ザッピング
18
コスモワールドの中の道を歩きながら、折角のファースト・キスが下手すぎた大失敗を舜くんに謝った。
「ゴメンね! 舜くん。キスなんて初めてだから、訳がわからなくて人工呼吸みたいな変なキスしちゃった!」
謝りながら、頬がカッカと火照るのを感じていた。
さっきからずっと顔は茹でダコ状態だろうな。
舜くんは不機嫌になるどころか、ニコニコしていた。
「いいんだよ、詩織ちゃん。キスが最初から上手な人なんて、いないよ」
「怒ってないの?」
私は舜くんの顔を覗き込んだ。
「俺は、寧ろ嬉しかったよ。だって二股、三股かけてない事実が、ハッキリしたもん」
「そうなの? てっきり気持ち悪がられたと思ったわよ」
舜くんは一年生のときを回想していた。
「高校の入学式でスッゴいタイプの子がいてさ、探し回ってアタックした」
「それって、私のことなの?」
「そうだよ。詩織ちゃんって読者モデルまでやってるし、ミス那由多高校だし、遊んでいるかもな。二股かけているかもなって、ずっと不安でさ」
タイムリープ前の漂白剤を掛けたときと、一つ目のパラレルワールドでべたべた水虫薬を塗ったときだった。
凄いキレかたをしたよね。
理由が分かった気がした。
「私だって、告白してきた男子が思いっきり好みだったから、直ぐにOKしたんだよ。他の人に浮気なんかしないわよ」
「よかった! ホントに一年生の新学期にお互いに好みのタイプの人に出逢えた訳だ」
「分かったでしょ! 私だって舜くん以外の男子なんか興味ないもん」
舜くんは自分の胸を指して付け加えた。
「今さ、サイコーの気分なんだよ。だって俺の胸の中は詩織ちゃんの愛でいっぱいだし、詩織ちゃんの胸の中だって、俺の愛でいっぱいなんだからさ」
感動して舜くんの肩に思わず抱きついちゃった。
「舜くん、サイコー!」
「よせよ、恥ずかしいじゃん! 回りの人が見ているって」
慌てて舜くんの肩から離れた。
「ところで、ここまで来る電車代と大観覧車のアトラクション料金って、どうしたの?」
正気を取り戻した舜くんが聞いてきた。
「私が出したわよ。バイト代を貯めたへそくりを使ってね」
「まだ、少し残っているんだろう? 残りのお金は、次のデート用に、とっときな」
「あら、そう? で、もう帰る?」
「いや、折角コスモワールドまで来たのに、大観覧車だけで帰っちゃうのは勿体ないよ」
「それもそうね。で、どうする?」
「まだ、日暮れまでには時間があるから、もう二つか三つ、アトラクションで遊んでから帰ろうよ。俺が奢るからさ」
やっぱ大観覧車だけで終わりにするのは勿体ないか。
それに、舜くんがこのまま帰るのは寂しいんだろうな。
即座にOKして次に何に乗るか決めるために園内をゆっくり歩いて回った。
スピニング・コースターは・ヘアピンカーブだらけだ。
見ているだけで酔いそうだからパス!
迷った末にダイビング・コースターと新・幽霊堂にした。
料金はダイビング・コースターが一人七百円、新・幽霊堂が一人六百円で二人で合計二千六百円だった。
「ちょっと待って。二千三百円分の回数券は二千円なんだ。これにバラの百円券三枚なら三百円安いよ!」
舜くんが切符売り場で即座に計算した。
さすが理系男子!
「計算、早っ!」
私が驚いていると舜くんは、どや顔になった。
「子供のとき、算盤やっててさ。珠算三級なんだぜ。これぐらい普通だろ?」
はいはい。私は計算は苦手ですよ~だ。
アタシはちょっと膨れて見せた。
瞬くんはにっこり笑ってアタシの手を引いた。
「さ、切符は買ったし、さっさと乗ろうぜ。日暮れ前までにさ」
ダイビング・コースターは池に飛び込んじゃうジェット・コースターだ。
実際には池の水面スレスレにトンネルの入口があるだけだけど、水飛沫もしっかり飛んでくる。
たっぷりキャーキャー叫んだあとは新・幽霊館ヘ。
ここは恐怖を三段階で選べるので、マックスの人魂三つをチョイス。
鳥籠のようなライドでお化け屋敷を突き進む。
ギャア~~! って声があっちこっちから聞こえてくる。
マネキンみたいな幽霊人形の首がピョ~ンって飛んだりするんだけど、私には怖くなかった。
なんか作り物っぽくってさ。
こちとら、ダディとマミーが変身したゾンビに殺されかけたし。
あれに比べりゃ、ライド式お化け屋敷日本最恐なんて前評判は大したことがない。
それよりも舜くんに手をギュッと握られて嬉しい。
出てきたら、舜くんったら、真っ青。
「詩織ちゃん、怖くないの? ずっとニコニコしててさぁ」
ゾンビ事件の体験なんか口にしたら、信じてもらえない。
ほぼ確実にドン引きされそうだから、しっかりリップ・サービスしてやった。
「私は舜くんがそばにいてくれるから、ちっとも怖くなかったわ!」
「そう? 俺はスッゲービビったんだけど」
怖がりねぇ。そういう舜くんって、可愛い!
帰る前にゲーム・コーナーに寄った。
UFOキャッチャーを見つけた舜くんは、前と横を何度も見て百円玉を入れた。
「これは取れるよ。ぬいぐるみが適当に空間を作って配置されているからね」
「ダメな場合って、どんなの?」
「ぬいぐるみが、ぎっちぎちに詰め込まれているか、やたらにデカいか、ラジコンとか、フィギュアとかなんか豪華そうな景品が入っているときだね」
やり慣れているのか? 舜くん!
一応、そういうケースだとどうなるか、聞いてみる。
「そういうときって、どうして取れないの?」
「ぎっちぎちのぬいぐるみだと、アームが入らない。景品がむやみにデカかったり、豪華だったりした場合はアームのバネが緩くしてあったり、酷いときは外されていたりだね。掴んでも、スルッと抜けちゃうんだ」
「それって、いくらお金を入れても取れないじゃん。ニュースになった詐欺ゲーセンじゃないの?」
「そうだよ。でも、取るヤツは取るんだよ。アームで、ちょっとずつ押したり、引きずったりして、ゴールに持ってく。俺は、そんなテクはないから、やらないけどね」
話しているうちに、舜くんは十二、三センチばかりのアニメ・キャラっぽいぬいぐるみ一つをゲットした。
「はい、これはファースト・キスの記念品」
舜くんが手渡してくれたぬいぐるみの顔は、どことなく舜くんに似ていた。
「これさ、顔がなんか舜くんに似ているわ。カバンにお守りがわりに付けてもいいかしら?」
舜くんは照れ臭そうに笑った。
「え? 舜くん人形とか呼んで、ぶら下げるの? なんか恥ずかしいな。でも、いいよ。いつも詩織ちゃんといられるんだもんな。俺の分身がさ」
カバンにぬいぐるみをしまうと、二人で手を繋いで桜木町から横浜に出た。
私は京急で南へ、舜くんは東横線で北へ。
ここでお別れだ。
バイバイと手を降って電車に乗った。
まだ舜くんの息の感触が頬の内側に残ってる。舜くんもだろうな。
こうして私は、ファースト・キスをした上にダディ、マミー、舜くんの三人の冬人夏草胞子除去に成功した。
ザーラに要求された地球救済ミッションを達成したのだ。今度また全身タイツのザーラに会ったら、バカ娘なんてケチをつけさせないぞ! 地球に平和な日常が戻ったんだから。




