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火曜日の朝

作者: ふふ

朝はいつもコーヒーメーカーのスイッチを入れることから始まる。気づいたら11月になっていた。21歳になった秋。大学3年生、就活、口座残高、ゼミの課題、バイト、今日の昼食。いろんな不安や憂鬱が生まれては消えていく。消えていった彼らは一体どこに向かうのだろうか。彼らが頭の中に残した倦怠感だけがまるで彼らの存在証明のように残っている。その冷えきった温かさに動かされて、僕はゆっくりとコーヒーを飲み出した。

 大学進学のために上京したのは2017年の3月。1人暮らしも32ヶ月。これだけの時間が経っても慣れるのは音がしない部屋の空気だけだ。寂しさには慣れなかった。1人。独り。ひとり。心地のいいような悪いようななんともいえない音だと思う。その間にできた彼女は3人、好きでもない女と寝たこともあった。気づいたら誰かと一緒に寝ることには飽きてしまっていた。僕は飽き性なのだろうか。きっとそんなことはない。ただ本当は拾わなかったものを取りこぼしてしまったのだ。

 音がならないように設定していたスマートフォンを開いてみる。10時22分。登録した覚えのない就活サイトからのメールと機械から送られてきたラインのメッセージが通知されている。それらを確認することもなく、僕はTwitterを開いた。フォロー30人もいないアカウントである。しかし僕はこれで十分だった。本当に大事にしたい人間なんて本来30人でも多いはずだ。ネット社会の発達で世界は大きくなりすぎた。だからこそ多くの人間が自分の見たい情報だけを見るようになった。綺麗な因果関係だと思う。

 最近周りの同期たちは就活のことで話がいっぱいである。多くの知り合いたちが公務員だ、大企業だと色めきたっている。そんな彼らを見ていると、なんだか日本が成長しない理由が分かる気がする。本来公務員は国のため、大企業はその会社のために働くべきではないのだろうか。彼らが欲しているのは自分の安定と社会的地位である。この滑稽な矛盾で成り立つ就職で果たしてこの国が良くなっていくのだろうか。捻くれていると自分でも思う。ただ彼らみたいにはなりたくないとも思う。これこそ滑稽な矛盾だ。

 今日は1週間に1日しかいないバイトも大学もない火曜日である。昨日の夜はベットの上で何をしようかと楽しみにしていたが結局今日になってしまうと何もしない。毎週似たような火曜日。いつもの火曜日。耳をすましてみると外ではどうやら雨が降っているようである。僕は雨を理由に今日の自分を正当化する。Instagramを開くとキラキラした写真がたくさん投稿されていた。僕はそれを一通り見ると、スマートフォンを机の上に置き、こたつの中に潜り込んだ。

 たまに小説と評論の違いがよく分からなくなる。夏目漱石の書いた小説のほとんどが評論の気がしてくる。小説にも何らかの主張があり、それを伝えるための手段が虚構なだけではないか。そう考えるとどこに評論との違いがあるのか本当に分からなくなるのである。考えてもどうしようもないことを考えてしまう。これはきっと悪い癖だ。だけど僕はこれを大切にしている。ようするに自分が複雑な人間であり、人とはちがうと思い込みたいのだ。しかし同じような人なんかどこにでもいる。本来は気づかないものだったかもしれないが、Twitterで検索すればどこにでもいることが分かってしまう。世界は小さくなったのかもしれない。また矛盾している。スマートフォンが呼んでいる。僕はそれを手に取り電話に出る。不安や憂鬱が消えていく。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この作品そのものが評論のような小説だったので、作品内で自己言及しているようで興味深かったです。 同じような人がいるというのは確かだと思います。ただ一方で、私自身は作者さまとは似ていない人間…
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