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「……と、言う訳さ。 まぁ、今となっちゃ、良い能力の転生者を取り合う競売場みたいになっちゃってるけどねぇ」


「…………」


 それまで壮大だったのに、キールの一言で台無しになった。 つまり、私は商品であの場所は競売場。


 祭司は私を鑑定するとか言っていた。 あの紙には私について色々と書かれていたんだろう。 それを見て、彼らが私を買うか検討していたと言う訳。


 ……思わずむすっとしてしまう。 だって、まるで物扱いなんだもの。 いい気分がする訳が無い。




「あれ、怒ってる?」


「……いいえ」


 静かに怒気を発している私をなだめる為か。 キールは小袋に入った何かを差し出してくる。 甘い香りがするあたり、お菓子だろうか。


 私はお菓子で機嫌を直す子供じゃない。 それを受け取らずに、睨みつける。 すると、彼はお菓子をしまって両手を上げた。




「まぁまぁ。 ほら、君からすれば儲けものでしょ? 何処かで死んじゃったのに、また生きられるんだからさ」


「……その代わり、お国に尽くさないといけないんでしょ? 勝手に縛り付けるなんて最低だわ。 ……それに、私は能力なんてもってない」


 記憶は殆ど無いはずなのに、無理やり働かされる事については嫌悪感が出てくる。 ……前世の影響だろうか。


 それに、話にあった能力なんてものは私には無い。何かを期待していたのなら検討違いだ。




「その辺は大丈夫だと思うよ? それと、君にはちゃんと能力が備わってる。 ……ほら」


「……?」


 何が大丈夫なのか。 困惑する私を尻目に、キールは一枚の紙切れを手渡してきた。 ……これは、祭司が持っていたやつだ。


 その紙を見ると、私について細かく書かれていた。 名前、性格、身長……体重……バスト、ウエスト、ヒッ……。




「……! ……!!」


「ちょ、ちょっと! 破かないでよ! 僕が怒られるんだから!」


 なんて失礼な紙だろうか。 ビリビリにしてやろうとしたのに、途中でキールに奪い取られた。




「……全く。 ほら、ここを見て? ……破かないでよ」


 キールは、紙切れの一部を差し出してくる。 念入りに言ってくるけど、失礼な内容だったら容赦なく破ってやろう。




 紙切れに書かれている文字はこうだ。


――能力(スキル)"召術"




「……召術?」


「そう、それが……君の能力だよ」


 召術……? なんのことだか分からない。 自分の手のひらを見て考えてみても、そんな能力が備わっているとは思えなかった。 ……私がまた破くと思ったのか、キールは素早く紙切れを回収する。




「まぁ、どんな能力なのかは……これからゆっくり調べていくと良いよ。 物凄く便利なものかもしれないし」


 随分と気楽な考えだ。 まるで、自分がそうしてきたからとでも言いたげな。


 キールは私が破いた紙切れをひとまとめにして、自分の膝の上に置いた。 そして、その紙切れに手を翻すと……。




「"リペア"」


 一言。 その瞬間、紙切れは宙に浮いて動き始める。 それぞれがくっつき、最終的には元の紙に戻ってしまった。


 今のは……まさか、キールの能力? てことは、彼も転生者と言う事? いや、まって。 それよりも重要な事に気付いてしまった。




「……貴方も転生者……なんですか?」


 さっきの話。 転生者を迎えるのは百年に一度だって言ってた。 なら、この人は何歳? 少なくとも百歳は超えているはず。


 そんな歳まで生きられるなんて、見た目が若いままなんて。 信じられないけど、ここは異世界。 さっきの直す能力と言い、なんでもありだ。


 今までの接し方が失礼だったのではと感じた私は、取ってつけたように敬語へ切り替えた。




「そうだけど……急にどうしたの? 何だか寒気がするんだけど」


 私の態度が急変したことを茶化してくる。 半笑いで少しだけイラッとしたけど我慢だ。 相手は歳上、こちらの態度が失礼だったのだから。






「……ああ、なるほどね。 僕がお爺さんとでも思ってる? 残念、僕が呼ばれたのはニ年前だよ。 ……あ、でも君より歳上だって事は変わらないから、敬ったままでいっ! ……痛い! 痛いよ!」


 足を踏んでしまった。 でも、これは仕方ないと思う。 ……ニ年前に呼ばれた? 転生者は百年毎にってど話はどこにいったの?


 キールは足を庇いながら、涙目で此方を見る。 私の表情から察したのか、慌てて説明を始めた。




「……大昔はきちんと百年毎に呼んでたらしいよ。 でも今は、何かしらの行事がある度にやってるんだってさ」


「そんなお祭りみたいな感覚で……」


 思い出してみれば、私を囲っていた人達は、祭司を含めて緊張感の欠片もなかった。 百年に一度の大行事なら、あんな気楽でいられるはずもない。


 彼らからすれば、いい手駒が転がってきた……位の感覚なんだろうか? 私を預かると言ったギルバートって人も?


 もしそうなら、この先の人生に余り期待が出来ない。 いっそ、目の前のキールをのして逃げ出してしまおうか……? いや、彼はともかく護衛の兵士が無理だ。 諦めよう。




「な、何だか不穏な空気がするんだけど?」


「命拾いしたわね」


「怖いよ!」


 空気を察したキールが身構えた。 思いはしたけど、実際にやる気は無い。 今の所、彼が一番話しやすいのだし。


 ……今更ながら、彼とは初対面だ。 出会って一時間も経ってない。 その割には、私の態度は失礼だったかもしれない。 一応、色々と教えてくれた訳だし。




「えっと、キール……さん。 他にも聞きたいことがあるのだけど……」


「あはは、無理に話し方を変えなくて良いよ。 名前も呼び捨てで構わない。 そっちの方が話しやすいでしょ?」


「……そう。 なら、そうさせて貰うわ」


 良かった。 それなら言葉に甘えさせて貰おう。 正直、今更彼を敬うことは出来そうにない。 妙な親近感というか……アホっぽい……ぅうん! 気楽なイメージがついてしまっているから。




 そうして、馬車が目的地につくまでの間。 私は、この世界の諸々について、彼に質問しながら過ごした。





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