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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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82/100

21-2

 アルビオンのバトル結果は、アルストロメリアの予想外とも言える物だった。SNS上で言われている評価とは全く違うのである。

これには秋月千早あきづき・ちはやも評価を変更せざるを得ないと判断するレベルだ。

『君たちが来ていたとは、これはこちらの想定外と言うべきか』

 アルビオンがギャラリーとして姿を見せていたアルストロメリアのメンバーに気付く。

気付いたとしても、他の待機客がいればそのプレイヤーに譲る気配ではある。

しかし、逆にアルストロメリアがプレイするのであればそちらの方が盛り上がると考え、待機していたプレイヤーは別のARゲームへと流れた。

(これで次にプレイする事も可能だが――)

 待機客がいなくなったので、これでプレイは可能になっただろう。しかし、アルビオンはすぐにクレジットを投入しようとはしない。

疲れというものもあるかもしれないが、それ以上に話しておくべき事があるからだ。

「アルビオン、遂にこちらと対立するというのか?」

 アサシン・イカヅチの一言を聞き、アルビオンは対立の意思がない事を示す。

それを見た秋月はイカヅチを制止するのだが、本当に彼を信じていいのだろうか?

『イースポーツ大会を妨害する気はない。むしろ、こちらは妨害しようという一部勢力を監視する側だ』

「監視? 炎上させるの間違いでは?」

『今までの行動を踏まえれば、そう疑われても仕方がないのは承知の上だ』

「こちらを見つけて、近づいてきたのが証拠ではないのか?」

『こちらとしても色々と説明しておくべき事はある。しかし、それよりも先に―ー勝負をしないか?』

「勝負? まさか、ヒーローブレイカーか?」

(ヒーローブレイカーで!? アルビオンと?)

 イカヅチとアルビオンの会話が続き、その際中二ヒーローブレイカーと言う単語が出てきた事に反応したのは木曾きそアスナである。

まさか、こう言う形ではあるがアルビオンとバトルするチャンスが出来るとは――。

『ダークフォースが今までやっていた事と、今の自分がやっている事が同じと思うのは百も承知だ。しかし、こちらとしても後に退けない理由がある』

 アルビオンは未だにARメットを外す気配もなく、アルストロメリアに正体を晒す気配さえもなかった。

しかし、彼にもメットを外せない事情をイカヅチは知っている。周囲がパニックになれば、逆にこちらが出入り禁止になるだろう。



 アルビオンは単身でも構わないという事だが、それはさすがにまずいのでマッチングプレイヤーと組む事をバトルの条件にする。

自分達が三人に対し、向こうがCPU二人とプレイヤーではハンデがあり過ぎる事情もあった。

『ハンデは不要と言う事か?』

「ハンデと言うより、この方が妨害がなくていいのではないのか?」

 イカヅチの言う事も一理ある。CPUではAIレベルによって足手まといになるだけでなく、時間切れによるレイドボス撃破失敗もありえる。

撃破失敗では全プレイヤーが敗北扱いとなり、強制ゲームオーバーを意味していた。レイドボスを撃破で来て初めてのクリアとなる。

『今はイースポーツ大会仕様にマッチングが変更になっているのではないのか』

「それはあるだろうが、AR側の仕様は知っているだろう?」

『逆に言おう。こちらは見知らぬプレイヤー二名、そちらはチームから三人――』

「こちらのメンバーは、長門、照月、天津風の三人だ」

 イカヅチの発言に、耳を疑ったのは長門ながとハルである。天津風唯あまつかぜ・ゆいはこの場にいないのに、どういう事なのか?

このメンバー構成には無理があると思い、イカヅチに理由を問い詰めようとするのだが、彼の眼は簡単に意見を変えるような眼には見えない。

「彼が上位プレイヤーと言うのは分かっているのに、その構成にするのは負けてくださいと言っている様な物だ」

 長門に代わってイカヅチに発言したのは木曾である。天津風と照月は上位ランカーに迫る実力があるだろうが、長門のランクは五千位クラス。

到底バランスが取れているとは考えにくいのだ。相手プレイヤーは、もしかすると千位以内の上位に近いランカーと当たる可能性だってある。

『彼女の言う通りだ。こちらのマッチング運が高ければ、最上位の大和やまと三笠みかさと当たることだってあり得るのだぞ』

「それに、VR側の筺体は既に満席と言う話だ。長門はVRメインである以上、このマッチングでは有利不利の話以前の問題になる」

『――確かにVRの方は満席になっているとゲームインフォメーションに表示されている。要望があれば、こちらはプレイ開始を少し伸ばしてもいい。小休止も必要だからな』

「分かった。十分だ。それまでにメンバーを決め直して、それからバトル開始としよう」

 木曾の言っている通りにVR側は満席だという事をセンターモニターのインフォメーションで知ったイカヅチは、アルビオンの発言も踏まえて十分後のプレイ開始と言う事に決めた。

その間、他のプレイヤーがAR側でプレイを始めたので、そのプレイが終わってからのバトルになるだろう。



 そのプレイでは、まさかの西洋風の街並みに変化、ヒーローブレイカーは実在の草加市や竹ノ塚、秋葉原等をベースにしたフィールドで戦う為、逆に目新しいのだが――。

更に言えばレイドボスもファンタジーで出てきそうな蛇に翼が生えたようなモンスターだった。出現するアンノウンもファンタジーで見かけるモンスターと言うデザインが多い。

これを見た木曾はヒーローブレイカーでコラボイベントがあった事を失念していたのである。あの蛇タイプのレイドボスが出た段階で思いだしたが、後の祭りだろう。

コラボアイテムやアバターアイテム等を目当てでプレイを始めるようなプレイヤーが多いとは考えにくいが、どうするべきか木曾は悩んでいる。

『フィールドに関しては、都市エリアでもコラボエリアでも問題はない。そちらに任せよう』

「そうしてもらえると助かるわね」

 秋月もコラボイベントに関しては忘れており、このイベント限定のレイドボスも複数確認されていた。

その方がアルビオンも知らなさそうな口ぶりなので、有利なのかもしれないが――。


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