20-2
類似タイミングで、ある動画を発見したのは照月アスカだった。
ゲーセンへ行く前の下準備もあって、自宅で発見した物だが――。
(これも一種のなりすまし動画か)
発見した動画とはガーディアン勢力がチートプレイヤーを粛正する動画だった。
その内容は一見すると本物にも見えるのだが、照月はガーディアンと遭遇した事もあるので偽者と容易に分かる。
実際、アーマーのカラーリングがSNS上におけるガーディアンの目撃情報をベースにしており、明らかに実物を見ていない者が動画を作っていたのだ。
通報からわずか五分足らずで該当動画は削除、それを拡散していたパリピ勢力も逮捕された。
彼らの正体がダークフォース便乗ではなく、別コンテンツを広める為のアンチ勢力だった事が判明するのは、それから数日後のことである。
「動画の内容自体は、どう考えても炎上誘発系だが――」
この動画を作った人物の狙いが分かりづらいというのはあるだろう。粛清と言っても動画のガーディアンはいわゆる一枚絵を編集した物である。
それに加えて、明らかに悪意のあるキャッチコピーなども動画に流れていた。最終的には特定アイドルグループが正義である事を明言するメッセージが表示される物。
この方式自体はWEB小説でも題材になっており、超有名アイドル商法とも言われていた物だ。何故、このような動画が今更になって広まろうとしていたのかは定かではない。
その一方で、ガーディアンはとあるものの存在を突き止めていた。過去に何度か使用されていたチートツールのソースコードである。
プログラム自体はダークフォース側等も存在する事を認めていたのだが、ソースコードの場所は分からずじまいだった。
「ガーディアンが発見してしまっては、また同じことが繰り返される」
ガーディアンに渡る事を阻止しようと考えていたのはビスマルクである。
ガーディアンに不穏な噂があった訳でもないのだが――渡る事を阻止しようとしているのには別の理由があった。
(あのソースコードは、どう考えてもチートプログラム以外にも運用方法があるはず)
下手にガーディアンがソースコードを独占する事は、逆にARゲームや他のコンテンツの流通的な意味でも阻害されると考えている。
早いもの勝ちで商標権を取って小銭を稼ごうとする権利屋のような事を、ガーディアンが例のソースコードでやろうとしているのは間違いない。
例の魔法使いは再び姿を見せていた。その動画を見る限りでは、相手をしているのは島風彩音と木曾アスナである。
この時は練習と言う事でプレイをしていたようだが、そこに姿を見せたのは例の魔法使いだった。
性懲りもなく――と島風が思ったのかは不明だが、レイドバトルにおいて遅れを取る事はなかったという。
木曾に関しても以前よりはスキルを上昇させており、もはや彼の様な再生怪人を連想するかませ犬は相手にすらならない。
(スコア的にも既に敵ではないというべきか)
木曾は既にターゲットを上位ランカーに絞り込んでいる。おそらく、彼クラスのプレイヤーでは相手にすらならないという事だろうか。
「何度来たって、自分の腕を磨かなければ同じ結果になるわよ。チートツールに頼って有名になろうなんて、ゲームを馬鹿にしている証拠ね」
島風は敗北した魔法使いに対して言うのだが、彼が効いているのかは定かではない。もしかすると、魔法使いのアカウントではあるが別人かもしれないだろう。
それでも、言わないよりはマシと考えた島風は断言をする。他のプレイヤーにも同じようなチートツールの使い手がいれば、自分の過ちを認めてくれるものと信じて。
魔法使いの動画はしばらくしてガーディアンだけでなく、様々な人物の目に留まる事となる。
理由はどうあれ、彼が動画の拡散を目的としていたのでどちらにしても彼の目的は達成したのかもしれない。
しかし、彼は本来の動画拡散目的を『ダークフォースの復活』としていたのだが、その目的は『チートツールの使用プレイヤーを撲滅する』に変えられたと言えるだろう。
「この動画をどう思う?」
「ガーディアンとしては都合が悪いだろうな」
「我々としては、チートプレイヤーが減るのは歓迎すべきだが――何事も限度がある」
「適度にチートプレイヤーを削らなければ、それこそ――」
「今は資金源を断たれる訳にはいかないのだ。チートプレイヤーがこの世からいなくなれば、我々の存在にも関わってくる」
都内某所のガーディアン本部では、様々な人物が一連の動画を見て反応を示しているのだが、ガーディアンの存在を否定する意見が混ざっていた。
このままではガーディアンが消えてしまい、悪質な炎上勢力が増えるというのである。
「こちらとしてはマッチポンプと否定されようが、この有名ヒロインシリーズや魔法少女もの等のようにマナー向上をリアルで訴える舞台が必要なのだ」
「アルストロメリアは、それさえもマッチポンプと否定して全てを変えようとしている。それは、我々にも都合が悪い」
「しかし、ヒュベリオンはどう思っている? 彼は我々にとって資金提供者に近い立ち位置だ」
「向こうは既にイースポーツの方に集中している以上、我々はダークフォースと同じように放置しておく考えだろう」
「果たしてそうだろうか? 我々の行動も無法地帯になっていると判断されれば――」
「そんな馬鹿な! 我々は不正プレイヤーの検挙やチート撲滅にも力を入れている。他のメーカーにもこの活動が認められているのに?」
「SNS炎上、まとめサイト、ネットマナー崩壊、パリピ勢力の暴走、特定芸能事務所の圧力、ゴリ押し戦略、炎上商法――そうした物を生み出したSNSを根本から変えるつもりだろう」
「それをアルストロメリアが行うのか? それこそ考えられない。あの少数メンバーで何が出来る?」
「カリスマプレイヤーとしての発言力があるアルテミシアの大和や三笠といった実例もある。油断できないだろうな」
会議室で様々な情報を集めるガーディアンは、何としてもアルストロメリアをイースポーツ大会が行われる前に何とかしようとしていた。
全てはガーディアンと炎上勢力が果てしないヒーローショーの様なマッチポンプを続けられるような環境を――それこそ『悲しみの連鎖』になろうとも続けようというのである。




