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あれから数日。 途中で何回かの野営をはさみ、私はようやく目的地に到着した。 馬車から降りて見えたのは、見上げる程に大きな……お城。
『いらっしゃいませ、お嬢様』
そして、歓迎してくれているのは、道の左右にびっしりと並んだメイドさん達だ。 全員の動きが完璧に揃って、声の出すタイミングまで完璧。 ……人よね?
「ほら、疲れたでしょ? 部屋まで、もう少しだから頑張って」
「は、はい」
キールが案内してくれる。 メイドさん達に圧倒された私は、思わず口調が変わってしまった。
前を歩くキールを見失わないように進んでいくと、最初に見えてきたのは大きな庭だ。 色とりどりの花が咲いていて綺麗だけど……迷い込んだら出られなさそう。
そこを通り過ぎると、玄関らしき扉が見えてきた。 その扉は既に開けられていて、脇に控えているのは執事さんだ。
「セラお嬢様、執事のデントと申します。 今後、何かご要件が御座いましたら、何なりとお申し付け下さい」
「あ、え……っと。 ありがとうございます……」
執事さんに挨拶された。 ……何で名前を知っているんだろう? まさか、心を読む能力とか? 驚く私の顔を見て、キールが笑っている。
「連絡係が先に城へ着いてるからね。 皆、君の事は知っているよ」
「そ、そう」
真相はキールから語られた。 私の早とちりだと気付き、顔に血が上る感覚がする。 ……執事さんは微笑ましく笑っていた。 ……恥ずかしい。
室内に入り、階段をあがる。 何回か角を曲がり……ようやく部屋の前で止まった。 まずい、道が全然覚えられなかった。 迷ったらどうしよう。
「はい、到着だよ。 ここが君の部屋。 必要なものは大体揃ってると思うけど……何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」
「う、うん。 ありがとう……」
部屋……にしては大分広い。 家具は一通りあるし、さっきの庭が一望できるベランダに……備え付けの浴室まで。
しかし、私の視線は一点に向かう。 それに合わせて足も動き……ふらふらと目標へ進む。 ……ベッドだ。
「誰か呼ぶ時は、ここのベルを鳴らしてね。 あ、あと明日は謁見があるから、覚えておくんだよー?」
「……うん、わかった」
ついにベッドの前に辿り着き、倒れ込んだ。 短時間に色々あり過ぎた、少し休憩しよう。 ……背後でキールが出ていく音が聞こえた。 彼にもお礼を言わなきゃ……。
―――――
「ん……」
ぼうっとする、体が変に痛い。 着替えもしないで、変な体勢で寝たせいだ。 骨のなる音を聞きながら体を持ち上げ、仰向けにひっくり返る。
「お腹すいたな……」
上半身を持ち上げて、ベランダの方を見た。 ……真っ暗だ。 結構、長い間寝てしまっていたらしい。
立ち上がり、ベランダの方へ歩く。 外へ出ると、遠くに灯りが見えた。 城下町……かな?
入り口近くにあるベルを見た。 キールが、何か用があるときは鳴らせといっていたはず。 ……でも、こんな時間に呼びつけるのも悪い気がしてしまう。
「……よし」
食堂くらい自分で見つけよう。 そんな考えの元、立ち上がった私は部屋を出た。 とりあえず、玄関……があった方に向かうことに決める。
コツコツと足音を立て、暗い道を歩いていく。 手にはランタンをぶら下げている。 使い方は勿論、キールに馬車の中で教わっていた。
このランタンは着火剤や燃やすものも要らない。 ボタンを押すと明かりがつくのだ。 こういう物も転生者達の知識と能力によって作られたのだという。 私としては、便利であれば何でもいい。
「…………」
順調に進み……私は後悔した。 寝起きで頭が完全に覚醒してなかったみたい。 よくよく考えれば、知らない城をいきなり歩き回るのは無謀だ。
せめて、キールを見つけられれば……。 もしくはメイドさんでも良い。 あれだけ居たのだから、一人くらいそのへんで見つけられても良いはず。
「……はぁ」
駄目だ、戻り方すら分からなくなってしまった。 こうなったら仕方がない。 さっきから無数にある扉のどれかを叩いて助けて貰おう。 急に尋ねるのが申し訳ないなんて言ってられる状況じゃなくなってきた。
そんな事を考えながら角を曲がると、食堂らしき場所に辿り着いてしまった。 何という幸運、私のツキは捨てたもんじゃないのかもしれない。 いや、以前から運が良かったのかどうかも覚えてないけど。
厨房にお邪魔し、天井から垂れている紐を引っ張る。 紐の先についていた明かりが灯り、厨房全体が見渡せる程度の明るさになった。
何か食べられそうな物はないか……とウロウロし始める私。 まるで、泥棒みたいだ。 いたたまれない気持ちになりながらも、いくつかの食材を取り出す。
食材の入っている棚の中には、どういう仕組みか内部が冷えているものもあった。 なるほど、これなら痛みやすい食材も保存しておける。 これは自分の部屋にもほしいところ。 今度、キールにかけあってみよう。