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同日午後一時、秋葉原の喫茶店であるSNSでのやり取りを見ていたのは天津風唯である。
彼女はダークフォースの壊滅に関しては喜ぶべき情報であると同時に、あるものの存在を表に出してしまう事を懸念していた。
【ダークフォースを復活させようとしたある人物が倒されたらしい】
【奴はダークフォース残党の中でも最弱。ブランドイメージを傷つけた面汚しだ】
【あのバトルを見た後では、復活を待ち望んだ残党もガーディアンへ情報を売り渡しているとか】
【何と言う事だ。それも全てはヒュベリオンの仕業だったのか?】
【ヒュベリオンが管理人だったのか。ソレは初耳だ】
【途中で管理人が入れ替わった頃からだな。ホワイトスナイパーの暴走や一部勢力の暗躍が表になったのは】
【一体、ヒュベリオンは何をしたかったのか?】
見ていたのは既に閉鎖されていたダークフォースのSNSサイトのアーカイブである。
現状ではガーディアンによって厳重管理されている為か、ダークフォースの情報を得ようとするならばアーカイブかまとめサイトしかない為の判断だろう。
「これを完全解決したというには――」
スマホを持つ手が震えるほどには、そのやり取りがアレに見えたのかは定かではない。
しかし、ダークフォースは間違いなくホワイトスナイパーの件で幕引きしたというのが公式見解だろう。
公式見解を覆すような証拠が出るとも思えないので、次の目的は決まったような物だ。
「今はイースポーツ大会に向けて準備をする方が最優先か」
喫茶店を出た天津風は、何時ものゲーセンへと向かう事にする。
今から草加市へ向かうよりも、オンライン対戦が可能なゲーセンへ行った方が手っ取り早いからだ。
それから五分が経過した辺りの事だった。草加市の方でマッチングがあったという情報が天津風の耳に入る。
「まさかのコンビでは?」
「そうだな。この二人が並ぶのは異例だ」
「お互いに所属チームは違うと聞く。マッチングが実現するのか?」
「その辺りはゲーセンの設定によるだろう。同じチーム同士ではないと出来ない部分は緩和されたのかもしれない」
「確かに、イースポーツ大会も近づいていて練習をするのに、チーム同士以外のマッチングが出来ないのは不便だな」
「あくまでもチームA二名とチームB一名対チームC三名の様な事例だけだ」
「その考えで行けば、この組み合わせも納得がいく」
天津風が通り抜けているゲーセンは高層ビル五階建てと言う秋葉原でも大手のゲーセンだ。
AR版は未設置だが、VR版は一階に設置されているので、モニターで観戦しているギャラリーが見えたのかもしれない。
(異色の二人? 一体、どういう事だ)
天津風がセンターモニターの方を見て見ると、混雑をしている為に若干見づらいのだが――片方は間違いなく島風彩音に見えた。
しかし、もう片方の人物は天津風にとっても予想外の人物であるのは言うまでもない。
『私がダークフォースを復活させようと宣言したというのに!』
対戦相手はダークフォース残党なのは明らかだろうが、その外見は明らかにファンタジー系で言う様な魔法使いである。
アーマーとして存在するのは間違いないが、好き好んでヒーロー物で異世界ファンタジーの装備を持ち込むプレイヤーも滅多にいない。
その人物は魔法使い風のフードありのマントで顔を隠しており、正体は不明だった。しかし、ARメットを被っている様な様子は見られない。
「ダークフォースの復活? 馬鹿な事を言うな! それこそ、SNS炎上再びだ!」
魔法使いの人物に攻撃を加えようとしたのは、彼とマッチングをしたパワードスーツのプレイヤーの方である。
しかし、彼が引き金を引かなかったのはフレンドリーファイアで大幅減点されるのを恐れた為だろう。
そうした事情もあって、別のプレイヤーも彼とは協力せずにソロプレイに走っている。
『ダークフォースがSNSを炎上させたわけではない。炎上させたのは、ダークフォースに嫉妬したネット住民の方だ』
「言う事を欠いて、どの口がダークフォースを正当化させてもよいというのか!」
どうしても茶番劇に見えるだろうやり取りを呆れた表情で見ていたのは、予想外の人物だったのである。
一方の露出が高いようなコスチュームは島風だと分かるが、もう一人は島風とは正反対に露出度は極限と言っていいほどに低い。
「分かっているとは思うが、ダークフォース復活を考える人物をあっさりと強制ログアウト出来るシステムは使わない。その意味が分かるか?」
黒い瞳に反して、赤髪のツインテール、それに左目の眼帯――服装はグレーの改造トレンチコート、こちらもヒーローと言うよりはダークヒーローのイメージだ。
使用している武器と言えるような物は一切携帯しておらず、何で戦うのか魔法使いの人物も興味をしてしているようである。
「運営がゲーマーを重要視し、イースポーツ化も決まったからイメージダウンを恐れて強制ログアウトをしないのだろう?」
魔法使いの人物の回答に対し、彼女は鼻で笑った。そして、拳を作った右手を魔法使いの前に突き出して――。
「本来のゲームとは、下手な炎上案件を持ち込んでいいような場所じゃない。ゲームは楽しむ物だ」
次の瞬間、彼女は右手の指を鳴らしたのである。鳴らしたと同時に武器が出現する訳でもなく、単純に相手を黙らせる為のブラフだろう。
その人物がセンチュリオンだという事を理解したのは、プレイヤーネームを確認した天津風と島風、中継を見ていた一部メンバーのみ。
他のギャラリーは、島風の参戦ばかりに気を取られている為にセンチュリオンは無名プレイヤーと同じ扱いになっているらしい。




