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第7話 『眠らぬ看守ガーゴイル』


「ふふふ、遂に我らが勝利するときが来たぞ……」


「しかし、ちょっとズルすぎやしませんか?」


「……」


「まさか! そもそも、ズルとかズルくないとかの次元ではないのだ。小娘一人にてんやわんやさせられて、何が魔王軍一の知将か」


「ま、まあそうかもしれませんね」


「……」


 明かりの落とされた竜の間に、3体の魔物が潜んでいる。声を聞くに一人はダンジョンの主ペディランサス、もう一人はオークのトックリであろう。しかし、最後の一人はこの密談に際しずっと沈黙を貫き通しており、誰かはわからない。


 突如、部屋に明かりがともる。そして、隠された三人目の姿が(あら)わとなった。


 その手足胴は細く頼りなく、対照的に大きな翼と頭が、どこかコミカルにさえ見える。特徴的なのは、その重厚でごつごつとした質感の肌である。一見すると、石像かと見紛(みまご)う魔物の正体はガーゴイルであった。


 本来、ガーゴイルとは西洋建築における魔物を模した雨どいの役割を持った彫像である。しかし、魔物として生を受けたガーゴイルは身体こそ石で出来ているものの魔力を操作することで体を動かすことができるのだ。


「何をコソコソしてるんですか?」


 部屋の明かりをつけたのは、サキュバスのパキラであった。急に明るくなったためか、ペディランサスとトックリが目をぱちぱちとさせている。一方、ガーゴイルは瞬き一つせず正面を見据えたまま動かないでいた。


「ああ、パキラ嬢か。実はな姫の脱獄に対抗するため、新しい看守を呼び寄せたのだ」


「ガーゴイルの《アロエ》さんです。会ったことはありますよね?」


「ええ、ダンジョンの入り口に構えていた方ですよね。すみません、本物の石像だと思っていましたがガーゴイルだったのですね」


 パキラが、アロエの正面へとまわり一礼してみせた。


「初めましてアロエさん。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。サキュバスのパキラです」


「……」

 

 アロエは沈黙で応えた。それどころか微動だにしない。そんなアロエを、不審に思ったのかパキラがその顔をジッと覗き込む。すると、まるで目線を逸らすかのようにプイっと顔を背けて見せた。


 困惑したパキラが、トックリへと視線をよこす。


「ああ、彼は恥ずかしがり屋なんですよ。気にしないでください」


「そうなんですか……ところで、サンちゃんに看守をつけるって?」


 ペディランサスが大きくうなずいてみせた。


「うむ、アロエはガーゴイルであるが故に一切の瞬きをすることも、眠ることもなく姫の監視にあたることができる。まさに、看守役としてうってつけであろう」


「ダンジョンの入り口で、一向に来ない冒険者を待ち受けるよりは看守として働いた方がやりがいもあるかと思いまして」


 二人の言い分に、アロエが大きく翼を広げて見せた。事実、アロエはダンジョンの門番という仕事に飽き飽きしていたのだ。日がな一日、北の大陸に広がる毒沼を24時間365日眺め続けるという拷問にちかい職務も、ガーゴイルであるからこそ勤め上げることができた。とはいえ、体は動かさずに堪えることができようとも心はそうもいかなかった。


 更に、ダンジョン主であるペディランサス直々の任とあればどうして心を燃やさずにはいられなようか。これまで、()()()であった己の本当の力を皆に知ってもらえる機会がようやく訪れたのだから。


「いや、それはチョットどうなんでしょう?」


 パキラの言葉に、アロエがその二つの意味で硬い表情をギョッとさせる。


「どういうことだ? パキラ嬢」


「いえ、ペディランサス様。サンちゃんは、お年頃の女の子ですよ? それをずっと、監視させるんですか?」


 ペディランサスがウウンと喉を鳴らした。ペディランサスは、姫の脱獄を阻止することに捕らわれるあまり、姫のプライバシーのことがスッポリ抜け落ちていた。


「と、とはいえ、こう易々と脱獄を繰り返されるわけにもいかんのだ」


「んー、とりあえずサンちゃんに相談してみます?」


「別にいいよ」


 間髪入れずに、答えたのは姫本人であった。Tシャツにデニムというカジュアルな出で立ちで、姫がそこに立っていた。


「なんで普通にいるんですか……」呆れ気味にトックリが尋ねた。


「いや、パキ姉とご飯に行くとこだったから」


 現在時刻は、朝9時。パキラとサンデリアーナ姫は、まさに遅めの朝食に向かうところであった。それが、明かりも灯らない竜の間より声が聞こえてきたことがパキラの足を止めたのだ。


「それより、姫よ看守の件は本当に良いのだな? プライバシーには可能な限り配慮するが、脱獄はかなり困難になるのだぞ」


 ペディランサスの問いかけに、姫は腰に手をあて胸を張って見せた。


「むしろ燃える」



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