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・午前3時46分付
カクヨム版公開に伴う誤植修正:イカヅチ取る→イカヅチにとって~、~フル→カラフル
バトルの方は最後の十秒を切った辺りで決着する。レイドボスを最終的に撃破したのはアサシン・イカヅチだった。
イカヅチとしては近接射撃という『他のゲームでは、まず自滅行為と言われかねない』行動に出る。むしろ、戦車の主砲が頭領の方に向けられていた事が、この行動に出た理由だろうか。
最後に決め手となったのは、レイドボスの戦車まで数十センチまで近づいた所で懐から投げた二本のナイフだった。
「そう簡単にやらせるか!」
頭領側のプレイヤーが投げたナイフに気付き、それを撃ち落とそうとバズーカを撃つ。実際にプレイヤーへ直撃しなければ誤射にはならない事を逆手に取った戦法だろう。
ナイフを撃ち落とせばイカヅチにはスコアが入らない事に加え、バズーカの爆風でレイドボスにダメージを与えられるので一石二鳥と考えたのかもしれない。
しかし、その行動は裏目に出てしまったのである。それは、投げた内の一本のナイフが何かを察知して変形、そこから放たれたビームがレイドボスである戦車に直撃したのだ。
「どういう事だ?」
「確かにバズーカの爆発にナイフは吹き飛ばされたはずでは?」
周囲のギャラリーも疑問に思う。これも一種の不正ツールなのではないか――そう疑うプレイヤーまで出る状態だ。
その中で、状況を呑み込めていたのは秋月千早だったのである。
(まさか、あの爆風もイカヅチには想定内だったのか?)
彼の投げたナイフ、それは小型のビーム発射砲が仕込まれていた物であり、それが機能した事でレイドボスにビームが放たれた。
この構造自体は実際にナイフ型の拳銃としても存在するらしいが、実用性は色々と疑わしい部分があるだろう。
「このような事で、負けるのか?」
頭領自身は今の一撃でバトルが終了した事を、メットに表示されるインフォメーションで知ったばかりだった。
時間切れで何とか出来ると甘い見積もりをしていた彼にとっては、痛い失敗だろう。
しかし、バトルの方は通常処理で終了するとばかり思っていたイカヅチにとっては、あるメッセージの表示が水を差した。
【不正プレイヤーの存在を検知しました。プレイ終了処理まで時間がかかる場合があります】
これが意味する物とは、プレイ前に検知できなかった違法ツールを使ってチートプレイをしていたプレイヤーがいた事を意味する。
外部通報なのか、それともプレイヤーからの通報なのかは一切知らされない為、このメッセージが出た段階でイカヅチは拳を作ってフィールドを叩こうとまで考える所だった。
最終的には頭領が不正プレイヤーと通報されたことで、リザルトはアルストロメリアの勝利だったが――悔いの残る結果となる。
最悪の結果は回避できたのだが、アルストロメリアにとっては苦いバトルとなったかもしれない。
(こちらが、もう少し頭領の事を把握していれば――)
イカヅチは頭領のプレイの邪魔になるような動きをした事で、テンポを崩されたと言ってもいいだろう。
(何とか勝てたというべきなのか。この場合は)
長門ハルの場合は無様な敗北をしなかったものの、自分としては満足のいかない結果と言ってもいい。
勝つときもあれば負ける時もあるのは、どのゲームでも一緒だろう。しかし、ヒーローブレイカーに関してはゲーム以上の何かを感じる以上、その悔しさは今までの比ではないのは確実だ。
彼に関してはアルストロメリアのメンバーではないのでキャ示唆があったとしても、それは不正プレイヤーの責任ではなく別の理由だろう。
このプレイ終了後、秋月の元にメールが届いた事を知らせるメッセージが表示された。
【島風よりメッセージが来ております】
メッセージを送ってきた人物の名前を見て、思わず秋月は二度見する。その人物とは、何と島風彩音だったのも大きい。
内容を確認して、彼女がアルストロメリアに入りたいという意思は伝わったのだが――このタイミングでメールが送られてきた理由は不明である。
(このバトル後と言うのは狙っていないと差し引いても、気になる部分が多すぎる)
本人に聞くのが一番だが、再度送信をしようとしても送信できなかったのだ。サーバーエラーとの事らしい。
(このままで済むと思うな――俺はアシュラの様なかませ犬にはならない)
そう思ったのかは不明だが、頭領は普通にログアウトして姿を消す。その人物像は、モブゆえに分かりづらい。筺体を離れた辺りで自然に背景へ溶け込んでしまった。
さすがに筺体へ蹴りを入れたりすれば出入り禁止になるだけではなく、ダークフォースが悪い意味で炎上して進退問題を問われかねないだろう。
(ガーディアンの方はノーマークのようだな)
