第18話:そして、次のステージへ
プレイ中にホワイトスナイパーから告げられた衝撃の事実、それはヒーローブレイカーがマッチポンプである事――。
その事実はビスマルクの思考が停止する様なレベルだったのは間違いない。
周囲のギャラリーは、そんな事を言われても反応に困っており、どういう対応をすればいいのかは分からなかった。
しかし、そのギャラリーの対応は正しいものであるのは間違いない。
SNSにフェイクニュースを拡散させない為にも、こうした事実を確かめる行動は重要なのだろう。
「これが、私の答え!」
ビスマルクのチェーンソーブレードは青く光り出し、パワードアーマーも発色し始めた。
これがハイパーモードを意味するのは、ホワイトスナイパーを含めて分かっている。
全力で振り下ろしたチェーンソーブレードは、チェーンソーで大木を真っ二つにするような感覚でレイドボスを一刀両断にしていた。
これによって、ビスマルクの逆転勝利となったのである。これには周囲も歓声を上げる所だが、ゲームBGM以外は無音にも近い光景だった。
「ありえない――プロゲーマーが負けるのか? シナリオとは大きく違った結末で――」
ホワイトスナイパーは、その場で膝から崩れ落ちた。まるで、完全敗北したような状態と言えるだろうか?
他のプレイヤーもビスマルクのプレイを見て通報しようとも考えたのだが、それは完全に水を差す行為だろう。
「誰だって、ゲーマーである以上は完全無敵というのはあり得ない。フィクションの世界、夢小説の主人公――そうした存在よ」
息の整っていないビスマルクは、完全に言葉が聞こえていない状態のホワイトスナイパーに対して説教をおこなう。
怒りにまかせて言ったとしても、彼に聞こえるとは到底思えない。だからこそ、彼女は怒りを抑えて――口調を変えた。
「ワタシは、そう言ったゲーマーとしてSNS上で伝説となる位なら、プロゲーマーになる気もしないし、魅力も感じないかも」
その後、リザルト画面に突入し、そこでスコア面でもビスマルクの勝利が決定的となる。
ようやく、沈黙を破るかのような歓声があふれたのだった。ダークフォースや過去の炎上商法、超有名アイドル商法の焼き直し等と言った存在との決別。
「ワタシを縛り付けていた物を解放してくれたのは、間違いなく――ヒーローブレイカーと言うゲームなのだから」
このビスマルクの一言はSNS上で炎上商法のコピペとして広まろうとしていたのは言うまでもないが、そこまでして瞬間的な人気を得てもよいのか?
炎上商法を続けるバラエティー番組のように、ヒーローブレイカーがオワコン認定されてもよいのか?
間違いなく、ビスマルクの一言はアルストロメリアのメンバーを含めて、様々なプレイヤーに影響を与えたのは言うまでもない。
このプレイを見ていた有名プレイヤーは、ビスマルクの言葉の意味を考える。彼女はARゲームに何を見たというのか?
