エピローグⅢ
七月六日午後二時、別のゲーセンには木曾アスナの姿があった。
彼女はセンターモニターでライブ中継を見ているだけに見えるのだが、プレイするタイミングを考えているのかもしれない。
(ヒーローブレイカーの再開は、まだか――)
時期としては七月中とはサイトに書かれていたような気もするが、はっきりはしていなかった。
作品が作品なだけに何か事情を抱えているのかもしれない。
(どちらにしても、これが再びネット炎上と言う新たな争いの火種にならなければいいのだが――)
思う個所はあるのだが、彼女はそのままアルストロメリアに残留。別ゲームで上位プレイヤーに迫る成績を残している。
それ以外にもバーチャルコスプレイヤーとしても活躍をしているようだが、他のメンバーには話していない様子。
「誰かと思ったら――」
センターモニターを見ていた木曾に声をかけてきたのは、何と秋月千早である。
最近は照月アスカとは行動を共にしていない事もあったが、それはプレイしているゲームに若干の違いがある事が影響していた。
「そう言えば、秋月はヒーローブレイカーには復帰するの?」
「噂に釣られるようでは、まだまだよ。正確なソースがなきゃ」
木曾の話を聞いても、秋月はまだ疑っている様子。
ヒーローブレイカーの復活はネット上でも拡散しているが、秋月は公式コメントがないのを理由に発言を避けていた。
七月七日午前十一時、草加市限定ではあるのだが一部エリアのみ稼働していたヒーローブレイカーが稼働をしている。
この光景を見たプレイヤーは驚きの声をあげるのだが、草加市内限定と言う箇所に引っかかっている様子でもあった。
「遂に動き出すか――」
この様子を他プレイヤーのライブ映像で確認していたのは、アサシン・イカヅチである。
彼の場合は既に別のFPSをメインに戻しており、アルストロメリアは既に抜けていた。
「だが、これは待ち望んだような展開ではない。今は様子を見るべきか」
そして、イカヅチはゲーセンに置かれているFPSの筺体へと移動を始める。
現状のヒーローブレイカーには魅力がないという訳ではなく、時間を待つべきという判断だろうか。
同時刻、イカヅチとは違うゲーセンでヒーローブレイカーをプレイしている人物がいた。
その人物とは、何とビスマルクである。現在、彼女はアルテミシアからアルストロメリアへとチームを変更し、他のゲームで活躍をしていた。
(さすがと言うべきか、もしくは――)
センターモニターでビスマルクのプレイを見ているのは、天津風唯である。
彼女がビスマルクを誘った訳ではないアルストロメリアへの参戦は、ビスマルク自身が決めた事なのだ。
(これが、新たなる始まりになるのか? それとも、新たな火種になるのか?)
天津風はビスマルクのプレイに驚きつつも、彼女の挙動のひとつひとつを確認している。
彼女の参戦は、ある意味でもアルストロメリアを変える可能性を秘めていたからだ。
(今は、センチュリオンの動向と共に見極めるべきか)
ビスマルクの動向以外にも、もう一人、見極めるべき人物がいたのである。
彼女の名はセンチュリオン。ヒーローブレイカーの一件が全て終わってからは、ネット上でも噂は聞かれなくなった。
もしかして、彼女は引退したのでは――様々な憶測がネット上に拡散されるが、それらは全て真実とは言い難い偽情報であり、パリピ勢力の罠でもある。