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ホワイトスナイパーは「後がない」と言っていた。しかし、ビスマルクには思い当たる事がない。
一体、彼は何を焦っているのだろうか? 全てはこのバトルで明らかになるのだろうか?
(サイキックライフルのパターンも他ユーザーに使われている以上、向こうも把握しているのは確実――)
彼がESPを使っている最大の理由は、使用するスナイパーライフルではなく別のサイキックライフルと言う武器でのテクニックだった。
しかし、この技術は既に彼以外にも使われており――彼独自と言う物ではなくなっている。それで勝ったとしても、おそらくはネット上でも話題にならないだろう。
そう言った事に加え、ダークフォースの壊滅、SNS上での様々な炎上が彼を焦らせており、遂には――アレに手を出すまでに至ったのである。
使用アーマーは他のアーマーを色々と組み合わせたパッチワーク、それをマントで隠していたのだが、ビスマルクもある程度は察していた。
もしかすると、ビスマルクはマントにスナイパーライフルと言うプレイヤーに覚えがあったのかもしれない。
「こちらも本気を出させてもらうわよ!」
一〇秒が経過した辺りでビスマルクも動き出す。どうやら、向こうとは別のターゲットを狙う様でもあった。
今回のレイドボスはターゲットの行動パターンから固定コアである事が判明する。既に他のプレイヤーはコアへ向かっているのだが、ビスマルクは出遅れていた。
【あの調子だとビスマルクは、上位に入れないな】
【このゲームは対戦格闘のように対決するものではない。他のプレイヤーに倒されて終わりはないだろう】
【それでも、スコアで出遅れるというのはあるだろうな】
【他のプレイヤーとはチームを組んだとしても、協力プレイはめったに見られない。それこそ、即席チームではなおさらだ】
中継を見ているプレイヤーからは様々なコメントが飛び交う。
中には、無関係にアイドルグループの宣伝をしている様なつぶやきもあったが――それらはスルーされているようだ。
(完全に焦っている。あの調子では自滅するな)
センターモニターで中継を見ていたのは、天津風唯だった。
彼女はホワイトスナイパーが、明らかに焦りを見せているのをプレイが始まる前には分かっている。スナイパーが突撃兵のような戦術を取った段階でフラグなのは分かっていたから。
「あのスナイパーって、ホワイトスナイパーか」
中継を見て、ようやく気付いたのは木曾アスナである。最初は突撃兵のように突っ込んだ事で誰なのか識別できなかったようだ。
ホワイトスナイパーとはアルストロメリア合流前に何度か動画で見覚えがあるのだが、そのスタイルとも違う事には違和感を持った。
(何かが引っ掛かる。まさか、チートを使っているのか?)
木曾はホワイトスナイパーの武器の威力に関して、何か引っかかるような物があった。
遠距離系武器は威力が全体的にダウンしているだけに、アンノウンに対して一撃で沈むという箇所は明らかに怪しい。
雑魚クラスであれば錯覚と言えるだろうが、明らかに中ボスに近いようなアンノウンに対してワンパンチ撃破と言うのもおかしな話である。
ビームサーベルやビームブレードと言った接近武器の威力を銃弾一発で叩きだしているのだ。
三〇秒位が経過し、レイドボスのライフは五割まで減っていた。三〇秒で五割削られるのは明らかにおかしい。
接近武器を使うヒーローもプレイヤーの中にいたので、彼が殴り続ければ削れない事はないだろう。
しかし、そのプレイヤーはアンノウン撃破がメインでボスは削っていない。つまり、ボスを削っているのはホワイトスナイパーと一部プレイヤーだけだ。
そのプレイヤーは、銃火器で武装した突撃兵なヒーローが二人、ホワイトスナイパーの合計三人。明らかにこれで削れるとは思えない。
つまり、木曾はこのプレイヤー数で五割のゲージを削れるのは明らかにおかしいと指摘したのである。
弱点があって、そこから削っているのであれば更に話は違ってくるだろうが、コアがむき出しになっていないボスをどうやって削るのか?
(だが、チートだという証拠がない。ガジェットによる強化は禁止されていない以上、そう説明されたら終わりだ)
木曾は今回のバトルに参戦していれば、向こうのトリックを見破れる自信はある。
しかし、詳細が分かっていても木曾はゲーム外から見ているしかないので、通報をしたとしても信じてもらえるかは不明だ。
「三人のプレイヤーで削れる訳はないだろう」
ビスマルクがレイドボスのエリアまで接近、他のプレイヤーがダメージを与えている現場に到着する。
しかし、開始三〇秒であそこまで削れるのは――。
「来たか、ビスマルク!」
「ホワイトスナイパー、お前はこのバトルでどのようなトリックを使っている?」
「トリック? つまり、私がチートを使っているとでもいうのか」
「そうでなければ、ここまで削れはしない。攻略法が確立されている様なボスであればパターンはあるだろうが、これには確立されていない」
ビスマルクは近接で攻撃力と貫通能力のある武器で削ろうとも考えたが、それでは向こうの思うつぼだ。
止めを向こうが決めてしまったら、自分の負けは明らかだろう。その為、ビスマルクが呼び出した武器は――チェーンソー型のビームブレードだった。
「お前達は高層建造物の上から狙い撃て!」
ホワイトスナイパーの指示を聞き、二人のプレイヤーが移動を始めた。ヒーローなので飛行手段はないだろう。
実際、ジャンプやホバー等を利用して三階建てビルからの狙撃を行おうとしている。
固定砲台の類は周囲に確認出来ないが、おそらくはホワイトスナイパーが無力化したのだろう。三階辺りの高さからでは明らかに向こうも攻撃は出来ない。
(あのヒーローがチートを使っているのか?)
