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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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第6話:ダークフォースと新たなる敵


 アシュラの発言、それは明らかに何かを意識している物と感じていた。

『ダークフォース、その名を広める! その手始めがこの私、アシュラだ!』

 この発言自体は何か元ネタがある訳ではないと感じていた秋月千早あきづき・ちはやだったが、疑問もいくつか出てくる。

しかし、それを考えていたら手遅れになると思ったのは、照月てるつきアスカの方だ。

秋月にライフゲージを見るように叫び、その異変に気付かせたのである。明らかに、ゲージの減り方は本来の挙動とは異なっていた。

つまり、あのモブプレイヤーは不正プレイヤーと言う事になるだろう。

【アシュラ? あいつが暴走したのか】

【どう考えてもダークフォースにふさわしい人物ではなかった】

【これはまずいぞ。ダークフォースが過去の遺産を使っているに過ぎない組織とネットで炎上しかねない】

【これを止められる人物はいなかったのか?】

【既に別のプレイヤーも監視しているはずだが――】

【そのプレイヤーは既にガーディアンが確保したという情報もサイトに上がっている】

 今回のプレイをネット上の配信で確認しているダークフォースのメンバーと思わしき人物の書き込みが、コミュニティ内で書き込まれている。

彼らにとっては同じようにメールで勧誘された人物でも、アシュラは完全にダークフォースにはふさわしくないと言及する人物もいた。

『アシュラ、彼はダークフォースにとってはかませ犬のような存在だったと――』

 SNSの拡散状況等を調べていたアルビオンは、秋月と照月のいるゲーセンに姿を見せていたのである。

彼の目的は二人への接触と言う可能性もあるが――どちらにしても、現状では自分から姿を見せれば目立つのは明らかだ。

『しかし、奴もマッチングするプレイヤーを把握してから乱入するべきだったな』

 センターモニターをチェックしたアルビオンは、プレイヤー名を見て何かを察する。

明らかにダークフォースのプレイヤー同士で潰しあいをしているような構図には、彼も別の意味で頭を抱える状況だろう。、

しかし、その程度で彼の表情は変化しない。ARバイザーの影響もあって他のプレイヤーには、彼の顔が見えない訳だが――。

『まずは、二人のプレイを確かめる事にしましょうか』

 アルビオンは当初の目的とは異なるものの、せっかくなので秋月と照月のプレイを見学する事にした。

後にダークフォースにとって大きな障害になるであろうプレイヤーを研究する事は、決して損にはならないはずだと。



 一方でアシュラの方は完全無視して他の2名はレイドボスに集中している。既にライフの三割は削られていた。

向こうとアシュラは組んだ訳でもない。単純に目的が一致しているだけの非干渉と言うべきか。

「こっちは、こっちでやらないといけないか」

 照月がモブプレイヤーの射程に入るのだが、向こうがこちらを撃ってくる事はない。

基本的に三対三ではあるのだが、ターゲットのレイドボス以外を攻撃する事は味方への誤射扱いで、減点処置を受けるのだ。

つまり、三対三と言う構図はマッチングやシステムの都合上で区切られているだけで、最終的には六人で協力してレイドボスを倒す形式なのである。

「それでも、二対一では分が悪い」

 照月はCPUの一名がこちらのサポートをしてくれたら助かるとも考えたが、それはかなわないだろう。

プレイヤーの更なる乱入があればマッチング調整も行われるが、プレイ時間のリミットを考えるとそれも難しい。

《残りタイムリミットは一二〇秒です》

 プレイ時間はアンノウン戦がクリア条件達成までに対して、レイドボスは三分である。

アンノウン戦は店舗によって設定が異なるが、これはアンノウン戦が一種のマッチング調整やシステム管理に使われるという理由もあるのだろう。

この店舗の場合はアンノウン戦が二分設定でレイドボスが三分設定となっていた。チュートリアルは進行具合がプレイヤーによってまちまちなので、大体が五分から十分と思われる。

「それに、一分で三割減らすと言う事は、ギリギリで削り倒される事か」

 照月でも即興の単純計算は可能であり、それが様々なゲームで役に立つ事もある。

モブプレイヤー二名を自分で倒すのはシステム上不可能なので、向こうが何らかのアクシデントで動けなくなる事しか削りを止める方法はない。

むしろ、自分もレイドボスの削りをした方が手っ取り早いかもしれなかった。それ位にはゲージ減りの速度は速いだろう。

(向こうは気付いていない? むしろ、レイドボスに集中している事か――?)

 レイドボスは攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気ではないのだが、形状からして固定されたユニットと言う訳でもない。

巨大な足も確認出来る事があり、ロボットではないにしても二足歩行タイプのユニットなのだろう。

武器に関してはいくつか潰されているのを確認出来るが、レーザー砲やミサイルランチャー、左腕はクローアーム、右腕はパイルバンカーとごった煮感が高い。

本来であれば、レイドボスもある程度のライフが減ったら抵抗したり発狂モードに突入したりするのだが、それもないのが明らかに変だ。

「これは、本気でまずいのかも」

 照月は複数の武装が無力化されているが、無力化されていない武器もあると判断してソードの射程距離まで迫る。

単純に走るよりは、ホバーの類も使用可能だったのでホバーモードで急ぐのだが、ホバーの場合はゲージを消費するのであまり長時間は使えない。



 一方で秋月は照月がレイドボスに向かっている事をARバイザーのマップ画面で確認し、アシュラを追跡する。

アシュラの方は周囲に出現している砲台を撃破しているような行動を取っていた。どうやら、砲台がモブプレイヤーの方を狙っていた関係もある様子。

「貴様も我々の邪魔をするのか? ダークフォースこそ、この世界を統一するにふさわしいのに」

「ダークフォースの様なネット炎上集団の好きにはさせない!」

「ネット炎上? それでは生ぬるいな――我々は神になるのだ!」

「神? それこそ冗談でしょ? ゲーム上で神になって、何をしようと言うの」

「俺は神さえも超えるのだ! 有名になれば、いずれはテレビ出演でひと儲け当てることだって可能だ」

(典型的な負けフラグを立てるなんて、彼も所詮は組織の捨て駒だったという事ね)

 二人は話をしつつ、砲台やレイドボス側へ向かうアンノウンの雑魚敵を撃破していたのである。

それこそ、ヒーロー物のヒーローとアンチヒーローの対立を思わせるような構図だ。

一方で、アシュラの特大級とも言える湿原に対して秋月は心の中で捨て駒にされているとも判断する。

「――オレは、そこでは終わらない!」

 アシュラの口から更に予想外とも言える返事が返ってきたのである。これには秋月の方も無言で動揺していた。

それに加え、それを聞いていたモブプレイヤーも焦っているような行動を起こしている。

「俺はヒーローブレイカーで上位ランカーになる! そして、全てのゲームにおける神となるのだ!」

 この発言を聞いた事で、照月の何かにスイッチを入れてしまったかのように思えた。

それこそ、照月のゲーマーとしての何かを燃え上がらせるような結果になろうとは、アシュラの方も気付かないだろう。

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