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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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22-3

 秋葉原のゲーセン、そこで天津風唯あまつかぜ・ゆいに声をかけてきた男性プレイヤーがいた。

見た目は明らかに私服にパーカー、顔はフードを深く被って正体が分からないのだが。

『天津風唯、これ以上は今回の件に関わらない方がいい』

「どういう事? これ以上って、ヒーローブレイカーに?」

『その通りだ。下手に関与すれば、今度はヒーローブレイカーが大炎上を起こす』

「大炎上って、既に炎上している様なものよ」

『そう、錯覚させているだけとしたら?』

「あなたは一体、何を知っていると――」

 何かを尋ねようとした天津風だったが、そのタイミングには既に彼の姿はない。

ボイスチェンジャーの声だったので、本当に男性プレイヤーだったのかも定かではないだろう。

(ヒーローブレイカーを名指しして大炎上すると言った以上、あの人物は何かを知っているはず)

 しかし、彼女には追いかける時間がない。

今やるべきなのは、ヒュベリオンのやり取りを配信している人物を止める事だろう。



『それを実現させるのは現実的ではない。だからこそ、イースポーツを広める為にも適度な争いは不可欠なのだ』

「暴力や争いでは何も生まれない。憎しみだけを繰り返すような空気は、コンテンツ流通に必要ないはずよ!」

 ヒュベリオンと照月てるつきアスカの議論は平行線となっている。

目的こそ『イースポーツを広める』と同じはずなのに、その方法等は真逆と言える物だったのだ。

これに関してはアサシン・イカヅチも何となく察している。彼はイースポーツを広めようとしても、悪質なユーザーが広めれば炎上する事には変わりないからだ。

広め方の手段を問わないとすれば、明らかにまとめサイトや悪意あるようなマスコミなども利用する事を意味する。

それさえも、ヒュベリオンにとっては自分の都合のよい手段の一つと捉えていたのだろう。

『炎上商法が企業にとっても都合のよい物となった昨今では、自社コンテンツを炎上させて逆に信者とアンチ勢力を対立させるのも当たり前――』

「それって、まさか!?」

『ハロウィンの案件、あれは全て仕組まれた物なのだよ。それだけではない、ガーディアンも――アンチ勢力が炎上させたりまとめサイトに取り上げた事も』

「まさか、あのハロウィン事件も?」

 二人のやり取りの中に出てきたハロウィンの案件、それは二〇一八年に発生したと言われるハロウィンパレードで出現したバーチャルアバターの一件である。

しかし、この件はソース不明でまとめサイトでも明確なソースもなかったという事で、事実であるかも不明のまま都市伝説化していた案件でもあった。

これだけではない。ダークフォースも、チートツールの一件も、更に言えば一連のヒーローブレイカーを取り巻く炎上案件は全て仕組まれていた物、マッチポンプと――。

『あれに関しては、こちらでも誤算があった。まとめサイトの取り上げ方がコピペだった事、別のハロウィン騒動が大きく拡散した事で比較やコラ記事に使われたがな』

「そこまで行って――あなたはヒーローブレイカーに愛を感じないの?」

 照月は今までの話を聞き、ゲームをプレイするのを辞めたくなるような空気にもなりかねない状況だった。

しかし、それでも彼女は自分がプレイしてきたゲームを、貴重な仲間たちとの絆を、プレイしてきて作ってきた思い出を――そう簡単に投げ捨てる事は出来ない。

『ゲームメーカーの場合、利益とゲームに対する愛情とどちらが重視される? そう言う事だ。メーカーは利益が出れば、どのような事にも手を出すだろう。炎上商法だろうと』

 ヒュベリオンの一言を聞き、さすがの秋月千早あきづき・ちはやも我慢の限界になっている。

他にも周囲のギャラリーの中には、この場に居合わせた事を後悔するプレイヤーもいるだろう。

「自分はゲームを愛している。周囲の目があろうとも、ゲームで様々な事を学んできた。だからこそ、分かることだってあるの!」

『今そこで愛を語るのか!? 売れれば勝者、売れなければ敗者――そういう業界にしてきたのは、先駆者たちだ!』

 照月の渾身とも言える発言は、ヒュベリオンを少し動揺させる物だったのだが、それでも彼が考えを改める事はない。

顔では動揺しているかもしれないが、ARバイザーをしている関係上で素顔が見えない状況なので――誰にもわからないだろう。



「ヒュベリオン、貴様は多いなる誤算をしてしまった」

 二人の議論とも言える場面に割って入ったのは、何とビスマルクである。さすがの彼女も我慢の限界と言う事だろうか?

