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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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色盲少女に彩りを

作者: ザ・ディル
掲載日:2020/04/09

 私は色覚異常者だ。

 正式名称は異常1色型色覚。

 私にとって、世界はモノクロだった。

 人間が肌色だとか、空が青いとか海が青いとか血が赤いとか信号には赤青黄だとか――知っているけど、私にとっては人間も空も海も血も信号もすべてが白黒。


 まるで世界から逸脱してしまうんじゃないか――そう錯覚するほど、錯覚を納得してしまうほど、他人は私を異常者として見ていた。

 障害者は異常者に見られる。だから私は異常者と世間から捉えられている。

 そんな、異常者と付き合えるのも、また、異常者――障害者だと知るのは自明で、中学生の今では当たり前のように意識できている。


 私には友達がいる。

 同じ障害者の友達。彼女――しぃちゃんは、簡単に言えば、走ることができない人。

 喘息じゃなく、心臓の病気らしい。だから、私やしぃちゃんは回りからハブられる。いや、ハブられるというと語弊なので、言い換えると、普通の人と仲のいい友達になることはできなかった。

 よく、テレビで障害者が、何かを目標として頑張り、目標を達成するまでの物語を見せてくるのを見かける。

 確かに、頑張ればできることもある。でも。障害の、障害たるゆえん部分はどうにもできない。

 私はどんなに努力しても、私の見る世界は色褪(あ)せている。

 変えられない決定事項。

 障害が絶対に乗り越えられない。

 壁を打ち砕く以前の問題。

 壁はびくともしないし、何もない。

 壊れることもないし、欠けることもないしヒビが入ることもない。

 私だけでは何もできない。

 私は、ずっとセピア色の世界しか、見ることができない。

 それを認識して。

 私は人生に期待をしなくなって。

 中学生までに至る。



 私としぃちゃんはよく遊ぶ。

 しぃちゃんは私のことをみぃちゃんと呼んでいる。

 私の家で、何か二人でする時もあれば、何もせず、適当に喋って終わりな日もある関係――つまり友達。

 今日もそんな日の一日だった。


 私は自分の部屋で、漫画を読んでいた。

 漫画というのは、心地いい。

 漫画はモノクロだ。差別がない。

 障害者でも、関係ない。

 モノクロの世界で、最高の世界を提供してくれる。

 でも。

 次のページをめくったときに、絶望する。

 巻頭カラー。

 そう書かれながらも、目の前に見えるのは、彩られたキャラクターではなく、モノクロのキャラクター。

 ……いつものことだ。

 カラーだということは忘れて、モノクロのまま楽しもう――


「ねえ、みぃちゃん。大丈夫、泣いてるよ?」


 え……。

 いやいや、そんな。

 泣いてるわけ――そう思い、眼をこすると。

 私は本当に涙していた。


「どうしたのみぃちゃん。何か嫌なものでも見たの?」


 私は呼吸を整えて。震える呼吸を元に戻した。

 でもその間に、


「ああ、そういうこと」


 何故涙しているかバレた。

 思わず弁解する。


「いや、別にこんなんで泣いたわけじゃないから。さっき泣けるシーンを見て――」


「――嘘だよね。私分かるよ、嬉しくて泣いてる時のみぃちゃんは、そんな泣き方しないよ」


「……そうだね。私は今、色が見えなくて泣いていた……」


 改めて、自分の口から、その言葉をするのは、心が痛い。


「色……教えてあげようか?」


「え? しぃちゃん、それってどうやって?」


「ちょっと待ってて」


 そう言いながら、私の机の引き出しから取り出す。

 カラー12色と書かれた鉛筆。つまるところ、色鉛筆12色。

 でも、その色は私にとってすべてモノクロだ。


「まずね、赤。赤の代表的なものって、火とか、血とか、あとは赤信号に赤とんぼかな。赤っていっぱいこの世の中にあるんだよ。この漫画で言うと、このキャラのこの服の大部分と、瞳の部分は赤だね」


