ラブミードゥー
学校、家、友人。
何も変わらない。
毎日は、まるで分厚い教科書のようだ。
確かに一つ一つめくられていくが中身はいたって退屈で、終わりが見えることなんてない。
僕にとってはこれが当たり前で、そしてこれからもきっとそう。
同じ高校の生徒で溢れた通学路。最寄りの駅から歩いて15分。その道中はまさしくハイキングであり、この季節は道端に落ちた銀杏が広く強く異臭を放つ。
薄い靴下の足先が冷えているのがわかる。鼻水がずり落ちる寸前に思い切り鼻をすする。
僕はぐるぐるに巻いたマフラーに顔を埋めて、ビートルズを聞きながら歩いていた。
銀杏が植えられた林に隣接する狭い歩道を黙って歩く。
朝から大きな声で話しながら登校する男四人がふざけて小走りしながら僕を抜かしていく。彼らのうちの一人が持つ黒いボストンバッグ、おそらくバスケ部のカバンが僕の腰あたりに当たる。
「あっ」
カバンの持ち主は、そのニキビだらけの面を僕に向けた。しかし、すぐに目をそらして残りの仲間を追いかけていく。
彼にとっては僕にカバンなんか当たらなかったということなのだ。そんな僕のすぐ隣を長い黒髪の女の子が自転車で駆け抜けていく。僕はそんな彼女の背中を見ながら白い白い息を空中に吐いた。
そんな吐息は、少しためらいを見せたように漂ったあと、消えて行った。
何も変わることなんてない。
少し歩くと丘の上にそびえる大きな校舎が見えてくる。濁った白を基調とした無機質なその佇まいは、僕にとっては、抑圧的で傲慢で退屈の象徴だった。
この街はいつだって退屈で、クラスメイトもみんなつまらない話ばかり。SNSもネットもテレビもソーシャルゲームも全部、僕にはわからない。興味が持てない。そんなくだらないことに時間を費やしたら虚しくなるに決まっているじゃないか。
親も教師も、勉強をして良い大学へ行けと、馬鹿の一つ覚えだ。大学に行ったからってなんだっていうんだ。彼らも何もわかってない。
なんとなく学校に行き、なんとなく友達と話し、なんとなく勉強や部活をして終わっていく毎日。そうしてたどり着くのがあの大人たち……。
街ですれ違う大人たちの顔を、僕たちは見て見ぬ振りをしているのかもしれない。朝はせかせかと電車に乗り込み、夜はぐったりとした様子で腑抜けている。繁華街に行けば、まるで酒があるから楽しいのだと言い聞かせているかのように、無理やり騒いでいる。犯罪を犯すのはいつも必ず大人たちだ。無自覚な絶望を抱えるものたち。大人になるということは、きっと緩やかな死が始まるということ……。凡庸な日々を消化した先に待ち受けるのは、そんな死に他ならない。
僕は、違う。僕だけは特別なはずだ。
僕と、このアコースティックギターだけは。