第7話:PSYプレイヤー木曾
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・11月30日午前3時48分付
誤植修正:俳人向け→廃人向け
三月三一日、もうすぐ新学期も迫りそうな状況下でヒーローブレイカーに新たな風が吹き荒れようとしていた。
その人物とは大和、三笠といったトップランカーに対して追随出来るような実力を持っている。
「あの大和に三笠を? 無理だろう」
「ただでさえ、上位ランカーでも勝てないような状態なのに」
「それほど、三笠と大和は異常過ぎる。あの能力に勝てる人物がいるのか?」
「あの二人こそチートプレイヤーの主犯では?」
「それはあり得ないだろう。チート対策強化がされている状態で、あの二人をチートと疑うのは――」
「対策強化は四月からでは? まだ三月も一日あるぞ」
ゲーセンでセンターモニターを見ていたギャラリーの雑談も聞こえてくるのだが、それに全く見向きもしないでフィールド近くまで向かう人物がいた。
外見からするとコスプレイヤーに見えなくもないだろう。しかし、体型はスマートとは言い難く、ぽっちゃりと言ったような印象だった。
「アレが噂のARゲームか」
その眼はセンターモニターの方には一時的に向いていたが、すぐにフィールドの方へと向かう。
彼女の向かっているのは、明らかにヒーローブレイカーの設置されている場所だった。他のプレイヤーは呼び止めようとも考えるが、無粋だと判断してやめる。
下手に止めたりすれば、色々とある事ない事をまとめサイト等に書かれ天井するのは明白だろう。そうした関係もあって、呼び止めないのかもしれない。
【どちらにしても上位候補が現れたというのは噂だけか?】
【そうではないぞ。実際にプレイ動画もアップされていた】
【確かにあの動画の人物で間違いないだろうが、本当なのか?】
該当する動画を紹介するコメントでは、様々なコメントが書かれているのが分かる。
まとめサイトは信用出来るソースではないと批判的な意見もあるのだが、大手のまとめでは大規模なSNS炎上をする事はないという事でそちらは歓迎されているようだ。
「やっぱり。こう言う展開になってくるのね」
島風彩音は該当する動画を見て、驚くようなリアクションはしていない。
彼女はタブレット端末で一連のサイトを見ていたのだが、これらのサイトはARガジェット等では閲覧できないようになっている。
一種の検閲と言える可能性はあるだろう。しかし、果たして検閲と言う目的だけで情報を規制しているのだろうか?
「油断できないというべき――なのかもしれない」
こう言う展開になる事は自身も分かっていたからと言えるのだろうか? その表情が揺らぐ事はない。
他の上位プレイヤーの中には動揺する者もおり、中にはチートを使ってでも潰そうとするような過激発言をする人物もいたらしいが、真相は不明である。
午前十一時、照月アスカと秋月千早は何時ものARゲームエリアにいた。
二人はゲームプレイ前にセンターモニターで何やら相談をしているようにも見える。
「これを使ってみようと思うのだけど」
照月は以前に動画サイトで見た二人乗りタイプパワードスーツの使用を提案するが、秋月の方は複雑そうな表情をしている。
形状を見て複雑な表情をしている訳でなく、むしろ二人乗りと言う段階で困惑しているのだろう。
「あれは使い方が非常に難しいシロモノよ。上級者向けとも言われているし、今は通常のパワードスーツでうまく立ち回る方が重要だと思う」
あっさりと『駄目だ』的なリアクションをするよりも理由を付けた方が誘導しやすいと秋月は考えている。
動画サイトでアップされている物は上級者向けや廃人向けが多い傾向にあるし、そう言った動画の再生数が伸びるのも分かり切っていた。
中級者向けの動画もあるが、別のサイトで取り上げられているケースが多く、大手では見つけづらい現実もあるのだろう。
「パワードスーツと言っても、立ち回り方はヒーローと同じだけどね」
実はと言うと、パワードスーツは装甲があるだけでヒーローと変わらないという単純解説をするサイトがある位、認知度合いとしては低い物だった。
それを知って彼女がパワードスーツにしたのかは分からない。しかし、プレイ人口が少ない事が理由の一つなのは秋月も何となくだが気付き始めている。
「立ち回りが全く違ってくるのは、VR版だと操作が複雑化するESPの方だと思うけど」
AR版だと直観的に超能力を使うプレイヤーが多く、そうした印象を持たれにくいESPなのだが、実はVR版だと操作関係は複雑になる。
特に飛行能力はヒーローでもアイテム扱いなので、標準的な能力として持っているのはESPだけだろう。
ただし、飛行が出来るだけで圧倒的有利になるようなヒーローブレイカーではない。この辺りは対戦要素を踏まえて様々な調整がされていたのである。