 しぃちゃんは指をさしながら説明するけど、色の区別がつかない私は良く分からない。


「赤って暖色って言われるんだよ。あったかい――暖かな印象を受ける。モノクロだとしても、暖かな印象って受けるんじゃない?」


「ううん」私は首を横に振る。「灰色の中でも濃いってイメージしかないかな……」


「じゃ、じゃあ。これが黒、それでこれが白」


 そう言いながら12色の色鉛筆のうち、二つを順に指さした。


「これは分かるんだよね?」


「そうね。白と黒は分かるわ」


「じゃあ、これは白ってわかる?」


 漫画のカラーページに指をさすみぃちゃん。

 私はそれが本当に白色なのか分かっていなかった。


「分からない……」


「じゃあ、あれだね。まずは、黒と白で、このキャラたちを見ていこうか。こことここ。あとここも、それとここも。この部分は全部黒」


「うん……」


 あまりピンとこない。


「白と黒の間は……灰色かな」


「そうだね」


「でもみぃちゃんは赤青黄、その他もほとんどが灰色に見える……」


「うん」


「…………」


 黙ってしまった。

 多分、お手上げなんだろう。


「大丈夫だよ、しぃちゃん。私はたとえ世界がセピア色に染まって見えても、変わらないものがあるって分かってるから」


「それって……?」


「私としぃちゃんは、いつでも、いつまでも友達ってこと」


 本心だ。どんなに世界が色褪せても、どんなことがあっても、私としぃちゃんは友達。

 どんなに離れ離れになろうとも。

 あまり会えなくなっても。

 友達であることに変わりがないと、友達になったときからそう思っていた。


「あ、ありがとう、みぃちゃん。私ね! 頑張るね!」


「え? 何を?」


 脈絡が、半ば強引飛ばされて、混乱した。


「私が、しぃちゃんに色ある景色を見せてあげる!!」


 中学生のしぃちゃんが、家中に響き渡る声でそう宣言した。





*****







 あれから十年。

 高校生。私としぃちゃんは別々の高校に通っていた。

 しぃちゃんは、なぜか勉強をめっちゃしていたらしく、県でも一番頭のいい大学へ行った。

 そのあと、私は勉強の邪魔をするのは駄目だと思い、しぃちゃんから連絡を取らない限り、私はしぃちゃんに何も連絡しないと心に誓った。

 そして私は、色が見えなくても問題のない漫画家になっていた。

 あまり稼ぎがいいとは言いにくいけど、私にとって、私のような境遇の人に、一番見せたいものは漫画だと結論付けて、高校時代から漫画家になる努力をして、結果、なることができた。


 急に。

 携帯から、電話がかかってきた。

 よくわからない番号……と、思っていたけど、気づく。


「しぃちゃんの携帯番号?」


 よく電話でも話し合っていた私としぃちゃん。だから、気づけた。

 電話に出る。


「も、もしもし?」


「みぃちゃん!! ついに!! 完成したよ!!」


 電話に出て、しぃちゃんはすぐにそう言った。


「何が完成したの?」


「とにかく!! 私の研究所に来てほしいんだよ!!」





*****






 研究所前で、私は十年近く会っていなかった友達に出会う。

 私を見た途端、しぃちゃんは急に抱きついてきた。


「久しぶりに会えてうれしいよーみぃちゃん!!」


「私も嬉しいよ」


 しぃちゃんの感情表現に戸惑うも、よく考えれば子供時代から、こんな感じだった気がする。


「高校のあと大学行ってそのまま研究に没頭したってのは、見た目で分かるんだけど……。しぃちゃん、一体何が完成したの?」


「決まってるじゃん! しぃちゃんにも、彩られた景色が見れる機械が完成したの!!」


「――!! ……本当に?」


「ホント! マジだよマジ。私けっこう有名人になっちゃってるらしいから、みぃちゃんも知ってると思ったんだけどなあ―」


「私漫画になったから、時間取れなくて俗世に疎くなっちゃったんだよね……」


「そうなのー? まあいいや。早く、私の案内する場所までついてきて!!」


 嵐のようにしゃべりだしながら、嵐のようにこの場を過ぎ去り、研究施設内に入ったしぃちゃん。私はそのあとを追う。

 そして、よくわからない扉を開けると巨大な機械があった。

 いや、機械というよりは、部屋がというべきかもしれない。


「みぃちゃん、この扉に入ってくれる?」


「いいわよ」


 扉の中に入る。

 密閉された空間。

 暗い部屋。

 世界がモノクロ。

 否、黒のみ。

 そこに、


「これが、色とりどりの世界だよ! みぃちゃん!!」



 景色が広がる。

 壮大な景色。

 山から見下ろす景色だった。

 色があった。

 赤から何まで、見える。

 白と黒だけの世界ではない。

 世界が、彩られた。

 背景が変わり、飛行機から撮影したのか、海を俯瞰に見える人称に切り替わる。

 海は青かった。

 飛沫にも色があるとしっかり認識できているのが私自身、痛感している。


「どうかなみぃちゃん。ちゃんと色見えてる?」


「み……見えてる、よ」


「良かった。嬉しいよ」


 涙がこぼれているのが分かる。

 なるほど。これが涙の色。透明で、でも、ただ白いだけじゃない。

 色は固定されているというよりは、グラデーションがしっかりとある。私はそれを初めて知った。


「泣くほど嬉しいなんて。作った甲斐があったよ!!」


「す、すごすぎだよ、しぃちゃん……!」


「えへへ。出来ればもっと早く見せたかったんだけどね。なかなかスケジュール通りに行かなくてね……」


「十分――いや、産まれてここまで嬉しいことはなかったよ……。しぃちゃん。ありがとう……!」




*****




 あの出来事のあと。

 しぃちゃんは、眼鏡をかけるだけでカラーに見える世界を作ってくるよと言って、さらに研究を深めると言った。


 私はというと。

 幸せに満ち溢れていた。

 見れないと思った景色が、見れた。

 これほど幸福なことはない。

 色を知れた。

 それは、本来ではなかったこと。できなかったはずだったこと。

 でも、しぃちゃんはやってのけた。

 私はそのことが嬉しかった。

 私はあの日を一生忘れることはない。

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