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「ん……む」
眩しい。 薄目を開けると陽の光が私を容赦なく照らす。 しまった、昨日カーテンを閉めるの忘れてた。
寝返りをうち、大きな枕に顔を埋める。 このベッドは快適だ。 一日中眠っていても良いくらい。 そのまま、意識を手放そうとすると……。
「お嬢様」
「……ぇ、ん……え?」
誰かの声がした。 反射的に顔をあげると、私を囲うように大勢のメイドさんが立っている。
「間もなく御時間ですので、申し訳ありませんがご起床頂けますか?」
「は、はい」
メイドさんの一人が、申し訳無さそうに教えてくれる。 ……え? 時間? 何かあった……?
私が立ち上がると、すかさずメイドさん達が近寄ってきた。 彼女たちの手には衣服や装飾品、メイク道具らしき物や朝食まで……って食事を持っているのはマリアさんだ。
マリアさんに何が起きているのか分からない聞こう。 そう考えている間に、服を脱がされ、肌のケアをされ、衣服の寸法を測られ……ちょっ! ちょっと待って!
「あっ! あのっ!」
「セラ様、大丈夫ですよ。 今回ばかりは、全てお任せ下さい」
そう言ったのはマリアさん。 彼女も彼女で食事の用意を進めている。 いや、何が大丈夫なのだろうか。 何も現在進行系で大丈夫じゃない。
もはや、抵抗しても無駄だと悟った私は、大人しく終わるのを待つのだった。
「お綺麗です、セラ様」
「……ありがとうございます」
最後に姿鏡を用意され、出来ばえを確認することに。 ……私じゃないみたいだ。 なんて、私も自分の事を全て覚えている訳じゃないんだけど。
椅子を引かれ、食卓にご案内。 机の上にはパンを主体とした簡単な料理だ。 ……あれ? あのスープは……。
メイドさん達に囲まれながらの食事。 正直、落ち着かない。 だけど、このスープの味だけははっきりと分かる。 これは私が昨日作ったものだ。
ただし、全く同じではない。 何か加えられているような……? マリアさんの方を見ると、彼女は微笑んでいた。
「マリアさん、これって……」
「ええ、そうですよ。 セラ様から教えていただいたスープを、少しアレンジしてみたものです」
「とても美味しいです!」
「それは良かった」
やっぱりそうだった。 昨日の夜、使った材料を伝えただけなのに、もう改良されている。 これは……動物性の何かで取った出しの味?
「セラ様のレシピ通りのスープに、ルードボアの骨から取った出しをかけ合わせてみたんですよ」
……ルートボアって? この世界の知識がなさすぎて何とも言えないけど、マリアさんの料理技術が高いのだけは分かった。
そして、私はマリアさんと朝食を楽しんだ。 周りには相変わらず他のメイドさん達がいるけれど、知っている人が一人でもいるのはありがたい。
「ご馳走様でした、美味しかったです」
「いえいえ、お粗末さまでした」
食事も終わり、他のメイドさんに口元を拭かれる。 崩れた衣服を直され、食器を持ってパッと離れていった。 ……プロだ。 楽でいいけれど、心情的には落ち着かない。
「それでは、小休憩の後に謁見になります。 直ぐに担当の者が参りますので、少々お待ちくださいませ」
「はい。 ……え?」
今、なんて言ったの? 謁見? 聞いてないんだけど……。 私の困惑の声は、メイドさん達が部屋から出ていく音にかき消された。
呆然としながら、私は椅子で考える。 そういえば、キールがそんなこと言っていた気がする。 謁見……というと、やはりあのギルバートって人と?
あの人は王様だって話だし、この国のために色々とやれって言われるのだろうか? 転生者の能力のおかげで国は発展してきたって事は、私も能力を使って何かするの?
それは困る。 なぜなら、私には何かの能力が使える自覚がないから。 今後について不安に思っていると、部屋の扉がノックされた。
「入ってもいいかい?」
「……キール?」
現れたのはキール。 彼が担当の者? でも、丁度いい。 同じ転生者だっていう彼に、色々と質問させて……あれ?
「……おお~。 馬子にも衣装ってのはこういう事だね」
「ねぇ、キール。 質問があるんだけど」
キールの失礼な物言いは無視する。 でも、私の言葉に少し感情が乗ってしまったかも。 証拠に、彼は少し後退りしている。
「な、なんだい? 僕で答えられることなら何でも答えるよ、うん」
今なら何でも答えてくれそうだ。 彼を私がさっきまで座っていた椅子に座らせ、私は目の前に移動した。 まるで尋問みたい。