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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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24-4

 激戦は、決着を迎えようとしている。そして、センチュリオンも照月てるつきアスカも全力をぶつけ、レイドボスにダメージを与えていた。

どちらにしても、両者の削りあいでレイドボスが沈むと考えているギャラリーが多く、これで決着すると誰もが思う。

「アレで沈むのか?」

 あるプレイヤーが指摘した物、それはレイドボスのライフゲージだった。

残りゲージは五割を切っているはずなのに、ゲージの減りは遅かったのである。

(確かに、照月とセンチュリオンが削っているはずなのに――)

 ビスマルクは二人だけがレイドボスと戦っている構図が問題なのでは、とも考えた。

さすがのレイドボスも一人で全ライフを削るという様なゴリ押しが通じるようなシステムではない。

(他のプレイヤーが連携プレイの重要性に気付けるかどうかが――)

 天津風唯あまつかぜ・ゆいも同じような事を考えていた。ヒーローブレイカーのレイドバトルで重要なのは連携である。

ソロプレイでのトライアルモードもあるかもしれないが、イースポーツ大会のレギュレーションでも三人一チームを原則としていた。

それを踏まえれば、個人プレイで出来る事に限界がある事が分かるはずなのに。

(既に気付いているプレイヤーもいるが、間に合うかどうか――)

 それに加え、他のプレイヤーで連携の重要性に気付いた人物もいるのだが、全員がレイドボスに集中できているかと言うと、二名がアンノウンを戦っている為、全員ではないらしい。

全員で攻撃しても、すぐにライフを削って倒せるとも限らないので、もしかすると何も気づいていない可能性も高いだろうか。

「あれで間に合うのか?」

「レイドボスを撃破出来なければ、任務失敗扱い。全員がゲームオーバーになるはずだ」

「まさか、プレイヤーの中には気付いていない人物がいるのか?」

「それはさすがにないだろう。チュートリアルでも触れられるし、ウィキ等でも連携の重要性は言及されている」

「あの状況、どうやって覆すのか?」

 残りライフゲージを見て、他のギャラリーは不安の色が濃くなっていく。

それをきっかけに『他のプレイヤーが水を差した』と炎上させようというパリピ等もいる可能性がある空気だった。



「その空気も、おそらくは彼女なら変えられる!」

 その空気さえも、照月は変えようと動き出している。彼女には、空気を変えられる力があったのだろうか?

実際、他のプレイヤーではうまく使いこなせなかったパワードアーマーを効果的に使いこなし、その様子に歓喜するギャラリーがいたのが証拠かもしれない。

その様子を踏まえ、ビスマルクは照月に賭ける事にしたのだ。

「状況を変えられない事はない。例え、負けたとしてもこのプレイはプレイヤーたちの記憶に残るから!」

 照月はセンチュリオンの発言を否定するような言葉をセンチュリオンにぶつける。

しかし、それを彼女が効いているかどうかは定かではない。この辺りでは既にレイドボスのライフは残り二割を切った。

協力プレイが必要だという事に他のプレイヤーが気付いた事も、要因の一つかもしれないが――。

「プレイヤーは勝利するプレイしか求めていない。WEB小説の消費傾向等からしても明らかだ」

「それでも、自分は信じる! 今日の敗北が、明日の勝利に繋がる事を!」

「それこそ理想論に過ぎないだろう。勝利と言う現実こそ、人々は求めているのだ!」

 二人の議論が再び始まった。そして、レイドボスのライフも残り一割を切っていたのである。

しかし、残り時間は一分を切っている為、この状況では下手に集中をとぎらせる事は敗北を意味していた。

「やっぱりあなたは、現実主義を理由に逃げているだけなのよ! それでは何の解決にもならない」

 照月の一言を聞き、遂にセンチュリオンの動きが更にノイズが混ざる物となっていく。

(現実主義が逃げの手段――そんな事は、絶対に!)

 叫びたい言葉もあるのだが、それを叫べば自分が炎上する事は明らかだ。それもあって、敢えて言葉を押し殺すしかない。

それでも、彼女は若干の焦りがあっても素人プレイヤーには見分けがつかないようなプレイを披露し続ける。

(自分だって、ゲーム好きなだけでも変えられない事がある。それでも、変えられる事から変えていけるはずだから――)

