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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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6-2


 残り時間も半分となった辺りで大きな動きがあった。何と、ガトリング砲でレイドボスを削っていたプレイヤーの動きが止まったのである。

時間切れ以外でゲームオーバーになるような要素はないように思えるが、自分のライフがゼロになると最初の出撃地点に戻される仕組みだ。

しかし、撃破されたりしていないのに動きが止まっている事自体がおかしい。ネットワークエラーでも発生したのだろうか?

(やっぱり、そう言う事ね)

 照月てるつきアスカは動きを止めているプレイヤーに関して疑問に思う部分はあったが、おそらくはペナルティが発生したと思われる。

実際、秋月千早あきづき・ちはやが通報を考えていたのだが、結局はプレイの方を優先して通報は諦めた。

仮に不正データの類が検出されれば、その時にでも動くと考えた為である。

『今回は貸しと言う事にしておこうか』

 チートプレイヤーの通報を行ったのは、どうやらアルビオンらしい。通報方法は運営にメッセージを送る形式とデータログを報告する形式の二種類がある。

どちらでも対応はするが、検証等をする関係もあってメッセージでは対応されにくい。ただし、データログもプレイ終了後でなければ対応されないのでプレイ後にデータチェックと言う形だ。

(あのチートプレイヤーはダークフォースを騙る悪質なプレイヤーだな)

 思う所はあるのだが、アルビオンはダークフォースの現状を良く思っていない。それならば、何故に彼はダークフォースへ協力しているのか?

それを知るのは、本人だけだろう。SNS上では信用できないソースだらけで複雑化するのは目に見えている。

(あの連中は自分達が儲かれば、他の事は一切考えないような連中だ。ああ言った勢力は、いずれコンテンツ流通に障害を起こす)

 アルビオンの言う勢力とは単純に芸能事務所や出版社、大手企業の事を指している訳ではなかった。

一部のモラルを守らないような勢力を指しているかどうかも定かではない。彼の言葉は誰に向けられているのだろうか?



 ガトリング砲のプレイヤーの動きが止まってチャンスと思ったのは、照月も同じだった。

これを逃せば、負ける可能性も否定できないからである。そして、レイドボスの装甲にソードを振り下ろすが――思った以上にダメージが通らない。

「照月、ヒーローブレイカーには一撃必殺技の様な物は実装されてないわ。何とかして削るしか方法はない」

 秋月の一言で照月の手は一時的に止まりかけていたのだが、逆に彼女はソードにエネルギーを込め始めた。

このアクションを見て、秋月は何かの違和感を持つ。あの技はチュートリアルでも説明されるが、深くは言及されないタイプのアクションである。

「あれは、まさか?」

「知っているのか?」

「一種のテクニックと言う事でウィキ等では説明されているが、チャージブレードと言うアクションがある」

 ギャラリーの言及するチャージブレード、それはブレード系の攻撃を効率的にレイドボスへ当てる為のテクニックとして存在していた。

この技自体は上級プレイヤーの間では習得必須、特に遠距離系をメインにしない場合はあるとないではレベルが変化すると言われている。

しかも、このテクニックはVR側のチュートリアルで解説されているのであり、ARではそう言う技がある程度の解説しかされない。

VR版とAR版では入力タイミングなどが大きく異なるので、一部のテクニックは両方で使用可能だが、あえて解説をしていないという事なのだろう。



『これで――決める!』

 青い光を放つソードで大型レイドボスの脚部装甲めがけて斬撃を放つ。その一撃は、見事にレイドボスの動きを止めたのである。

しばらくはその位置を動けなくなれば、秋月の方も駆けつけやすくはなるだろうか。

照月もネット上の動画で発見したテクニックなのだが、これがARで使用出来るとは予想していなかったので無言で驚いているようでもあった。

しかし、その表情はARメットの関係で確かめる事は出来ない。

「チャージブレードってVR側の技術では?」

「実際は両方で使えるようにはなっているらしい。運営からの公式発表はないが」

「公式発表なしって、隠し機能と言う事か?」

「公式チートと言っていいのかは分からないが、一部はそれに近いかもしれない」

 ギャラリーの話がプレイフィールド内のプレイヤーには聞こえないだろう。何が起こっているのか分からないのは、照月の方かもしれないから。

今回の展開で一番納得のいかないのは、間違いなくアシュラだろうか。彼の都合よく進まない展開に対し、焦り始めているのは明白だ。

『こんなことが、あっていいのか? これも大手芸能事務所の陰謀に違いない!』

 明らかな責任転嫁と言うか、ここまでくると見苦しいとしか言いようがないだろう。

そのプレイヤーの末路は、強制ログアウトと言う幕切れであった。ゲームオーバーと言う形では終われず、最終的には失格扱いになるだろうが。

「それが貴方達のやろうとした事の代償よ。ARゲームを炎上させる事は許されない」

 秋月は消滅していくアシュラを見て、聞こえていないだろう事を承知の上で彼に警告をする。

聞こえていたら、次は襲撃してこないだろうが――どうなるかはまだ分からないというべきか。

消滅と言ってもVRプレイヤーではなく、ARプレイヤーである。それが消滅するという事は――。

「消えたぞ? 一体、どういう事だ? これはデスゲームとは違うのでは?」

 その疑問を抱いたギャラリーの一人に対し、回答したのは背後で観戦をしているアルビオンだった。

『ARゲーム及びVRゲームでデスゲームを運営する事は禁止されている。そのようなゲームが展開されていたら、今頃は草加市自体が大炎上をしているだろう』

 アルビオンの方は、それ位常識なのではないか――と言う様な呆れ気味な表情でギャラリーの方を見ていた。

『無知と言うのは恐ろしい物だな。これがエアプレイでの二次創作等で大炎上し、自分が追い込まれる事態になるとも知らないで』

 何も知らない事は幸せと言う訳ではない。彼は、何も知らないで知ったかのように語るような勢力を知っている。

そうした悲劇を繰り返せば、それこそ大手芸能事務所がコンテンツの独占をしてもおかしくはないからだ。


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