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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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第20話:開催


 四月下旬までは様々な勢力で大きな動きがなく、チートプレイヤーを狩るガーディアンの動画と言った釣り記事がまとめサイトで叩かれる状況もあった。

特に大きい事件がなかったので安心をしているのは、プレイヤーだけではない。運営サイドも一連の事件を含めてこれ以上の事件が起きて欲しくないと望んでいたのである。

「今の所は、週刊誌などで叩かれるような事案はない」

「しかし、それで安心できるでしょうか? 草加市側で何かがあれば、こちらの方が危険では?」

「大規模テロ事件を思わせる犯行予告か。それは別の事件であり、こちらとは無関係のはず」

「確かに草加市では大規模テロ事件が起きないように様々なセキュリティがある訳ですが」

 草加市内のヒーローブレイカーのメーカーでは、定例会議が会議室で行われている。

その場に社長はいないのだが、それに関して言及する者はいない。何時も通りに会議はネット配信も行っているので、そこから確認しているのだろう。

今回の会議に参加しているメンバーも、さりげなくヒーローブレイカーのスタッフも混ざっているのだが、顔見せNGの人たちは配信を通じてチェックしているようだ。

「しかし、一連のネット炎上問題はダークフォースの壊滅と共に解決したのでは?」

 ある男性スタッフの一言で周囲が動揺をするのだが、明らかに仕込みも含んでいるようで反応は少なめだ。

むしろ、スタッフにスパイがいる可能性を考えているような発言なのだが――。

「あれで解決と考えているのであれば、特定勢力の大規模炎上事件等が続く現状をどう説明するつもりで?」

「向こうは大手芸能事務所の過激な宣伝が繰り返された結果の炎上であり、こちらとは無関係だろう」

「あのジャンルは関係があって、こちらのジャンルは無関係――そう言った時代は終わりを告げているのです」

「特定ジャンルで同じような特色ばかりな現状を変えるのに、あえて差別化するのは悪くないでしょう。しかし、特定ジャンルを差別するのは炎上商法と同じでしょう」

「それは既に他のジャンルでも同じような事が展開されている。ヒーローブレイカーはSNS炎上を禁止する為にも様々なルールを設定してきた」

「そのルールがあったからこそ炎上しなかった――そう言える時代はもう終わりです。保守的な考えからは脱却し、それこそ――」

 会議はまだ続いているようだが、途中で動画の視聴を止めたのは天津風唯あまつかぜ・ゆいだった。

彼女としてはヒーローブレイカーの重大発表があるという話を聞いていたのだが、これでは肩透かしもいい所だろう。

(今必要なのは、イースポーツ化に関しての本格的なルール作りのはずなのに、どうして以前のダークフォース事件を引っ張るのか)

 天津風としては以前の事件を引っ張り続けるのは逆効果と考える。確かに今までの事件を『なかったこと』にする事は出来ない。

運営側はちゃんとダークフォース事件とも向き合っており、それこそ『黒歴史』としてバッサリとトカゲのしっぽ切りのように切り捨てるメーカーとは対応が全く違う。

むしろ、彼らの様な対応をメーカー側がしていれば炎上商法や特定芸能事務所による暴走も防げたのではないのだろうか?



『――ヒーローブレイカーはSNS炎上を禁止する為にも様々なルールを設定してきた』

『そのルールがあったからこそ炎上しなかった――そう言える時代はもう終わりです。保守的な考えからは脱却し、それこそ他社の様な悪例をするべきではないと思います』

『確かに悪しき慣習は終わらせるべきだろう。それこそ国会で規制法案等で対応した方が早いと思わないのか?』

『それでは遅いでしょうし、そこまで圧力をかけて減らせるようなものでもないでしょう』

『繰り返される悲劇をなくさなければ、コンテンツ流通で日本が覇権を取るなど夢物語だろう』

『目的を大きく持つのはいいでしょう。しかし、大きく掲げ過ぎれば破滅が待って――』

 一連の会議を途中から視聴していたのは三笠みかさだった。彼女は草加市内にいるのだが、その場所はARゲーム目的で来店する客がいないような気がするそば屋だった。

丁度、ゲーセンの近くと言う事でたまにはファストフード以外も食べようと考えた結果が、そば屋と言う事らしい。カウンター席と言う事もあって、隣にはアサシン・イカヅチがきつねうどんを食べている途中だった。

「こういう場所位は動画を見ながら食べるのは、マナー違反と思うが」

「注文の品が来るまでの間よ。それに、この配信は生配信で見るからこそ価値のある物」

 三笠はカウンターに置かれた湯呑に入った緑茶を口するのだが、逆にイカヅチはこういう場所位は動画から離れても――と考えている。

イカヅチも家の中では動画配信の準備をしたり、趣味でゲームをプレイしたりするのだが、プライベートとはちゃんと区別はしていた。

結局、三笠もまだ注文している物が来ていないので、そこまで力強く注意する事はない。逆に注意して周囲の無関係な客に迷惑をかける方がSNSの炎上的には危険だろう。

「それに、今回の件は確かにダークフォースが大きく関与していたのは事実だけど、他にも炎上させていた連中等は存在する」

「三笠、その連中って、まさか?」

 イカヅチが何かを尋ねようとした時には、三笠のカウンターにうどんが置かれていた。

そのうどんは一見すると普通に天ぷらうどんに見えるが、これは天ぷらではなくコロッケである。

どんぶりの形状もイカヅチの食べているきつねうどんとは若干異なり、並盛仕様なのかもしれない。イカヅチの方は、むしろ定食仕様の物かもしれないが――。

「この話は、これで終わり。今はイースポーツ化されてからの動きが重要でしょ?」

 三笠は自前で箸を持ってきており、それを取り出してうどんの上に載っているコロッケを箸で食べやすい大きさに分けた。

コロッケの方はカレーコロッケらしく、良く見て見ると中に入っている具も豚肉やたまねぎ、じゃがいもと言ったカレーでなじみの深いものばかりである。

(色々と気になる事はあるかもしれないけど――)

 三笠も懸念すべき事はあるのだが、まずは目の前のカレーコロッケうどんを食べる事に。

うどんをすする三笠を見て、イカヅチの方は意外そうな表情をするが――向こうも無言でうどんを食べる事に集中していた。

カレーコロッケは揚げたてではなく、フライヤー等で揚げた物を保温しているのかもしれない。

コンビニでも見かけるような揚げものを保温する機会がカウンター近くに置かれているのがその証拠だろう。それに、ここは立ち食いではないのだが、客の出入りは非常に早いように思えた。

こうした場所でゆっくり食べるのは、マナー違反と判断される訳ではないが、暗黙の了解でそう認識されてもやむ得ないか。


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