 照月もイースポーツを巡る情勢や自分ではどうしようもないような都道府県全体の事までは、全て把握する事は出来ない。

それこそ、神でもなければ見る事が出来ないから。センチュリオンも同じような気持ちではある。

「これが、最後の一撃――!」

 照月はパワードアーマーをパージし、右手にレーザーブレードを構える。

「SNSや他人に流されない! 自分の意思で決めた道だから――」

 センチュリオンも照月とは形状こそ違うが、同じカテゴリーのブレードを構えた。

これでお互いに止めを刺すという事なのかもしれない。その構えは、お互いに違った構えだったのである。

照月がロボットアニメであるような構えに対し、センチュリオンは剣術格闘ゲームであるような大剣の構えだ。

『この一撃で、ヒーローブレイカーの未来を変えて見せる!』

 二人の斬撃は、見事にレイドボスの残りライフを全て削り、レイドボスに勝利する。

この様子を見て盛り上がらない者はいないだろう。イースポーツ大会の予選さえも飲み込むようなトレンドが、タイムラインを独占するのは時間の問題と――。



 西暦二〇二〇年、草加市のゲームメーカーではあるゲームのロケテスト結果が報告されていた。

会議室では様々なスーツを着た人物がスライド映像を見ているのだが、その反応は良いとは思えない。

「ARゲームの最近のトレンドは、リズムアクションやパルクールアクションがメインと聞く」

「その状況に逆行したFPSが広まるのは無理があるのでは?」

「勢いは買うが、それだけでは――」

「ロケテストの結果もメーカーに有益とは思えない」

 様々な意見が出る中、ヒュベリオンと思わしき男性が拳を作り、それを机に叩きつけようとも考える。

しかし、それをやっても意味はない。暴力や圧力と言った物で従わせるのは、マイナスイメージを持たせてしまうからだ。

「南雲君、さすがにゲーム愛が強くても、上手くプレゼンが出来なければ同じ事だと思うがね」

 ヒュベリオンこと南雲なぐもは、上司と思われる人物の言葉に従うしかなかったのである。

結局、ロケテストの結果を上手くPR出来なかった自分に責任があるのだ。つまり、ヒーローブレイカーのプレゼンは失敗したと言ってもいい。


 

 プレゼン会議の結果、別の人物がプレゼンした新感覚パルクールがトライアルに残った。

こちらは様々な漫画やラノベ、アニメのコスプレを楽しみつつもパルクールをプレイ出来る特殊なARゲームである。

南雲は同じようにWEB小説が題材なARパルクールに対し、不採用に慣れと呪いを送るような事はしなかった。それをやっても――結果は変わらない。

「仕方がない、外回りにでも行くか」

 現地へ向かい、様々な意見を取り入れるのも重要な事である。それを踏まえれば、ヒーローブレイカーはあそこまで評価はされていた。

それでもSNSでのイメージや様々な要素で失敗する可能性が高いと思われた結果、最終トライアルには残れなかったのである。



 様々な人物が激戦を繰り広げ、SNSを盛り上げたヒーローブレイカーだが、その数カ月後にはサービス終了が告知された。

それに対し残念な思いを抱く人物もいるのだが、ゲーセンに設置された機種の場合、これが宿命と言えるのだろう。

「実際に終わると思うと、さみしい物を感じる」

 天津風は秋葉原でヒーローブレイカーが別のゲームに切り替わる場面に遭遇していた。

中には署名運動で終了を阻止しようというプレイヤーもいたのだが、それをやってもSNS上で炎上すると考えているプレイヤーが多く、賛同は得られなかったという。

「やはり、最初の印象を覆す要素が見られなかった事が、打ち切りエンドを生み出したのか」

 センチュリオンと照月のマッチングが盛り上がったのは間違いないだろうが、それでも共感したプレイヤーは多くはなかった。

イースポーツ大会でも盛り上がったのは間違いない一方で、やはりというか他のイースポーツ対象種目に比べると身内受けだったという印象はぬぐえなかったらしい。

「これを覆せる要素は――」

 天津風は他に打開策があるかどうか考えようとしたが、今は心の整理が必要な時期だと思う。

他のメンバーは間違いなくヒーローブレイカーを楽しんでプレイしているのだが、天津風だけはどうしても何かが引っ掛かって――。

「しかし、草加市では残される事で、歴史の影に消えるゲームではなくなったというべきか」

 唯一の救いは草加市に関して言えば引き続きヒーローブレイカーがプレイ出来る事。

おそらく、草加市限定にする事で聖地巡礼や集客に利用しようという動きなのだろう。結局は草加市の意見等に左右されたと言えるのだろうか?

「彼らの活躍は、これからなのだろうな」

 天津風は色々な事を思いつつも、SNSでヒーローブレイカーのプレイ動画をチェックする。

確かに、そこにはゲームをプレイして楽しむ照月達の姿を見る事が出来るし、SNSで炎上することなく正しい議論も出来つつある環境に彼女はほっとしていた。

ヒーローブレイカーは思わぬ個所で打ち切りとなったが、ARゲームは続いていく。今度は、メーカー側が自己の利益だけに固執しない運営を求められるのかもしれない。


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