め見たときは怖いイメージだったけれど。 もしかしたら、意外と融通の聞く性格なのかもしれない。 新しい世界で、新しい自分を磨く事に、少しだけ期待感が出てきた。




「……あのギルバート……様? はどんな人なの?」


 一番気になっていたことを聞くことにした。 召喚された私を引き受けた本人でありながら、あの場から馬車までしか接点がない。 これから会うというのに、微塵も知らないままだとやりづらい。




「ギルバート様はね。 二年前、僕が祝福の儀で呼ばれた時に引き受けてくれた人なんだよ。 さっきも言った通り、最初は小石くらいしか直せなかったからね。 他に誰も手を挙げなかったのに、あの人だけは僕を指名してくれたんだ」


 祝福の儀……というのは、召喚者を呼ぶ術のこと? あの場所に敷かれていた、よくわからない文字列が、転生者を呼ぶのかもしれない。 私もあれの上に居たし。


 小石しか直せなかった能力のせいで、誰も手を挙げなかった中、ギルバートって人だけは手を上げた。 つまり、あの祝福の儀とやらは勝手に人を呼んでおいて、能力の優劣で競売にかけられるという事だ。 予想はしていたけど、やっぱりモノ扱いで不満感が残る。




 その辺まで理解した所で、キールの話の続きを待つ。 けど、いくら待っても話してくれない。 首をひねると、彼も同じように首をひねった。




「え、終わり?」


「うん。 僕も、ギルバート様にきちんと会ったのは最初と……三日前だけだね。 あとは別の人が担当してくれてたし、城内でちらっと見かけるくらいかな」


 面食らってしまった。 自分で選んだ転生者なのに、まるで興味がないみたい。 呆れていると、キールも笑っていた。




「あはは、分かるよ。 僕も何で選ばれたんだろうって思った時があるからね。 でも、まぁ、好きにやらせて貰えてるし、成果に対して報酬もある。 知りたいことがあったら許可取るのも簡単だし……特に不満は無いんだよね。 だから、きっと君も大丈夫だよ」


「はぁ……」


 そんな話を聞いて、私は尚更不安になってしまうのだった。 もしかして、彼が楽観的すぎるだけなんじゃないか……と。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