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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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88/100

22-4

『ならば、これを最後の仕上げとしましょうか! このARゲームを長く続くようなシリーズにする為にも――』

 ヒュベリオンが用意していたのはステージだけではなかったのである。それは、何とレイドボスだった。

形状はパワードアーマーに見えるのだが、明らかにヒュベリオンが搭乗する様なタイプのパワードスーツだったのである。

ある意味でもヒュベリオン自身がレイドボスになるという展開が待っているとは、誰が予想しただろうか?

「まさか!?」

「ヒュベリオンがレイドボスになるというのか?」

「このようなシステムを、いつの間に?」

「これも一種のサプライズか!」

 ギャラリーの方がアルストロメリアのメンバーよりも彼の行動に気付くのが早かった。レイドボスに関しても同様である。

ヒーローブレイカーはプレイヤーとの協力プレイが前提で、対戦格闘や対戦アクションに代表されるような対人戦要素は皆無だったから。

その為か、このサプライズとも言えるか不明なシステム公開は衝撃を持って迎えられた。

(おそらく、あれが真要素と言う事か。まるで、FPSの対戦要素と同じ事を実装だと?)

 この状況に驚くのは、アサシン・イカヅチである。

自分がプレイした事のあるFPSと同じような感覚では行かないと思うが、それと似たような物になると予測したのだが――。

『ルール自体は簡単だ。レイドボスを三分以内に撃破する基本に変更はない。唯一の違いは、君たちが何人参加してもよい事だ』

「何人でも? 本来の六人協力プレイを超えるのか?」

『もちろん。ただし、一度のバトルで処理できるプレイヤー数は最大三〇人と言った所か?』

「三〇人で三分以内にレイドボスのライフを削るというのか」

『そう言う認識で構わない。こちらは一人に対し、そちらは何人来ても結構だ。ただし、こちらも時間が惜しいので一時間と言う制限は入れる』

「一時間以内なら、何度でも挑戦できると?」

『さすがに一度参加したプレイヤーは再エントリー不能にさせていただいた。何度も挑戦出来るよりも、プレイは一度だけの方が緊張感もあるだろう?』

 エントリーしようとしている他プレイヤーに対し、ヒュベリオンが質疑応答を行う。

これにもアルストロメリアは参戦していない。それには少し理由があった。



 照月てるつきアスカはエントリーをしようと並んでいるのだが、何と三〇分待ちと言う状況になっている。

つまり、質疑応答を聞くよりもまずはヒーローブレイカーのエントリーが先と言う展開だった。

(天津風は既にエントリーしているだろうけど、これはどうなるのかな)

 照月が心配していたのは天津風唯あまつかぜ・ゆいのエントリー状況である。

既にAR版でログインしているようだが、あの状況だと順番の関係で再エントリーやり直しの可能性も否定できない。

(この展開だと、しばらくすると混雑も緩和するかな)

 照月は、悔しいが並ぶのを諦めて、イカヅチのいる場所まで戻る。

まずはメンバーの意見を聞いてからエントリーした方が良いと判断したようだ。

 その照月の予想は的中し、レイドボスと化したヒュベリオンの能力は別の意味でも他のレイドボスを凌駕する。

ある意味でも創造主と言わんばかりの勢いで、次々とプレイヤーを撃破していく。唯一の良心と言えば、レイドボスのライフが回復しない事だろう。

イベント系レイドボスはライフが高く設定されており、三分以内で削る事も不可能である。それが出来たら文字通りの不正プレイと認定されるだろうか。



『この世界の創造神であるヒュベリオンを、不正やチートで無双するようなプレイヤーに遅れを取ると思うか?』

 ヒュベリオンのパワードアーマー、その左腕から放たれたビームはホーミング機能こそないが、命中すれば即アウトである。

右腕から放たれる閃光は一種の閃光弾と同じ効果で、一時的にプレイヤーの視界を奪う。

周囲にアンノウンこそ未配置なのに、このでたらめな強さ位には観戦していたギャラリーでさえ閉口したのは言うまでもない。

フィールドは架空都市と言う事もあり、フィールド知識のないプレイヤーには不利だろう。飛行系能力は建造物の多さもあって、圧倒的な有利にもならない。

飛行不利はヒュベリオンも同じだが、彼のパワードスーツは何でもありと言う事でハンデにもなっていないのが現状か。

『最初の三〇人は一分も持たなかったか』

 ヒュベリオンは既に三〇人のプレイヤーを撃破済。この圧倒的な戦力に対し、本当に勝てるというのか?

