8月1日 二
次に機材についてだ。
報告会の時には機材の確保ができていなかったのだが、あの後、多くのOBから機材について声を多くかけてもらった。これから多くの会社をしらみつぶしに回ってカメラや何やらを提供してもらおうと思っていて、気が引けていた中に渡りに船を得るというやつだった。
特に、某有名電気機器メーカーに勤めている窪田さんにはえらく気に入ってもらえたようで、カメラに加えて固定用の脚立、懐中電灯、電池など、探検に必要なものを提供してくれた。
見返りは60枚以上のカメラ撮影。要するにそんなこと気にしなくていいから思う存分楽しんでこいということなのだろう。太っ腹が過ぎる。
・・・ここまで面白いほどに話が進んでいって、いささか気持ちが悪かった。
21年間しか生きていない私であるが、経験則から、良いことが立て続けに起こると待ってましたと言わんばかりに悪いことが立て続けに起こることをなんとなく感じていた。
しかし、意に反して自体は良い方へ良い方へと進んでいく。
その一つとしてメンバーが早々に決まったことが良かった。
私と田畑と笹中に続いて、3年の山西、千住、2年の大岡、加藤、1年の木村が探検に加わる事になった。
今回サマクンラに行かないメンバーは日本で待機という事になるが、サマクンラプロジェクト成功に向けて、同行しないメンバーも情報収集やあらゆる可能性の話に付き合ってくれた。
下級生たちも今回のプロジェクトが今までのものとはわけが違うことをだんだんとわかってきて、何かできることはないかとそわそわしていた。下級生諸君、ほんとはこんな馬鹿馬鹿しいことに付き合わなくて良いんだよ。強いて言うなら、同じ一年生で参加する笹中と木村を励ましてほしい。
それに、私たちが行おうとすることを見ていてほしい。口には出さないけどそう思った。
3月に私と田畑二人でキアナ公国に事前観察をしに行ったのも良かった。
勉学、資金確保のためのバイト、打ち合わせ、そうこうするうちに新学期は始まっていて、新入生も入ってきた。今年はサークルの宣伝広告に大々的にサマクンラへの探検予定を書き記した。その広告が功を指したのか、マニアックなやばい新入生が加わって、サークルは賑やかになった。
こんな書き方をすると、この後に待っているのは大抵打ちのめされるイベントがやってくるのだが、あいにくな事に、少々のトラブルはあったものの、企画自体の中止や方向転換もなく進んでいった。
・・・大雑把に内容を書いてみたが、我ながらとても順調で今でも信じられない。
上手くいっている。上手く生き過ぎている。
持っている人だったらたびに出る前になんらかのとんでもイベントが待ち構えていて、それを乗り越えて一歩成長した段階で旅立つのだろう。
・・・いや、どこかでそんなイベントを期待していた自分がいたのかもしれない。
ここまで難なくこれてきてしまって味気ない。
日にちが進むごとに始まりがくる緊張は募るし、同時にワクワクとした期待も膨らんできてはいるのだが、何か足りない。
夢を見過ぎていたのか。
私は謎に包まれている存在に憧れ、未知に惹かれ、今、ありえるかもしれないカルデラに挑もうとしている。贅沢が過ぎているのか。
どうにもファンタジーの見過ぎのようで、たびが始まる前に様々な困難が待ち構えていると思っていた。なんなら、謎の組織との接触、なんて妄想にふけていた。意外と未知というのは少し頑張ればたどり着けてしまうのかもしれない。たびに対する不安に、違う側面の不安が入り混じるようになった。
こんな内容を書いていたら少ししらけてきた。いや、今まで没頭し過ぎていたのかもしれない。とにかく、明後日には成田空港からイタリアを経由してキアナ公国に参る。準備は全てすんだ。何が待ち受けていようが、私はありのままを書き記したい。それが探検というものだ。