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天津風唯はAR版をプレイ後に、VR版にも触れていた。
レバーを使う箇所を含め、操作感覚はまるで違うと言える。しかし、それだけでAR版は不要とか言うべきではない。
それこそ、ネット炎上を招くようなことであるのは明らかだろう。
(やはり、どちらかに集中するべきなのか。もしくは両方共プレイするべきか)
センターモニターで天津風が視聴していたのは、AR版でのプレイだった。
VRの方は以前にもプレイしていた事もあり、特に変更されているような箇所は見当たらなかったらしい。
(どちらにしても、一定回数のプレイで見極めるべきか)
AR版でのプレイは、レイドボスの撃破が目的のレイドモードである。
レイドボス以外とバトルする事を対象としたモードは、実装の予定が予定がないようだ。四月の段階でも明言はされていない。
「固定型のボスは、やはり攻撃手段によってプレイスタイルを変えるべきか」
自分のプレイを見て、微妙に動作関係が遅い事に気付く。遅すぎるとレイドボスを撃破されてしまい、スコアにも影響する。
そう言った事情もあって正確なプレイが求められるのは当然の流れだろう。
(それに、いつダークフォースのプレイヤー等と当たる可能性も否定できない。そうした不特定多数のリスクと、どう向き合うべきか)
今回の相手は普通に中堅プレイヤーだったが、ダークフォース等とマッチングする可能性だって否定できない。
それを踏まえると、オフラインプレイの方がベストなのではないか、とも考えてしまう。
しかし、ARゲームはチート対策を含めた様々な要素を踏まえてオンラインで運営されている事が多い。さすがに、サービス終了後はオフライン運営だが。
中には認識関係でネット接続必須のゲームも存在するのだが、そうしたゲームの場合は続編になると前作の事を忘れ去ってしまう可能性が――。
「いつの時代も、ゲームが新しくなるだけでは付いていける人物は増えないという事か」
イースポーツ関係もそうだが、やはりゲーム環境を整えて万全の物にしていかないとプレイヤーは集まらない。
白熱する様なプレイが生まれるには、プレイヤーの腕も必要だが、サポート体制を万全にする必要性が出てくる。
天津風は様々な手段で今のゲーム業界に足りない物をメッセージとして伝えるのだが、それが正しく伝わっているとは限らない。
中には、天津風の発言を利用してSNS炎上を考える組織もいるのだ。ダークフォースは、その事例に当てはまりそうだが――今の彼らでは該当しないだろう。
「全ては始まったばかりだ。ダークフォースは、先兵に過ぎないだろう」
天津風はダークフォースを全滅させたとしても、その先に何かがある事を予測している。
その正体が何なのかは未だに分からない。もしかすると、彼女は既におおよその正体を把握している可能性もあるだろう。
(ARゲームが無法地帯となったら、今度こそ――)
プレイ動画の方が終わると、天津風はゲーセンを後にする。あくまでも目的は達成できたので、別のゲーセンへ向かうのだろう。
それに、人の数も増えてきたので順番待ちが発生する可能性も高い。
午後二時、社長室で引き続き情報収集を行っているのはヒュベリオンだ。
彼は何としても、炎上勢力を何とかしようとしている。そこで、彼が取った手段こそが――。
「さて、そろそろ動く事にするか」
彼が社長室の机にあるノートパソコンとは別に、スーツのポケットからスマホサイズとも言えるような小型端末を取り出す。
端末に電源を入れて、自動認識が行われた後、ホログラム型のモニターにはあるサイトが表示された。
「本来であれば、まだ動くべきではないのだが。一部の迷惑ユーザーの暴走が、スケジュールを早めるのだ」
そのサイトとは、何とダークフォースのSNSコミュニティサイトである。何故、彼がそのアカウントを持っているのか?
ヒュベリオンがログインしたのは会員や構成員程度のアカウント権限ではない。相当上に該当する物だ。
しかし、様子がおかしいと感じたのはログイン後の画面表示を見てからである。
《上級者権限が別ユーザーに与えられています》
《現在、サイト管理権限は制限されております》
まさかの展開だった。ヒュベリオンが持つ権限はいつの間にか制限され、更なる上級者権限も別ユーザーに移動していたのである。
一体、ここまでの行動を誰が行ったのか? ヒュベリオンの持つパスワードはワンタイム方式ではないが、簡単に特定される物ではない。
それに、サイト管理権限も制限がかけられている物も存在している。あの時にメッセージを入力した際は、何も警告文は出なかったのに。
(誰が、ここまでの事を? このパスワードは一般スタッフに教えた覚えもないのに)
間違って誰かに教えたという線は全くない。むしろ、個人的なパスワードを誰かに教えるのか?
ヒュベリオンには思い当たる節がないので、もしかするとあの時のハッキングで何者かが入手して悪用している可能性も否定できない。
「この借りは高くつくぞ」
仕方がないのでダークフォースのSNSへのアクセスを諦め、ヒュベリオンは別のゲーセンへと向かう事にする。
そのゲーセンではヒーローブレイカーも稼働したばかりと聞く。会社からは徒歩五分弱と近場なのも大きいだろう。
同時刻、アルストロメリアのメンバーは谷塚駅近くのゲーセンへ集まっていた。
ただし、この場にいないのは撮影の関係で不在の木曾アスナと竹ノ塚のゲーセンからアクセスしているアサシン・イカヅチだろうか。
長門ハルはリズムゲームのをプレイしており、この場にはいない。島風彩音も別のコスプレ撮影でSNSにもログインしていなかった。
「このメッセージ、どう思うかな?」
秋月千早が自分の所に届いたショートメールを見せるのだが、その内容は衝撃的な物である。
【合流可能であれば、アルストロメリアへ合流したい】
「このメッセージだけで信用しろと言うのは、言い過ぎでしょうけど」
照月アスカはメールの差出人を見た上で、この反応である。認証マークの関係で本物と分かるのだが。
『この人物には見覚えがある。会って話をするだけでもありだとは思う』
木曾は自分が調べていた人物でもある天津風からのメールに、実際に接触する事を勧めた。
『天津風唯、聞き覚えないな』
イカヅチの方は、若干興味なさそうな気配がする。実際、名前にも聞き覚えがないので仕方がないのだが。
『彼女はARゲームのシステムを生み出した人物と言われている。現在稼働しているゲームは、彼女のアイディアが元になっているとか』
「そこまでのレベルなの?」
木曾の発言を聞き、秋月も若干の言葉を失った。まさか、ここまでの人物がアルストロメリアにメッセージを送ってくるとは。
『ARゲーム自体はゲームメーカーが開発した物だが、そのいくつかは天津風がWEB小説で執筆した作品に出てくる物と言う話もある』
再び、木曾の発言で周辺は静まりかえったのである。それ程の人物が、どうして接触をしようとメールを送ってきたのか。
なりすましではないと分かってはいるのだが、同姓同名の別人もあり得る。
『それに、本名に近い人物は他にいないだろう』
それを聞き、照月と秋月は次の言葉が出ない。
自分達はハンドルネームに近い事もあり、ここまでのリスクを伴って本名で活動するのか?
最終的には、一応話だけでも聞こうという事で接触をする事にした。




