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僕とギターとあの子と、そしてセカイ  作者: イーグル
2章 僕とギターと友達
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三人の会話

「うん、ストロークもいい感じ。譜面見た感じだと、この曲は難しいコードもないから、あとは手の動きさえ覚えられれば弾けるようになると思うよ」


「そうか、赤月、ありがとう」


「いや、飲み込み早いよ」


「俺の才能全開になっちまったか」


「間違いないね」


 僕は笑う。


「だろ」


 海藤もつられて笑う。


「あれ、二人ともいつの間にそんな仲良くなったの?」


 一人でスマホをいじっていた竹下が不思議そうに言う。


 金曜日。この一週間、僕は海藤の練習に毎日遅くまで付き合っていた。

 初めは会話も事務的なものばかりだったが、彼もブリティッシュロックに詳しいことがわかってからは話すことも増えていった。

 何より、彼は僕の言うことひとつひとつを真剣に聞き練習に取り組んでいたので、僕もまた真剣に向き合った結果なのだった。


「いや、今までは話しにくいやつだって思ってたけど、話して見たら意外といいやつだったよ赤月は」


「失礼な、海藤だって僕を睨みつけてたじゃないか」


「これはもともとだっての」


「へー、蓮、そんなに真剣なんだー。珍しいね」


「お前がやる気なさすぎるんだよ、雪」


「えー、だって指痛いんだもーん」


「そんくらいすぐ慣れる」


 今、この部室には僕ら三人だけしかいなかった。僕は下の名前で呼び合う彼らに疑問を持ったので聞いて見た。


「二人も仲よさそうだね?」


「あ? ああ、俺、こいつと小学校から一緒なんだよ。家も近所で。小中高と全部クラスまで同じ」


「おいこら、こいつって言うな」


「そうなんだ……」


 彼らとは数ヶ月同じ部活だったが、僕はそんなことも知らなかったようだ。もっとも、これまではほとんど会話もしていなかったのだから当然だけれど。


「つーか山田先輩も桐川もいないのに、お前は何でいんの」


「別にー。蓮をからかおうかなって思っただけですー」


「あのなぁ……」


「きゃー怖い! 殺人鬼の目だ!」


「だからこの目はもともとだっての」


「ふっ、ははは」


 思わず僕は笑い出してしまう。


「へー、赤月くん、笑うと結構可愛いんだねー」


 驚いたように竹下が言う。


「そ、そうかな……」


 不意のことに照れてしまう。


「お前、近寄んなオーラ出してる割りには話してみると普通だよな」


 近寄るなオーラか。同じことを桐川にも言われたな……。


「私も練習しよっかな、ギター」


「お前は歌上手いんだし音感あるんじゃねえの」


「えへへーそうかなー」


「大体なんでわざわざギター部入ってきたのにモチベそんな低いんだよ」


「だからこんなに痛いとは思わなかったんだってー」


 そういえば、竹下は部活に入ってきたのは一番最近だ。それまでは特に部活もやってなかったらしい。


「そうだ赤月。明日こいつと一緒にカラオケ行くんだけどお前もどうだ?」


「え、僕が? い、いや、邪魔だろうしやめとくよ」


 僕は反射的に断る。部活の同期と休日に遊びに行くなんて考えもしてなかった。


「邪魔なわけねえじゃん、なあ?」


「う、うん……」


 竹下はやや詰まりながら答える。


「いやあ、でも……」


「いいじゃん。弾き語りでやってみるから聞いてくれよ」


「わ、わかった……」


「お、頼んだぜ」


 なぜか楽しげな海藤を尻目に、そうっと竹下の顔を伺ってみると、どこか浮かない、思いつめたようだった。

 なんだかやはり断った方がいい気がする……。


「私、塾行かなきゃだからそろそろ帰るね。赤月くんもまた明日」


 僕がどうしようか迷っているうちに、彼女は立ち上がるとすぐに帰ってしまった。

 すると、部屋の外から会話が聞こえた。


「きゃっ」


「おっと危ない、雪ちゃんもう帰るの?」


「うん、塾だから。せんせーと入れ違いになっちゃった」


「あれ? 泣いてる?」


「こ、これはあくびしただけ! バイバイ、ルミせんせー」


「うん、気をつけてねー」



 その数秒後、藤原先生が入ってくる。


「ありゃ、男の子だけか……」


「ちょうどよかった、せんせーにも俺の演奏見て欲しいんだけど」


「オーケーオーケー」


 そういって彼女は女子たちがいつも座っている小さなベンチに腰掛けた。いつもと違い髪を下ろしていて、それは思ったより長くて肩の下にまでかかっていた。


「唯ちゃんはあんまり部活に来ないんだね?」


 彼女が言う。


「桐川? 確かに今週は見てないっすね」


「いつもはもっと来るの?」


「大体週2くらいかな、そんでテキトーに女子たちと話して帰って行きますよ、なあ?」


 海藤は僕の方を向いて同意を求めてきたので、僕は頷く。


「ふむふむ、つまり、雪ちゃんや莉子ちゃんと仲が良いってことだね?」


「部活ではそっすね、クラス内のことは赤月の方が詳しいんじゃねーの?」


「い、いやあ、あんまりわかんないかな……」


 実際、彼女がクラス内で誰かと仲良さげにしているイメージはない。もちろん、僕はそういうことに基本的に疎いのだが。


「てかなんでそんな桐川のことばっか?」


「なんか妹みたいで可愛いじゃない?」


 藤原先生が即座に返答する。

 僕に最近起こった異変、こんな変な時期の教育実習……。


「桐川がなにか特別だから……とか?」


 僕はボソッと呟く。桐川は特別。彼女には何かがある。

 あの屈託のない笑顔が可愛らしい普通の女子高生。しかし、僕はあの日目撃したのだ。『異常』を。


「私にとって可愛い教え子はみんな特別だよ、赤月くんも勿論」


 先ほどと変わらぬトーンで藤原先生が答える。しかし、その美麗な表情には影があったような気がした。





 それ以降は三人で部活動を行った。確かに、経験者なだけあって先生の耳は優れていて、僕の演奏でも細かい音ズレを指摘してくれた。

 そんなこんなで日が暮れるまで僕らはギターを弾いた。


「せんせーは弾かないの?」


 海藤が聞く。確かに、彼女は僕や海藤にアドバイスをくれるばかりで、自分で弾こうとはしなかった。


「私は自分のギターしか弾かないのよ、持ってきてないしね。それに、ちょっと特別なの」


「ふーん……」


「にしても、海藤くんはえらく本気なんだねー。なんでかな?」


「ま、まあやるからには自信持ってやりたいじゃないすか」


 先生の質問に海藤が歯切れ悪く答える。


「本当にそれだけかなー。先生疑っちゃうなー」


「ははは、それだけっすよ」


 先生はなぜか僕の方を向いて意味深なウインクをして来る。


「俺、先に部室でてるわ。外で待ってる」


 そういって海藤はドアの方まで行った。


「赤月くん、ありゃ女だわ、22年生きてきた私にはわかる」


「女じゃねーから!」


 外まで聞こえてたらしく、海藤の反論が聞こえて来る。

 彼女は再び僕にウインクする。どうも美人のウインクにはドキッとしてしまう。

 その時、下校を告げるチャイムが鳴る。僕ら三人は鍵を職員室まで返しに行った。

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