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ザッピング  作者: 青井星二
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ザッピング


                    4


 頭蓋骨を切開する手術を、今ここでやろうだなんて。ザーラのやつ、何を考えているんだ?

「おカネは掛からんし、全身麻酔を掛けて大手術だなんて、我々の星じゃ、三百年前の話だわ」

「え?全身麻酔しないの? あなたの星じゃどうやって手術をしているの? だいたいここには点滴もないし」

「今は野蛮な大手術はせんと、横になって、この大きなヘルメットを被るだけ」

 ザーラは圧力釜みたいな銀色のヘルメットを取り出した。

「こんなヘルメットで、どうやって手術なんかするの? メスなんて付いてない!」

「内蔵されているんだがね。ヘルメットの中から出てくる全自動小型レーザーメスで切って、勝手にセットしてくれるがね」

「ヘルメットからメスが飛び出してくるの? 大丈夫なの? それ!」

「さぁ、ここに横たわって、これを被るがね!」

 なんか襲われそうで、怖いなぁ。

「ヘルメットを被る手術なんて聞いたことがないわよ。もう。どうする気?」

 躊躇(ためら)う私を、部屋の中央の畳一畳ぐらいの台に寝かせて、ポンとヘルメットを被せた。

 その瞬間、頭の中が真っ白になった。

「はい、できあがり。もうインプラントがセットされたわ」

 麻酔を掛けられたのかな?

 全然わからないうちにザーラは、さっさとヘルメットを片付けて私を立たせた。

「え? これで手術は終わりなの? で、どうやってタイムリープをするのかしら?」

「では、使い方の説明だ。まず、目を閉じて『ザッピング・オープン』と唱えなせゃー。(まぶた)の裏に画面が現れる」

 ホントかな。ザーラに言われるがままに、とにかく目を閉じてみた。

「ザッピング・オープン!」

 すると、どうだろう。目を閉じているのに、大きなタブレットを横にしたような画面が目の前に現れた。

 しかも、ザーラの銀色の全身タイツを穿いた姿がアップで映っている。

 画面の下には、右に尖った部分のある小さな三角形。

 その横には、数字が見えた。

 2018:8:21:17:14って、あれ? 今日の日付と時間じゃん。

「今日の日付らしき数字が出てきたわよ。それでどうするの?」

「次に日付を指でドラッグして、君のご両親が最初に紫の染みを付けてきた日付と時間をセットして」

 指でドラッグ?

 手を伸ばすと、バーチャル映像っぽい、私の手が画面の上に現れた。試しに日付を右にドラッグしてみた。

 ブッブー! ブザーが鳴り、画面が赤く点滅した。

「右は、未来の方向だ。インプラントのザッピングには未来に行く機能は、にゃーから、エラーになる。ドラッグするなら、左だがね」

 え? そうなの? 初めて見る装置だもんな。最初からスムーズにはいかないか。

「左にドラッグね。やってみるわ」

 左にドラッグしてみた。数字が一つ減る。すると、画面に映し出されたものは頭に角ができたダディだった。

「あと六日さかのぼる。時間もドラッグして」

「二十一日から六日前? ええっと、暗算は苦手なんだよな」

 指を折り始めた私に、ザーラが苛立つ。

「これだで、たわけ娘は、つきゃーせんよ。二十一日の六日前は十五日でしょうが。それぐりゃーの暗算は〇・五秒以内にやらな」

 またバカにされて、今度は私がキレた。

「うるさいわ。この全身タイツ。計算が遅ぇのは、生まれつきだよ!」

「また、全身テャーツっていう!」

 顔をサーモンピンクにして口を尖らし、不満げな態度を取るザーラを尻目に、日付を直す。

 2018:8:15。

 次は時間か。朝七時半頃だったから、7:30にセット。

「時間はセットしたわよ。あと、どうするの?」

「画面に、頭から飛び込む。すると、セットした時間と場所にテャーム・リープできる」

「エラーになったら、どうするわけ?」

「もし、テャーム・リープして上手ういかなんだ場合は時間をセットし直いてから、画面を指でドラッグする。すると、パラレル・ワールドに移行する」

「別の結末が待つ世界に行ける、ってこと?」

「その通り。テレビを観とってつまらなけりゃ、リモコン・ボタンを押して、チャンネルを替える」

「え? 別の世界って、テレビ番組みたいなものなの?」

「まぁな。チャンネルをどんどん替えるのを《ザッピング》と呼ぶだろう?

「なんかネット用語できいたことがあるわね」

「画面をドラッグするごとに、タイム・リープする先を別のパラレル・ワールドに替えられる。テレビのチャンネルみたいにどんどん替えられるから、ザッピング・システムっていうんだ」

 怒りが収まってきたザーラの説明は、淡々として落ち着いた口調になってきた。

 だけど目がキラキラして、どこか嬉しそうだ。もしかして、発明者なのかな?

「もしかしてザーラって、そのザッピングシステムを発明した人?」

「私が発明したわけではないけど、インプラント開発者の一人ではあったな」

「凄い! ザーラって、ホントに科学者だったんだ」

 鼻をヒクヒクさせて、ちょっと後に反り返っている。

 どや顔なんだよな。

「感心ばかりしてないで、早く飛び込みなさい! ご両親を助けたいんだろう?」

 ザーラに急かされて、私は画面に思いっきりジャンプして飛び込んだ。

 とたんに辺りが真っ暗になり、ブーンという不思議な音がした。



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