やはりというか、ゲーセンを出てからも頭領は捕まっていなかった。
彼は別のターゲットを既に決めており、そちらへと目標を変更したのである。
これにはダークフォースの構成員からも疑問の声が出ていた。批判的な声よりも、これを実行する事に意味があるのかを問う疑問が多いだろう。
「ガーディアンがノーマークでも、こっちはどうかな?」
自動ドアを出て、数メートル歩いた所で姿を見せたのはコスプレ姿の島風である。その外見は何かのラブコメラノベでありそうなカラフルセーラー服だった。
「お前は誰だ? ダークフォースとは違うようだが――」
「あたしはダークフォースではない。しかし、ダークフォースと敵対はしているかな?」
「敵対だと?」
頭領が敵対と言う言葉を出すと、島風はすぐにガジェットの操作を行い、彼女の右手方向には道路がシャッターのように開き、そこからは自分の身長位のコンテナが出現した。
そのコンテナは、過去に運営されていたARゲームで使われるARウェポンやアーマーを搭載したコンテナだろう。実際に、彼女がガジェットをコンテナに近づけると、ロックが解放される。
『ダークフォースが隠そうとし、黒歴史にしようとしているARゲームの原点――』
コンテナが開かれたと同時に出現したのは、サーフボードに戦闘機が合体したようなデザインのガジェットだった。
もしかすると、これはヒーローブレイカーに出てきたガジェットに酷似しているとも頭領は感じている。
島風の方は瞬間的にARメット、ARスーツを装着しており、更にはガジェットの方もアーマーに変形しようとしていた。
もしかすると、あれはヒーローブレイカーにおけるパワードスーツタイプと同じなのではないか、と思うのは間違いない。
「貴様! まさか、ダークフォースの――」
頭領も何故か展開できたARアーマーに違和感を持つ事無く、ガジェットを装着しようとしていた島風を止めようと種子島を撃つ。
しかし、引き金を引いてもビームが放たれる事はない。システムが対応していないのだろうか?
『そこまで分かっていて、ダークフォースを名乗った以上はニワカと言うよりは―ー』
既にアーマーの方は装着完了し、ボード部分は堅アーマーに、戦闘機部分はボディと脚部アーマーに変形して装着されていた。
その形状は、過去に放送されていたアニメに出てきそうなほどのSF的なデザインをしているが、それに関して突っ込めるギャラリーはいない。
『明らかに炎上させる意志を持って、動いていたパリピ勢力と言う事ね!』
島風は堅アーマーが変形した大型ブレードを両手で構え、それを高速移動後に振り下ろし、頭領を気絶させた。
彼としてはもはや何が起こっているのかも分からないような超展開に、思考が追い付かなかったのかもしれない。
五分後には、何事もなかったかのような状態になり、ギャラリーもいつの間にかいなくなっている。
唯一違うのは五分前には気絶していなかった頭領が気絶しており、ガーディアンに連行された位だろう。
「あのガジェットは、運営が使用制限している物だ。君のしたことは――」
ガーディアンの一人は島風が何をしたのかを把握していたのだが、島風は自分が禁止されているガジェットを使ったとは自覚していない。
むしろ、あのガジェットが今も動くことを証明した事を感謝して欲しいという様な状態である。そうしなければ、今頃は頭領も逃走していたはず。
「あれは禁止ガジェットじゃない。今の運営がSNS炎上を恐れて手放した技術――今のARゲームを生み出すきっかけになった原点よ」
島風は、まるで自分が過去の産物を使用出来ると証明したような自信ありげな口調で、ガーディアンに説教をしていた。
ガーディアンでも過去のARゲームで使用出来るガジェットを把握はしている。それも使用制限を破って使ったプレイヤーを処罰する為。
「――分かりました。では、そのように」
島風と会話している男性とは別のガーディアンは誰かと連絡を取っていた。
そして、連絡を取っていた人物の伝えた事を島風に警告をしていたガーディアンにも話す。
「馬鹿な!? 見逃せというのか?」
「向こうは特例として認めるようだ。それ程にダークフォースのやっているSNS炎上の方が問題と言う事らしい」
「あのARガジェットは、下手に暴走させれば警察装備などは雑魚と言えるレベルの物だぞ」
「それは分かっている。しかし、これ以上の決定に逆らう事はガーディアンの職を失う事になる」
この他にも色々なやり取りがあったが、島風には聞こえていない。むしろ、聞こえていない方が幸せか?
最終的にはガーディアンの方も見逃すという事になり、島風は解放された。
(一体、彼らは何を――)
島風はガーディアンの慌てっぷりを疑問に思うが、それは後回しにする。
まずは、合流する方が先だからだ。あの『アルストロメリア』に。