ギャラリーの方もビスマルクが来た事に気づいている人物はいたようだが、敢えて黙っていた節が高い。その方がネット上でトレンドになりやすいと考えたのだろう。

『お前はビスマルク? まさか、あのWEB小説の――』

 先ほどよりも動揺している度合いが全く違う。ビスマルクが来た事が完全に誤算だったというのか?

そして、彼は小説とも言及した。むしろ、本音がこぼれたという可能性が高い。

「照月アスカ――ネット上のまとめとかチェックをしたけど、まさか、あの人物だったとは」

 ビスマルクの方も、照月の正体に関しては驚いているようでもあった。これは秋月しか知らないような話のはずだが――。

『その話はやめろ! それはここで拡散するには非常に危険だ!』

 ビスマルクを制したのは何とヒュベリオンである。普通であれば、止めるのは照月のはずなのに。

「本人が何も止めようとしないという事は、既に拡散されても支障はないという証拠ね」

『止めろ! 誰かビスマルクを止め――』

 ヒュベリオンがビスマルクに対して接近するのだが、それとは別に何者かがスマホをビスマルクに向けていた。

その光に反応し、何かのスイッチを押したのはビスマルクの方である。どうやら、彼女は今までの出来事が配信されていたのを知っていたらしい。

「そこまでだ! これ以上、炎上やアフィリエイト利益目当てで配信を続けるなら――」

 配信をしていた人物のスマホを取り上げたのは、パーカーのフードを深く被って素顔を隠している人物だった。

しかし、その身長や微妙に見える髪の毛で何者なのかは周囲のギャラリーには即バレと言ってもよい状況なのは間違いない。

「こっちにだって、強硬手段に出る用意はある。そう言う事だ」

 何と、その正体はトップランカーこと大和やまとだったのである。服装はセンチュリオンの物を特注したのだが、背格好で即バレをした気配と言えるだろう。

「ヒュベリオンの相手、余に任せてもらおう」

 更に姿を見せたのは、こちらはARゲーム時と同じアーマーを装備している三笠みかさだった。

どうやら、SNS上でヒュベリオンの情報を集めているうちに脅威と感じたらしい。

『どうやら、こちらが出る事もなかったようだな。大和、三笠』

 ARゲーム筺体近くにあるセンターモニター、そこに姿を見せたのは天津風のアバターだった。

どうやら、万が一の事を踏まえて準備をしていたらしい。本来であれば、アバターがセンターモニターに姿を見せるのはパーティー編成等の一部モードに限定されるはず。

一体、どういうトリックを使ったのだろうか? それに対してヒュベリオンが怯える様子はないので、システム自体は把握していたのかもしれないが。

『まさか、トップランカー大和までこちらの的に回るとは――。邪魔者はアルストロメリアだと思っていたら、こう言う事になりますか』

 ヒュベリオンは右手の指を鳴らすと、ARゲーム版のヒーローブレイカーのステージが変化していく。

どうやら、イースポーツ大会用に用意していたステージがあるようだ。それを、このタイミングで披露する。

ステージの外見は草加市ステージと変わりがないように見えるが、現実の草加市をベースにした今までのステージとは違い、こちらの方は明らかに架空都市をベースにしたと推測されるだろう。

むしろ、何処かのアニメで使われた様な草加市であるのは目に見えて分かる。どうやら、これをサプライズとして大会当日に披露するつもりだったらしい。

『ならば、これを最後の仕上げとしましょうか! このARゲームを長く続くようなシリーズにする為にも――』

 そして、アルストロメリアとヒュベリオンの直接対決が始まろうとしていた。


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