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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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12-2

 四月六日から七日にかけて、ダークフォースを名乗るフラッシュモブに近いようなプレイヤーがARゲームを炎上させる事態が起きる。

しかし、これらは運営側の適切な対応、ガーディアン等のプレイヤーによる炎上勢力の摘発等で炎上は阻止された。

『これはこれは――何も聞かないパリピ等から消していくという作戦ですか』

 ダークフォースのコミュニティが閑散し始めてきたのを見て、アルビオンは何かを察する。

人が減ってきたというよりは、厳密に言えばパリピの様な勢力をガーディアンに協力してもらって排除したというべきか。

(しかし、ああも都合よくガーディアンが動くとは思えない。まさか――情報が流出しているのか?)

 アルビオンは、ガーディアンがああも都合よく動くとは考えにくいと考えた。

それは、ダークフォースにスパイがいる事を意味している。しかし、本当にスパイがいるのかと言われると疑問はあるだろう。

(そもそもセンチュリオンが来た段階で疑うべきだったのだ。彼女の存在は、ダークフォースにとっては劇薬も同然――)

 センチュリオン、彼女のSNS上での動き等を踏まえると明らかにアレな雰囲気も感じられる。

彼女を迎え入れたのは、いうまでもなくダークフォースの上層部だ。ヒュベリオンと言う人物も、上層部には所属しているが本人が何かに言及した形跡はない。

【ダークフォースを名乗るプレイヤーが次々と摘発されている】

【ガーディアンの仕業と言うべきか?】

【一体、何を企んでいるのか?】

【上層部に意見する事は、許されない事なのはコミュニティに入った段階で分かっているはずだ】

【彼らはダークフォースを滅ぼしたいのか? それとも活躍させたいのか?】

【どちらも違うな。おそらく、その中間点と言う気配もする】

【だが、ガーディアンは本格的にダークフォースを潰しにかかっているだろうな】

 コミュニティでも上層部から無闇な炎上行為に手を出さないように釘をさすメッセージが発表され、更に言えばアルストロメリアには手出し禁物と明言された。

これに関しては不満もあるかもしれないが、アルストロメリアの活躍を考えると明らかに炎上勢力が潰されるのは時間の問題かもしれない。



 四月七日、アサシン・イカヅチはヒーローブレイカーをプレイしている。しかし、今回は他のメンバーもいない。

(明らかに、他のプレイヤーが妨害をしているとは考えにくいか)

 パリピプレイヤーは次々とアカウントを削除されているのだが、それでも勢いを踏まえると追いついていないのが現実だろう。

「そう言えば――」

 プレイ終了後、イカヅチはゲーセンを出るルートの途中で何かのカードゲームを発見した。

筺体的にはオンラインのTCGをベースにしている物ではなく、リアルのカードを使ったキッズ向け筺体と言うべきか。

その画面に映し出されていたヒーローにイカヅチは見覚えがあった。そのヒーローの名前は――。

(アルビオン? まさか、あの時のヒーローはリアルのアルビオンだったのか)

 特撮ヒーローとして有名なアルビオン、それは日曜の朝に放送されている特撮番組シリーズの事である。

視聴率に関係なく、SNS上で話題となる作品であるのは間違いない。しかし、ヒーローブレイカーでコラボしたという記憶はないのだが――。



 七日午後一時頃、ヒュベリオンは草加市のゲームメーカーに戻り、昨日の資料を纏めていた。

西新井で接触したゲームメーカーの人物とは友好的な情報交換が出来た一方で、とある意見を聞く事になったのである。

ヒュベリオンとしてはメーカーにとってもプラスになるような情報であれば、とことん利用するだろう。

(彼らは良くやってくれている。ARゲームのエンジンを使用して、ここまでの物を作り上げたという意味でも)

 レポートに関してはノートパソコンへデータとして記録されている。

その量は、ある意味でもかなりの物と言えるだろうか。

(我々は諦める訳にはいかないのだ。特定芸能事務所がコンテンツを食いつぶして、不要になったら捨てていくような世界は、もう不要にしたい)

 ヒュベリオンの思い、それはARゲームを守るために動いている人物を思わせるような物だった。

周囲のスタッフも、それを確信していると言ってもいいだろう。



 時間は六日の西新井でゲームスタッフと接触した時までさかのぼる。

パチンコ店でスタッフと遭遇し、そこから徒歩でビルまで移動をした。その間、わずか五分ほどだろうか。

「我々は、特定ジャンルだけが注目されるような現状に、どうしても不安を感じるのです」

 西新井にあるテナントビルの三階、その会議室でスタッフ数人とヒュベリオンは情報交換をしていた。

その内容は、ARゲームに関する情報交換がメインである。そして、それとは別に、もう一つの目的もあったのだが――。

「過去に有名だったジャンルが今も人気があるのは分かります。しかし、特定ユーザーのみが注目している現状は我々にとって不安なのですよ」

「新規ユーザーを開拓できるような工夫をしているのであれば、今も不動の人気があると判断出来るでしょう。そのようなコンテンツが、現状でいくつあるのか」

「我々としては、一部の特定ジャンルのファンが過激派として他コンテンツを炎上させる事件は起きて欲しくないのです」

『それは、超有名アイドル商法を巡る事件と考えてよいでしょうか』

 他スタッフの声を聞き、ヒュベリオンはある事件を繰り返すような炎上を起こしたくないという理由で、ARゲーム業界が委縮してしまうのはあってはならないと考えた。

「その通りです。我々は芸能事務所二社の共同連合に買収されかけた事があります」

 スタッフの一人がヒュベリオンに切り出したのは、まさかの発言である。

その内容は、特定芸能事務所が生み出したコンテンツ業界の歪みを正す為にも最重要である事――ARゲームのエンジンを託す事だった。

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