第14話:変化するフィールド
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・午前3時42分付
誤植修正:秋月千早照月アスカ→秋月千早、照月アスカに変更。
午後二時一五分、SNS上では何処から情報を仕入れたのかは不明だが天津風唯の情報が拡散している。
一部の情報がフェイクニュースなのは明らかで、目的はアフィリエイト収入だろうか。事実を伝えているSNSその物がゼロに近い。
「一足遅かったか」
ダークフォースのコミュニティを見ていたのは、ホワイトスナイパーである。
彼は隙を狙ってアルストロメリアに奇襲を仕掛けようとしたが、思わぬ人物の参戦は彼にとっても想定外だった。
天津風と言う名前には聞き覚えがないのだが、アルストロメリアに加わった事は相当の実力者だと察する。
「次こそは、次こそは必ず」
彼自身、実は数日前に長門ハルと思わしきプレイヤーとマッチングし、敗北をしていた。
しかし、後にこのアカウントが長門違いであると判明し、SNSの情報に関して疑問を持つようになっている。
【今以上のチートツールらしい物が発見された】
【本当か?】
【何でも、ある戦術データを参考にしたという話だ。一時期に現れたブーストアプリと原理は同じだろう】
【つまり、持ち込めばチートとは判定されないと】
【その通り。補助アプリはARリズムゲーム等の一部ジャンル以外では使用可能な立派な公式チートと言ってもいい】
ホワイトスナイパーが見ていたスレは、いわゆるチートツールの探索スレと言う物だった。
そこで、変わったツールを発見したという話があり、該当するURLをスマホ画面からタッチする。
「これが、ツール?」
最初、ホワイトスナイパーは騙されたと感じていた。見た目は明らかに別ゲームで使われるような戦術ツールの一種である。
アプリの説明を見ただけでは、効果的な物とは思えない。やはり、楽な勝ち方は存在しないのか?
(しかし、仮にもプロゲーマーになった今では使うべきなのか?)
ホワイトスナイパーは、他のゲームではヒーローブレイカーと違ってかなりの実力者となっており、プロゲーマー契約も数日後に控えている。
それを踏まえれば、ここでチートに手を出してSNSで炎上する事は全てを失うという意味だった。
「これ以上、連中に敗北して炎上するよりは――」
アルストロメリアに勝利して邪魔者を片付けるのが優先と考えたホワイトスナイパーは、アプリをARガジェットにインストールする。
ガジェットへのインストールはアプリをダウンロードした地点で自動的に行われていた。面倒なガジェット経由でのダウンロードよりは楽だろうか?
「今に見ているがいい、アルストロメリア!」
彼は、今までに見せたことないような狂気の表情で、アプリがインストールされたARガジェットを見続けていた。
同時刻、天津風は指定されたコミュニティにアクセスし、そこでリアルアバターの秋月千早、照月アスカ、途中で合流した木曾アスナと出会う。
リアルアバターは三人共にARスーツは装着しておらず、天津風にとっては不思議な光景だった。この場には、島風彩音は一時的にログアウトしているようである。
アサシン・イカヅチも同様に一時ログアウトをしていた為、このコミュニティにいるのは三人だけらしい。
「全員そろっていないけど、後で報告すればいいわね」
秋月は残りメンバーが揃っていない事には残念に思うが、そうも言ってられない事情がある。
それはSNSでの拡散スピードだ。これは明らかに何かを狙っている可能性が高い。
「メンバー募集って、今もやっていたの?」
木曾は自分の時とは違う経緯でここにやってきた天津風に違和感を持つ。
チーム参戦自体、色々と方法があるので同じ方法で参戦したとも思えないが。
「今もやっているけど、こっちで明らかな炎上勢力と思わしき人物とか弾いているし」
秋月はチーム加入の手続き自体を終了した訳ではないと木曾に説明、そこで色々とARゲームにおけるチーム加入の手続きも説明した。
ゲームによってはチームと言う概念がなく、ギルドやライバル登録と言う物になっている事もあるが、ヒーローブレイカーではチームと言う形になっている。
「それならいいか」
木曾は、システムが分かるとあっさりと切り替えた。今は、天津風の件が重要だろう。
「とりあえずあなたたちに話したい事だけを説明するわ」
天津風が三人に見せたデータ、それはARゲームを題材とした自分のWEB小説である。
ちなみに、木曾はこれを天津風を調べている際にチェックしており、内容をある程度は知っていた。
「これは、なんですか? 小説に見えますが」
「小説よ。それも、WEB上で公開された小説――ネット上ではWEB小説とも言っているわね」
照月の疑問を、天津風はあっさりと答える。秋月も似たような疑問を持っていたようだが、ある程度は理解した。
木曾は内容のある程度を知っているので、すぐに状況を理解している。
小説の内容をチェックしていく途中で、誰かがログインしたというメッセージがコミュニティに表示される。
しかし、三人は小説の方に集中している為に誰がログインしたのかを確認出来ていない。
天津風の方もお客様扱いなので、誰が来たとしても三人に知らせる事はしなかった。
(誰か来ているのか?)
ログインしたのはイカヅチである。
コミュニティの入り口にはログイン中のメンバー名も表示されるが、何時もの三人とゲストが来ているのは確認していた。
入口から入り、会議室へ向かうと――そこには小説を読んでいた三人の姿と白衣を着ている一人のゲストがいた。
アバターの方は貧乳であることを強調しているように見えるが、彼女がリアルと同じ外見とは限らないだろう。それでも、イカヅチには誰なのかは分かっている。
「お前が天津風か」
イカヅチの目は、まるで敵を見るような目つきをしている。明らかに、天津風を敵と認識している様な気配もした。
しかし、今の彼女はゲスト扱いとしてログインしているので、下手に騒動を起こす事はしない。
ゲストアカウントでログインしたプレイヤーには配慮しなくてはいけない決まりもある以上、それに従うしか選択肢はなかった。
「あなたがアサシン・イカヅチね。動画サイトで色々と動画はチェックしているから、全く知らない訳じゃないけど――本人に会うのは初めてね」
天津風でも、リアルでバーチャル動画投稿者に出会うのは初めて――と思われがちだが、実は三笠も近い事をしている。
それでも、リアクションが薄いのはどういう事だろうか?
「何をしている?」
「これを読んでもらっているのよ。一応、話をするのにも何も事前情報なしで話すよりは――」
天津風が手にしているのは三人が読んでいる小説だった。イカヅチもそれを手にとって、黙読で小説をチェックし始めている。
しばらくして、イカヅチがチェックしている所で木曾が見終わったらしい。
「そう言えば、この小説では超有名アイドル商法を巡る争い等も書かれていたみたいだけど」
小説をチェックし終わった木曾は、天津風に事情説明を求めた。
何故、この小説を持って来たのか? これ以外にも彼女の小説は存在し、むしろ出版化されている作品でもいいはず。
「確かに、自分は他にも小説を書いているし、中には出版された物もある。でも、これにしたのにはこれから話す事と関係があるから」