純粋にゲームを楽しむだけが全てではないという者もいるだろう、プロゲーマーやイースポーツ等が広まりつつある状況で彼女の考えを時代遅れと言う者もいるだろう。
ゲーム業界もビジネスであり、プレイヤーはお客であると語るような評論家もいるかもしれない。ゲームに関する考えを人昔の凶悪事件と結び付けられて炎上した事を引き合いにして、否定する者もいるだろう。
少数派の意見を排除し、大多数だけを支持する様な時代ではないのは間違いなく、ダークフォースというSNS炎上勢力が壊滅する事はある意味でも決定的だったのかもしれない。
「ダークフォースは壊滅したとしても、敵は別に存在する可能性を示した」
別のゲーセンに立ち寄り、センターモニターでビスマルクのプレイを見ていたのは三笠だった。
ビスマルクが単独行動をする可能性もあったので、様子を見る為にもゲーセンに立ち寄った結果が今回の事かもしれない。
「ダークフォースは壊滅した。今の彼らは、それこそ昔のアイドルグループを騙るだけのハリボテと同じよ」
三笠の隣に現れた人物は、フードありの上着を着ている為か顔が若干隠れている。
しかし、それでも声で三笠は聞き覚えのある人物と悟っていた。誰なのかは、周囲にパリピ勢力がいる事を懸念して言及しないが。
「アイドルグループの名前を騙るモノマネと? 言い得て妙かもしれないが、所詮はまとめサイトで言及されている低レベル発言だ」
三笠はまとめサイトの様なソースのない低レベルな発言は信じない。その手のサイトには、何度か騙された経験もある為である。
「今のダークフォースには、カリスマレベルの人物はいない。既に脱退したのを確認しているから」
「脱退!? 一体、どういう事だ?」
驚く三笠の表情を見て、彼女は何か含みを持たせるような発言をした。
そして、その発言に対して三笠は釣られたのである。それが彼女の目的なのは定かではない。
「今のダークフォースコミュニティの権限を持った人物は、既に逮捕された人物と聞いている」
「今の権限? 前の管理人は権限をはく奪されたのか?」
「そうらしいわ。それより前はヒュベリオンが持っていたらしいけど、真相は不明。後にガーディアンが解析するかもしれない」
「事件は解決していないとでもいう様な口ぶりだな」
三笠は事情が詳しいこの人物に対し、炎上勢力やパリピに味方しているのか疑う。
そして、彼女は何かの武器を構えようとARガジェットを立ち上げるのだが――。
「ARゲームでは、脅迫行為等にARガジェットを使う事を禁止している。それが何を意味するのかは、一番あなたが分かっているはずよ」
フードを被った人物は、自らフードに手をかけ、三笠に対して素顔を見せた。その人物は、何とセンチュリオンだったのである。
それに対し、三笠はどうしても彼女に尋ねたい事があった。それは――。
「ゴリ押しは好きではないが――ヒュベリオンの正体を教えろ」
「まとめサイトでは様々な憶測が立てられている。それでも?」
「WEB小説の作者、ゲームのナレーション、本編外で関与する別作品のキャラクター、芸能事務所の陰謀、どれもこれも違うだろう」
「そうした単語は全てフェイク。真実とは言い難い。どれもこれも憶測にすぎないけど、現実的ではないわ」
「リアリストを気取るか?」
「私は夢女子や妄想の強い勢力とは違って、そこまで世界に干渉しようとは思わないもの」
「この世界――リアル世界の二次創作がサイト等で存在したとしても?」
「それこそメタ発言でしょ。この世界は自分達からすれば――」
三笠はセンチュリオンにヒュベリオンの正体を尋ねるのだが、それに答えるような気配はない。
それだけでなく、彼女はこの世界の新実に関しても知ってしまったようなフリをしていたのである。
「ダークフォース壊滅のシナリオは想定内だったが、まさかの役者変更に追い込まれるとは」
ビスマルクの中継を社長室でチェックしていたヒュベリオンは、一連のシナリオを変更に追い込まれる事を理解した。
そして、次こそはマッチポンプやSNS炎上等に頼る事のないステージを用意する必要性も同時に感じる事となる。
「ビスマルク、WEB小説上でも見かける名前だが――彼女は何者なのか」
ビスマルクと言う名前自体が本名ではないのは分かっているが、その正体にヒュベリオンは関心を持つようになった。
アルストロメリアとして行動していない事は把握している一方で、謎の部分は多かったのである。
「さて、アルビオンが何か気付く前に――まとめサイト連中を一掃するのが先か」
ビスマルクの中継を視聴後、ヒュベリオンはあるサイトの存在に気付いた。それは、アルビオンが立ち上げた考察サイトである。
その内容を要点だけチェックした結果、あるものの存在を彼は気付いたような書き方をしている事が分かった。
これがSNSで拡散されれば、無用な炎上が起こるのは明白だろう。それを止める為にも、ヒュベリオンはある行動に出るしかないと決断する。




