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戦車タイプのレイドボス、主砲の目の前で攻撃するのは無謀の一言だろう。だとすれば、主砲が自分をターゲットとして狙う前に攻撃を行う必要性が出てくる。
実際、今の主砲は頭領を狙っている形であり、他のメンバーはその隙に戦車へ攻撃しているのだが――効果的なダメージが与えられていない。
サイズ的な問題もあって、攻撃の効果がないというのはレイドボスであっさり倒されるプイレイヤーの愚痴と言ってもいいだろう。
プレイヤーアバターの身長が一八〇位として、戦車の全長は五メートル位に過ぎない。高さは三メートル位に見えるが、そこまで高いのかも疑問が残る。
周囲の高層ビルと比較すると、それが一目瞭然と言う状態だ。向こうは二〇メートル以上はあるので単純比較は厳禁だが。
このレイドボスに手も足も出ないというのは、初心者プレイヤー出ない限りはあり得ないだろう。
(あのタイプの戦車であれば、装甲を削らなければ―ー)
アサシン・イカヅチがアイテムを選択し、手元に取り出したのは弾丸タイプの閃光弾である。
それをアサルトライフルに取り付け、戦車に狙いを定めて撃つ。戦車の一メートル辺りに到達した辺りで爆発し、あたり一面に強い光が放たれた。
レイドボスに対して、動きを止める為に使用したのだが――?
「さぁ、どいてもらおうか!」
戦車に向かって再び突撃して攻撃を加える頭領だが、閃光弾の事はお構いなしに攻撃を加え続ける。
この光景を見た周囲のギャラリーは動揺をしていた。本来であれば、あの閃光弾はレイドボスにも効果があるのだが実は効果範囲内の味方にも当たってしまう。
「どいてもらうのは、そっちの方だ!」
両腕にスナイパーライフルを構え、それを何とアサルトライフル等を撃つような感覚で狙いを付けずに撃った。
このライフルは一発の発射につき、五秒のタイムラグが存在する。これを連射するなんて事は不可能なのだが、今の彼は両腕に同じスナイパーライフルを装備しており、それを交互に撃つ事でタイムラグを解消していたのである。
(何て無茶な事を。これがあのイカヅチなのか)
イカヅチのプレイは稀にFPS等の技術も含まれるのだが、それを目の当たりにして驚くしかなかったのは長門ハルだった。
長門は戦車に対して遠距離武器であるホーミングレーザーなどでライフを削っているが、イカヅチは射撃武器を使っているのに戦車との距離は五メートルもない。
「戦車相手では、近距離武装では部が悪い。これは別の能力で対応するしか方法はないのか」
一方の木曾アスナは、自慢とも言えるようなアガートラームが使えない状況に、悔しがるしかなかった。
接近戦でも対応できなくはないのだが、それではイカヅチの持っているライフルの射程に入る。
この状況は、一歩間違えれば誤射ペナルティを彼に与えることを意味していた。仮にも同じチーム同士なので、これは足の引っ張り合いになりかねない。
序盤の六〇秒は頭領以外が様子見ムードの中で、中盤の六〇秒はイカヅチの一撃が選曲を変化させたと言ってもいいだろう。
「さて、ここで決めさせてもらうか!」
残り六〇秒を切った辺りで、イカヅチはスナイパーライフルでの射撃からアサルトライフルに切り替え、本格的に行動を開始する。
ボスレイドのライフは七割まで削れており、残りはあとわずかだろう。イカヅチのライフル連射も効果的だったのかもしれないが――。
「まだだ! これで終わった訳ではない!」
頭領がライバル心を燃やして、戦車の装甲にビーム刃の薙刀で切りかかる。しかし、効果的にダメージを与えているとは言い難い。
むしろ、イカヅチの方がヒーローブレイカーとしては実力はないものの、他のFPSゲームで鍛え上げた経験値でゴリ押ししている印象もあるだろう。
「こちらとしては、有名になって金を稼ぐ――その為にもヒーローブレイカーは手っ取り早い手段だ!」
頭領の一言を聞き、周囲のギャラリーも凍りつく。アシュラの一件やその他の事件もあって、この手の話題はゲーム内に持ち込まないというローカルルールも存在する。
しかし、それらのルールを破って、ARゲームでリアルの案件を持ち込む事例は後を絶たない。
だからこそ、運営側はまとめサイト等を危険視した結果として、ARゲームエリアである草加市ではまとめサイトを遮断する様な処置を取る運営が存在していた。
「ヒーローブレイカーはゲームに過ぎない。そのゲームをプレイする事の何が悪いというのか? ゲームをプレイするのが犯罪だとすれば、ゲーマーは全て犯罪者だろう?」
頭領の発言は、特大級のブーメランになりかねない事を周囲のギャラリーが把握していた。彼にも焦りが見えているのだろうか?
当然のことだが中継を見ていた構成員等も把握済みであり、彼の発言が更にダークフォースのイメージを落としかねないとも確信している。
(やはり、ダークフォースは過去のカリスマ的な物を感じない。やはり、名前を借りただけの二次創作みたいな物と断言出来る)
この発言はイカヅチにとっても、ダークフォースが過去の都市伝説や有名コピペにあるような存在かどうか――見極める材料にもなったのである。
もはや、彼の眼には迷いなど存在しない。目の前のメッキのはがれたパリピユーザーを倒すのみ。
物理的にプレイヤーを倒すのはゲールルール的にペナルティの対象となる為、圧倒的なスコアで頭領の心を折るしかない。
「そう言ったレッテル貼りをして炎上をさせているのは、あなたたちダークフォースでしょ!」
木曾は自分の考えを統領にぶつけるのだが、それに関しては聞く耳を持たないだろう。
そう言った勢力にとって、自分達に都合の悪い事はありとあらゆる手を使ってでも消そうとする。ただし、それには大規模テロに該当する行為は含まれない。
そんな事をすれば、日本のイメージダウンに拍車をかけ、それこそ地球終了を意味する。
「そんな事は知った事か! 俺はダークフォースの名前を利用すれば、大金が得られると考えて動いているだけにすぎない!」
遂に頭領の本性が見えた。今のダークフォースには昔の様なカリスマもなければ、ガーディアンが対処するべき存在でもない。
今の彼らは過去の栄光を利用して簡単に大金を稼ごうとするような連中と変わりない。
それこそ超有名アイドルの芸能事務所や近年乱発されていた有名作品とのタイアップしたソーシャルゲームの――。
その一言を聞いて、照月アスカは自分があのフィールドに立っていたら、本気で頭領を殴り飛ばしているとも思う。
それ位には彼の一言は、彼女の神経を逆なでするには充分過ぎた。様子見を決めていた秋月千早も、同じような思いだったのも――。
「これがダークフォースの名前を持ったメンバーの発言なのか」
秋月は過去のダークフォースであれば、もう少し発言に責任を持っているはず。だからこそ、一種のカリスマを放っていたと言える。
そのカリスマ性も、頭領の様な有名になりたいがために名前を利用する様な人物が横行している以上、失われたと言ってもいい。
(一体、ダークフォースの名前を利用して何を考えているのか?)
照月はダークフォースの名前『だけ』利用し、ARゲーム全体を炎上させようとする人物に心当たりはない。
しかし、それでも彼女の怒りとも言えるような感情は間違いなく、その人物に向けられていると言ってもいいだろう。




