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走れ爺さん

作者: まちゃかり

「ここ掘れワンワン!」

「なんだコイツ?」


 とある犬に突然話しかけられたお爺さんはその場で首を傾げた。お爺さんには世間の常識がわからぬ。お爺さんは村のお荷物と言われている。笛を吹き、犬と遊んで暮らしてきた。けれども自分に降りかかってくる邪険に対しては、人一倍に敏感だった。


「ほう......お前はここを掘れと言うんだな?」

「さっさとしろワンワン!」


 お爺さんは単純な男だった。流暢に喋る奇妙な犬の言葉を信じて、掘り始めたのだ。するとそこからは財宝ではなくガラクタが掘り出され、案の定お爺さんは激怒した。


「やはりこの俺を騙してたんだな! この土腐れ野郎!」


 そもそもこの犬は一言も財宝が眠っているとは言っていなかった。ただのお爺さんが勘違いしただけなのである。


 お爺さんは今すぐこの犬を処刑しようと、偶然持っていた斧を振りかぶる。犬は危険を素早く察知して逃げた。


 こうしてお爺さんと犬の競争が唐突に始まった。犬は涼しい顔をして疾走し、それを追いかけているお爺さんは路行く押しのけ、跳ね飛ばし、まるで自分の意思で動くサイクロンのように走る。お爺さんはこの人生でこんなに走った事は無い。しかし、この邪智暴虐な犬を除かなければいけないと決意しているこの男は、足の痛みを知らず、心臓の限界にも目をくれず、ただこの犬を追い続けていた。


 そして、一刻の時が過ぎ心身共に疲れ果てていた犬は適当に置いてあった小さな船に乗りこむ。


「やっと追いついたぞ......覚悟しろワンコロ野郎......」


 犬を追っていたお爺さんもその船に乗りこむ。しかし長時間走り続けた体は限界を迎え、まるでスイッチが切れるかのように意識を失った。



     ◇



 数時間の時が過ぎ、意識を取り戻したお爺さんが見たものは、一面水で覆われている地面が無い場所。イマイチ状況が飲み込めないお爺さんは、同じ船に乗っていた犬に説明を求める。犬は首を横に振って答えなかった。こんどはもっと、語勢を強くして質問した。すると犬は呆れ気味な口調で話し始める。


「漂流したんだよワンワン。ワンワンと爺さんがこの広大な海の上でなワンワン」

「え?」


 お爺さんは絶句した。犬は一緒に頑張ろうなと言っていだが、お爺さんにはその言葉はちっとも届かなかった。


 こうして1人の人間と1匹の動物の物語が始まる。それがのちに世界中を巻き込む大事件を引き起こす、最強のコンビになった事は、今の2人は知らない。


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