ビスマルクは思うが、実は当てが外れていた。あちらは、むしろ囮と言えるだろうか?
「分かっているな? このゲームは協力プレイだ。自分を撃てばペナルティになるぞ」
ホワイトスナイパーの正論に対し、ビスマルクはブレードを強く握っている。
そうなると、やる事はひとつしかない。レイドボスに接近し、ゲージを削る事だ。
ホワイトスナイパーも既に別エリアへと向かっており、おそらくはESPの浮遊能力であっという間に狙撃ポイントへ向かうつもりである。
(言いたい事を言われっぱなし――これ以上は!)
ビスマルクの我慢も限界に達した、その時である。
彼女は瞬時にして周囲の建造物等を把握、パワードアーマーのブースターでレイドボスへの接近を試みた。
「馬鹿な! そんな無謀なプレイが――通じるのか?」
ホワイトスナイパーもビスマルクが道路経由でレイドボスへと接近しているのは分かっているが、あっという間にレイドボスに到達するのは無理な話だろう。
それこそ、チートや不正ツールが疑われるのは確実だ。実際、別のユーザーがビスマルクのプレイを見てチートと判断して通報を行っている。
ビスマルクの本気は、ある意味でも周囲に衝撃を与えている。パワードアーマーのホバーを利用した高速移動術は、既に別の人物が確立していた。
何を隠そう、その人物はトップランカーの大和であるのは間違いない。あの技術を真似るのは不可能と誰もが思っていたのを、ビスマルクはマスターしていたのである。
(おいおい、話が違うぞ!)
(あのプレイヤー、バケモノか?)
狙撃をしていたプレイヤーも、ビスマルクがあの距離からあっという間にレイドボスの場所まで接近した事に驚くしかない。
距離にして、おそらくは二〇〇メートルと言うべきか? パワードアーマーのブーストは一〇〇メートルを三秒位で移動できる瞬間速度を持つ。
それでも、ブーストは一回使うと再チャージに時間がかかる。それを再チャージなしで二〇〇メートルの距離を瞬間的に進むのは異常だ。
「ダークフォース再建の為、あのツールにも手を出したというのに――それさえも無駄なのか?」
ホワイトスナイパーは思わず、自分があるツールに手を出した事を口にしてしまう。
それをビスマルクが聞き漏らすはずもなく、チェーンソーブレードでレイドボスに対して連続斬撃を決めていく。
「プロゲーマーと言う称号まで持っているのに、SNS上で目立ちたいという理由だけでチートツールに手を出すというのか!」
「こちらとしても、プロゲーマーだけで何とか出来る訳ではない。だからこそ、安全策としてダークフォースの力を借りる事にした!」
「そこまでして――あなたの行動によってSNSが炎上しても、何も見向きもしないと?」
「なりすましプレイヤー等もいる中で、個別にプレイヤーの言動等を全て運営が管理出来るとでも?」
二人の言葉は、まさにストーリーモードにもあるシナリオを思わせる展開になり、まるで再現している様な気配にもなっていく。
それに対し、中継を見ているプレイヤーはコメントを打ち込む事も出来ず、見るしか出来なくなっていた。
「ダークフォースには、他にも構成員がいたが――連中は既にガーディアンが逮捕している頃だろう」
「ガーディアンが?」
「こっちとしても自分がプロゲーマーである事を意図的に拡散され、炎上するのはさすがに避けたかったからな」
ホワイトスナイパーの話は、確かに矛盾していない物だった。SNS上でもダークフォースの構成員や幹部も逮捕されているとまとめサイトにも書かれている。
これらは偽物ではなく本物のニュースであり、この内容にはチェックしていた三笠等も衝撃を受けていた。
「それに、こちらとしてはヒュベリオンのやっている事は、どう考えてもマッチポンプだと分かっていたからな。だったら、それに乗るまでだ!」
「マッチポンプ――ですって!?」
ホワイトスナイパーの発言を聞き、ビスマルクの手が止まり、思考は一時停止した。
「本来の自分の役目は、アルストロメリアに情報を提供し、成長を促す役割だったようだが――」
更なる発言を聞き、ビスマルクは完全にヒュベリオンと言う人物の掌で踊らされていた事実を知る。
そして、そのやりきれない怒りは何処にぶつけるべきか――悩んだ末に、出した答えは周囲のギャラリーすら驚くような展開だった。




