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ザッピング  作者: 青井星二
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ザッピング


                    3


「紫色の染みは取れたわよ。それで、これから後、どうするの?」

 ザーラは、いきなり、うちのダディとマミーに紫の染みがついた日の詳しい経緯を聞いてきた。

「君のご両親の頭に紫色の染みがついたのは、いつ頃だったかな? そんなに昔の話ではないよね?」

「一週間前。そのときから何だか、ぼうっとしちゃってね。注文は間違えるし、コーヒーの味が変になったの。作り直すの、大変だったのよ」

「なるほど。ちょうど胞子弾を破壊したときとタイミングが合っている」

「一週間前に何があったの? それに何なの? 胞子弾って」

「冬人夏草の繁殖で滅びかけた星の人たちは、漂白剤と水虫薬が、猛毒でね。製造が禁止されていたから、生き残った人たちは全員に紫外線を照射するし、そこいら中を焼き払うし、大変だったんだ。彼らは胞子を採取して爆弾を作った」

 え、人間をゾンビにするキノコって兵器だったの?

 私は驚いた。

「まさか、よその星を侵略するのに使った、とか?」

「冴えてるね。その通りだよ。立っているのも何だから座りたまえ。よその星に胞子弾を撃ち込んでゾンビだらけにしたところで、その星を焼き払ってコロニーを作る焼き畑作戦という、とんでもない悪さをやった」

 私は席を勧められて、テーブルの前の背の高い椅子に腰掛けた。

 ずいぶん、たわけ娘って虚仮(こけ)にされたけど、たまにはザーラも人を褒めるのね。

 よその星を侵略して自分のものにするだけでも(ひど)いのに、私たちの地球まで狙ってきたとはね。

「私だって、人を褒めるさ。別に、君の悪口をいうために地球に来たわけじゃ、ないからね」

「じゃぁ、何しに地球くんだりまで来たのよ?」

「ただ、胞子弾という危機から君たちを救いたいだけだ。実際に滅ぼされた星も、あるからね」

 なにやら怒りが込み上げてきて、頭の中が熱くなるのを感じた。

「地球にも撃ち込まれたわけね! (ひど)い」

 思わず目の前のデスクを拳でどんと叩いてしまった。

「地上に落下する前に、レーザー砲で破壊した。だが、残念ながら、胞子の一部が地上に到達した。我々の試算では、横浜市民の三人に掛かったはずだ」

「そのうち二人が、ダディとマミーだったってこと?」

「そのとおり。君のご両親だった。あと一人は、探さなくてはならない。居場所は、ここからそう離れては、いないと思うよ」

「ダディとマミーは、漂白剤か水虫薬を掛けると、戻るの?」

「残念ながら、手遅れだ。その方法は、染みが頭についてぼうっとしている潜伏期間のみ有効で、ゾンビになって胞子を撒き散らしたら、街ごと焼き払うしか対応策がない」

 ザーラは淡々と話していた。

 でも、胞子弾を撃ち込むエイリアンの話をするときの目は怒りを含んでいるのか、どんどん鋭くなっていった。

 科学者だと名乗っていたけどエイリアンとの戦いをずっと繰り返してきた戦士でもあるのかもしれない。

 それにしてもダディもマミーも、もうおしまいなのか?

 助かるすべは、ないのだろうか。

 二人の悲惨な末路を思うと胸が込み上げてきた。

「え! やだぁ、ダディとマミーを殺さないでよ!」

 私の両目からポロポロと涙が(こぼ)れた。

「泣き虫だねェ。方法は、まだある。我々が乗るような宇宙船を君たちはUFOと呼ぶんだろう。UFOは、よその星に行く機能しかないと思っているのかね?」

「よその星以外だとしたら、亜空間とか、霊界とか、過去とか未来とか? わかんないよ、そんなこと」

「過去と未来だよ。私たちは普通は、三次元空間に住んでいる。三次元の物体は、X軸、Y軸、Z軸で表現できるが、四次元、五次元など多次元の世界ではα軸、β軸、γ軸などがある。それらの座標を全て指定すると、過去にも未来にも飛ぶことができる」

 数学嫌いの私に、それをいうか。

 もう全然わけがわからない。

 頭の中が真っ白になった私にザーラは続けた。

「とにかくUFOは座標軸の指定により、遠い星だけではなく、過去や未来に行く機能も付いている」

「何だか複雑なシステムね。つまり、UFOはタイムマシンと宇宙船を兼ねているってことね」

「地球の運命をあまり賢明とはいえない君に任せるのはかなり不安だが、君のミッションは、過去に遡って、ご両親の頭に漂白剤か水虫軟膏をつけて胞子を消すことだ」

「何よ、偉そうに! 賢明じゃないとか、バカにして! 全身タイツ」

「あ、また全身テャーツっていう。ホント、性格の悪い子だがね」

 ムッと来たザーラの顔が、またサーモンピンクになった。

「あのさ。人にものを頼むのに、偉そうなのよ。ザーラさん。だいたいさ、自分で行けばいいじゃんよ。過去でもなんでも」

「そんな気安く言って、あんたが全身テャーツっていうこの格好でUFOに乗って、あんたの両親の前に現れたら、どうなるのわ。大騒ぎになるでね、それだで、あんたに頼むんでしょうが」

「でも、私には過去に行ける機能なんて、ついてないわ」

「そこでだがね! アンタの頭の中にザッピングっていうインプラントを埋め込んで過去へ、テャーム・リープできるようにするんだがね」

「ええ~? インプラントを脳に埋めるの? そんな大変な手術を、ここでやるわけ? 失敗したら、どうするのよ! おカネだって掛かるでしょ? 嫌よ!」


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