第23話:決戦のセンチュリオン
四月二十九日、この日も晴天と言ってもいいような天気であり、ARレースゲーム等が公認コースで行われている。
屋外系ARゲームが盛り上がっている中でも、イースポーツ大会の対象種目も負けずに盛り上がっていた。
ヒーローブレイカーにおけるヒュベリオンの暴走は、運営によって『ストーリーモード再現イベント』と言う形で決着する。
既にヒーローブレイカーのストーリーモード自体が超展開の連続だったので、それをリアルで再現するとこのような流れになる――と言う事でネット上で拡散していた。
真相を知っているのは、ごく一部の人物だけなのだが――ダークフォース残党は何としてもアルストロメリアを潰そうとしているのかもしれない。
下手に真相を拡散するのは現状のSNSが抱える闇を踏まえると、大規模テロ事件に発展しかねないという事なのだろうか? ARゲームの技術が軍事利用されるという事が真実だという事を隠しているのか?
それらを証明できるようなソースをまとめサイト等は持っていないので、記事にしてもまとめサイトの方が炎上する仕組みである。
しかし、ダークフォースの残党がイースポーツ大会に姿を見せる事はなかった。
その理由として運営側が出入り禁止にしている、ブラックリストに入れた、ダークフォース事態の活動拠点が変わった説などが浮上するも、真相は不明のままである。
【ダークフォースの名前も聞かなくなった】
【SNS上でも過去の事件扱いだな。まとめサイトは既にアイドルグループ活動停止の話題に集中している傾向だ】
【そのダークフォースも、実は架空のコミュニティだった噂もある】
【架空のコミュニティ? それこそあり得ない。あれだけの事件を起こしたのに?】
【確かに事件を起こしたダークフォースは存在する。しかし、ヒーローブレイカーに存在したとされるダークフォースだったか?】
【そう言う話か。類似名称は良くある話だが――】
SNS上ではダークフォースに関して様々な話題が浮上するのだが、どれもトレンドワードになる勢いはない。
今のダークフォースに、それだけの人を集めるような能力がなくなっている証拠だろうか。
「結局、ダークフォースに今のネット情勢を引っ張るだけの集客力がなかった。ネット炎上で目立つという野望を抱かなければ、正しい道を歩めただろう」
草加駅のホームに置かれているベンチに座るのは、私服のフード付きコートを着ている人物だ。
この人物はフードを深く被っており、素顔が見えない。しかし、誰かが写真を撮ったり通報するような様子はないので、不審者ではないようである。
髪の色等で分かる人物はいそうだが、分かったとして声をかける人物がいるかと言われると――。
しばらくして、この人物のいるホームに電車が通過していく。各駅停車なので、止まらないという事はないだろう。
草加駅は一部の特急が止まらないだけで、準急等は草加駅でも止まるのだが。各駅停車のドアが開くと、サラリーマンや買い物客が電車から降りてきた。
こちらの電車は春日部方面なので、降りる客の人数も少ないようには見えるかもしれない。しかし、ARゲームが広まっていない時期と比べると降りる客が増えているのは明白だろうか。
その中の一部はARゲームをプレイする為に草加駅を訪れているのは間違いない。
さすがにARスーツを着たまま電車に乗る事はないが、手荷物のカバン等にはスーツやガジェット類が入っているだろう。
「草加駅からバスが出ている話だが――」
プレイヤーの一人が、スーツのポケットからスマホを取り出し、足を止めて地図アプリを確認していた。
アプリによると、駅を出た辺りにバス停があり、そこから出ているバスに乗ればARゲームの設置されたゲーセンに行けるようである。
その人物は地図を確認後、ホームを歩いていたのだが――そこでフードを深く被った人物の前を通過した。
さすがに敵意むき出しにしていなかったので、彼女が食いつく事はなかったようである。ある意味でも――。
(見覚えのあるプレイヤーかと思ったが、気のせいか)
この男性プレイヤーは、後ろを振り向いて誰かいたようなベンチを見るのだが、既に姿はない。どうやら、移動をしたようである。
色々と思う所がありつつも、この人物は改札口へと向かい、バス停へと速足で急ぐ事にした。
【大物ランカーが次々と草加入りをしているようだな】
【大和と三笠以外で?】
【そうなるだろう。ARゲーム版の予選は草加に集中している以上、仕方のない事だが】
【噂によると、東京や千葉などからも遠征勢がいるらしい】
【ここ最近は関東地方でもAR版が設置されている話だ。自然と、そうなるだろう】
【予選って、もう終わっていそうな雰囲気だが】
【四月三十日まで予選を行っているらしい。今がチャンスと言うべきなのかもしれないな】
先ほど、姿を消したと思われたフードの人物が左手でスマホを持ち、つぶやきサイトのつぶやきを見ている。
そして、何かのつぶやきをチェックした直後にフードを外して電車の音がした方向を振り向く。次の瞬間には、竹ノ塚方面へ向かう電車の停止音が聞こえた。
「始まるか。ここから、待ち望んだヒーローブレイカーが」
その人物の正体はセンチュリオンだった。
彼女は別件である人物を草加駅で迎え撃とうとも考えていたのだが――無駄足に終わったという。
しかし、それ以外の収穫はあったのかもしれない。彼女の満足そうな笑みは、それを語る証拠だろうか。