『ライフを一割削った事は健闘するが――この程度では、まだ止める事は出来ないぞ』

 圧倒的な戦力、このヒュベリオンを止める為にはトップランカー等の力を借りなければ勝てない。

それこそ、大和やまと三笠みかさの協力は不可欠と言えるだろうか。



 その後もライフを削ろうと健闘はする。中には最高レアリティの武器を使用してゴリ押しするプレイヤーもいるが、物理的にも勝ち目がない。

ライフ回復なしとはいえ、二〇分で五割を削れていないのは苦戦をしている証拠だった。

「勇気と無謀は違う。目立とうとしようとして挑めば、ああなるのは目に見えているはずだ」

 天津風は秋葉原のセンターモニターで観戦し、順番が来るのを待っている。

どうやら、特殊レイドバトルと言う事でスコア狙いのプレイヤーが殺到し、接続できないようだ。

(こちらが接続できる頃には終了しているか、それとも――)

 順番もあって仕方のない箇所もあるが、天津風は何とかしてヒュベリオンの暴走を止めようとしている。



『さすがにこちらも消耗戦になっては勝ち目がない。こういう趣向を取らせてもらうよ!』

 相手側に上位プレイヤーが混ざり始めたタイミングで、ヒュベリオンはダミーアバターを投入したのである。

その姿は、何とアルビオンに似たブラックカラーのヒーローだった。特撮的に言えば再生怪人、もしくは偽者と言うべきか?

『何と言う悪趣味な事を――』

 今回のプレイで上位ランカーと認識されていたのは、島風彩音しまかぜ・あやねだった。

アルストロメリアのメンバーではあるのだが、今回に限って言えば単独参戦に近い――合流が遅れたオチかもしれないが。

『こちらも、さすがに我慢の限界と言うべきか』

 そして、まさかのサプライズはこちらにもあった。何と、アルビオンが電撃参戦をしていたのである。

これをセンターモニターで見ていた照月達は別の意味でも驚きを隠せなかった。

「島風も来ていたの?」

 ゲーム画面で島風の姿を見て驚くのは秋月千早あきづき・ちはやである。彼女も次のプレイでは参戦する予定だからだ。

それよりも先に照月はエントリーを終えており、このプレイで既に参戦しているはず――。

照月が本来よりもエントリーが早く出来たのは行列が解消された事も理由の一つだ。

それに、ゲーセンのスタッフが整理券を配布したりした関係もあって、割り込み等で目立とうとしたパリピを排除できたのも大きい。



 そして、決着の時は唐突にやってくる。それは周囲のギャラリーでさえ、予想出来ないタイミングで起きた。

アルビオンのパワードアーマーが過去作品のアルビオンに変化した事、照月とヒュベリオンのやり取りよりも驚くようなタイミングで。

『お前達は、プレイヤーではないのか? メーカーにとってはお客様としての――』

 そのヒュベリオンに対し、照月は何も答える事はなかった。そして、ある物をヒントにして展開した武器は、今まで使っていたソードと形状等が異なっている。

「このゲームのプレイヤーなのは事実よ! そして、その事実は変えられない。メーカーにとってはお客様なのも事実」

『ならば、お前達は我々が提供したコンテンツをプレイしていく――』

「そういうゴリ押し思想こそ、コンテンツ流通では炎上商法にも使われる手法――あるべき手法じゃない」

『この創造神をも倒すべき存在だというのか、照月アスカ!』

 ヒュベリオンの怪盗に対し、照月は 特殊な形状をしたソードを変形させる。それは、ある物にも類似していた。

「あの武器は!?」

 秋月も照月が使用した武器に関しては心当たりがあった。しかし、それが効果的なのかは分からない。

「アガートラーム? いや、違う! あの武器は――」

 ビスマルクは次にプレイ予定だったのだが、その映像を見て驚きを隠せなかった。

照月が持っている武器、それは神をも倒す剣とも言えるような武器だったのである。

「これで、全てを――炎上勢力が企むような流れも、全て切り裂く!」

 刃部分は振動と言うよりも、チェーンソーのようにビーム刃が動いているように見えるだろうか。

そして、そのビーム刃は他のプレイヤーが苦戦していたのが嘘の様な展開を生み出している。

「次々とパワードスーツを削って行くぞ!」

「どういう事だ? アレがチートと言うのか?」

 周囲はチートと言うのだが、一部のギャラリーは言葉が選べずに無言で見つめるしかない。

照月は無言でヒュベリオンのパワードアーマーを切り刻んでいく光景は、ある種のホラーゲームを連想するだろうか?

「チートに近いボスをチートで倒すのか?」

(創造神さえもバラバラにするというのか、あのチェーンソーは)

 その他にも周囲が動揺しているのだが、その光景がどういう理由で起きているのか分かっていたのは長門ながとハルだった。

『チェーンソーに弱点耐性が――!?』

 ある意味でも都市伝説と言われている創作におけるチェーンソーの立ち位置、まるでそれを再現しているかのような光景にはヒュベリオン自身も言葉を失う。

ヒュベリオンは自身がダークフォースやSNSを利用してマッチポンプに近い炎上商法を展開しようとしていたのだが、ある意味でも彼は策に溺れたと言えるような末路だった。


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