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第3話 『皿割った姫』



「こちらの要求を飲むのなら、どうやって逃げ出したかを話す」


 姫、二度目の要求に、トックリがペディランサスへと小声で耳打ちした。


「また、このパターンですか」


「だが、これが一番手っ取り早いのは確かだ」


「あんまり、姫の自白に頼っていると姫が増長しちゃいますよ。ここは大人な我々が、びしっと決めないと」


 間に、パキラが小声で割っていってくる。


「トックリさん。それができないから困ってるんですけど」


「姫が調子に乗った時は、我が毅然(きぜん)とした態度でしかりつけるからさ……」


「まあ、ペディランサス様がそこまで仰るなら」


「話し合いはまとまったか?」


「よ、よかろう。話してみよ」


 ペディランサスの返答に、姫は満足げに頷き、まるでミステリーの解答編に出てくる名探偵のように、ふふんと鼻を鳴らして見せた。


「昨晩、私がスッ転んで皿を割ったのはわざと。何故、そのようなことをしたのか。それは、皿の欠片を手に入れるため。


 皿の欠片を何のために? 何、簡単なこと。私は、それを使って縦穴を掘った。私一人がようやく収まる程度の穴を。そして、その上に毛布と土を被せて偽装し中に隠れた。


 朝食を運んできたサキュバスは、私の姿が牢獄内に見えないことに焦り牢獄の鍵を開け中に入ってきた。そして、穴に気づくことなく私が逃げ出したと思い込み、鍵を開けたまま私を探しに出て行ってしまった。


 あとは、悠々と牢を去ったというわけ。ただまあ、迷ったあげく捕まってしまったのだけど……」


 サンデリアーナ姫の、名推理? にパキラが顔を青くする。姫の話が、すべて事実であれば姫の脱獄に際してミスを犯したのは自分ただ一人であったからだ。その様子を察した、ペディランサスがパキラに寄り添い声をかけた。


「よい、気にするなパキラ君。姫の方が一枚上手だったのだ。次から気を付ければよい」


 パキラが目を潤わせ、「がんばりますぅ」と呟いた。それを見ていた姫は、先ほどまでの自慢げな様相と打って変わって落ち着きをなくしている。パキラの泣き顔に、幾ばくかの罪悪感を覚えてしまったのだ。


「しかし、穴を掘って出た土はどうしたのですか?」


「獄中に均等に振り分け、均した。あ、あのサキュバスさん、ご、ごめんね」


「気にしないでいいよぉ……」


「うむ、なんともまあ機転の利く娘であるな。さて、姫よ約束だ。何を望む」


「……逃げるためとはいえ皿を割ってごめんなさい。あと、あのフルコースはすごく美味しかったんだけど」


「けど?」


「あの手の料理は、王国で食べ飽きているから。ごく普通の料理と、あと、たまにはジャンクフードも食べてみたい」


 姫の申し出に、ペディランサスは呵々大笑(かかたいしょう)して見せた。


「ふははは、なんと謙虚な娘か。よかろう! 姫の食事は、我がダンジョン内の魔物用食堂にて振舞われている定食と同じものとする。


そして、土曜の昼食は、ご希望のジャンクフードを用意しよう。


トックリよ、すぐに近辺の出前や、ウーバーの使える店をリストアップせよ!」


「御意!」


「加えてパキラ君。姫の食事に扱う皿は、今後一切割れぬよう全て木皿に変えよ」


「はい!」


「そして、最後にサンデリアーナ姫。実は、うちの料理長は以前より全力で腕を振るえる機会を待ち望んでいたのだが……」


「わかった。月に一度ぐらいであれば、料理長の本気を味わうのも悪くない」


 パキラは思った。


 的確な指示の数々、そして部下であるサイクロプス料理長への気遣い。更には異動してきて、いきなり大ポカをやらかした自分を励まし、以前と変わらず仕事を与えてくれる度量の大きさ。


「ははは、気遣い感謝するぞ姫。さて、忘れて負ったパキラ君。姫を、大浴場に連れて行ってやれ。脱獄のためとはいえ、一国の王女が土まみれではみっともないからのう」


 そのうえ、姫への配慮まで! 完璧だ!大銀龍ペディランサス様こそ、理想の上司そのものだと。


 かくして、脱獄の手口一つを引き換えに週に一度のマックを嚙みしめる姫。しかし、姫の脳内に書き連ねられた脱獄計画はまだまだ底が知れないのであった。





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