ねむれない
・・・眠れない。
・・・まったく眠れない。
・・・まったくもって、眠れる気配すら感じない。
・・・ざわついている。
目を閉じると、おかしなうねりが目の前に広がっている。
目を閉じると、おかしなさざなみが目の前で広がっている。
目を閉じると、おかしな幾何学模様が目の前で広がっている。
・・・目を、閉じているというのに。
確かに目を閉じている、・・・何も見えないはずだ。
確かに目を閉じている、・・・明るさを感じないはずだ。
おかしなことだ、光を感じている。
おかしなことだ、めまぐるしさを感じている。
おかしなことだ、何かを、確かに、知覚している。
・・・眠れない。
ベッドに入る前、確かに私のまぶたは重くなった。
ベッドに入る前、確かに私はあくびをしていた。
ベッドに入る前、確かに私は、枕を恋しく思った。
・・・てんで眠れないのだ。
ベッドに入って天井と対峙し、目を閉じた私。
ベッドに入って天井と向かい合い、目を閉じている私。
目を閉じたまま、重力のかかった背中を・・・開放してみる。
目を閉じたまま、体の右側に・・・重力がかかる。
ごろり、ごろりと、重力を変えながら、ますます落ち着きをなくしていく。
・・・体の向きを変えたところで、眠れはしないのだ。
明かりのない部屋の中、目を閉じる私が感じているのは・・・あかるさ。
ただ、ただ・・・光を感じている、脳の感覚。
暗闇の中、目は何一つ事象を捉えてはいないというのに。
脳は何かを知覚し、私をいつまでも覚醒させている。
脳は何かを知覚し、私をいつまでも覚醒させ続けようとしている。
・・・眠れない時間が過ぎてゆく。
暗く、光のない部屋で、明るさを感じながら。
暗く、視覚のない部屋の中で、めまぐるしさを感じながら。
・・・いつになったら、このまぶしさは落ち着くのだろう。
閉じていた目を開く。
確かに、目の前には、暗い部屋の画像が広がっている。
この部屋は、確かに・・・暗いのだ。
枕もとのスマホを手に取り、電源を入れる。
暗い部屋の中に、明るいスマホの画面が光る。
確かに、目の前には、明るいスマホの画面が広がっている。
このスマホは、確かに・・・明るいのだ。
私は、正常な視覚を取り戻すことに成功した。
・・・脳の暴走を止めることに成功したのだ。
今、私は、明るい光を目にして、明るいと知覚しているのだ。
だから、大丈夫。
だから、大丈夫。
だから・・・大丈夫。
スマホの画面を光らせたまま、目を閉じる。
目を閉じても感じる、明るい光の・・・影。
明るいから、目を閉じても・・・その光はまぶたを突き抜けてくるのだ。
私が今感じているのは、確かに現実のまぶしさ。
・・・安心感が私を包み込む。
私は、明るさを感じつつ・・・いつの間にか、眠りに落ちた。