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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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1-2

 三月も中旬となり、学校では期末テストも終わった頃である。この日は前日が雨だったのだが、あまり降ったような印象がない。

学校の周囲には太陽光発電施設や地下には上下水施設が完備しており、自然災害対策は目に見えない所で行われている傾向があった。

こうした施設の存在は他の都道府県からは様々な声があるのだが、それらは大抵が自分達も欲しいという意見が多い。

施設が学校と隣り合わせの割には、大きな騒音はなく逆に生徒の声がうるさい位だろうか。

車の方も学校の前を走るような車両は見当たらないし、正門前を自転車が通る程度の道が整備されている程度。

草加市と言っても駅を離れると整備が息届いていない箇所があるようにも思えたが、それはあくまでも表向きに過ぎない。



、午後二時三〇分、学校の授業が終わった頃には生徒が部活へ向かう姿もあるだろう。しかし、他の女子生徒に何かを誘われても見向きもしない生徒がいた。

その生徒は黒髪のツインテールで別に校則を破っている訳ではないのだが、着用しているのは周囲の女子生徒とは全く違うタイプの制服である。

彼女の着ている制服は彼女からの提案で採用した物であり、学校側でも生徒間でトラブルが起きるのを回避する目的で承諾した物。

デザインに関しては、周囲がセーラーブレザーと言うタイプであるとしたら、彼女は改造メイド服とも言えるようなデザインだった。

これには周囲も驚くのだが、それ以上の反応はしない。逆に下手な反応をして不評を買うのを周囲が恐れているとも言えるだろう。

 他の生徒はスポーツ系や文化系の部活へ向かう生徒もいるだろうが、彼女に限っては部活には一切所属しない帰宅部だった。

その為、彼女が学校を出ていくと、早速駆け足になって向かう場所が存在する。

(彼女は確か――)

 その女性を監視している人物もいたのだが、それとは別に制服の生徒が彼女を追いかけていた。どうやら、彼女に様がある様子である。

しかし、それをこの女性は追いかけなかった。一種のストーカーと認識されるのを懸念していたのだろうか?

「あのゲーマーが、ここにいる訳はないよね」

 一六七センチという身長だが幼児体型とも言われている彼女は、コスプレイヤーとしても有名な島風彩音しまかぜ・あやねだった。

普段は北千住周辺で活動をしているが、カメラマンから指示された場所が草加だったのでこの周辺にあるスタジオで撮影をした帰りでもある。

予定よりも早く終わったので、とある場所へと向かおうとした時に彼女を見たのだ。ただし、彼女が例の人物かどうかは都市伝説もあって自身がない。

「丁度、この近くにある話だけど――?」

 島風が周囲を見回すと、学校よりも数メートル程度離れた場所に看板を発見した。そこに書かれていた文字こそ『ARゲーム』だったのである。

草加市はARゲームの聖地巡礼化を進めているとネット上でも噂されていたが、本当にあるとは島風も予想外だった。

こうしたゲームはゲーセンや専門のアミューズメント施設に置かれているのが普通なのに、その看板があったのは国道より少し遠い位置にあるフィールドだったのである。



 徒歩でも五分かからないような位置にあるコンビニエンスストア。駆け足で向かっていた彼女の目的地は、ここだったようだ。

同じ学校の制服を見かけるので、買い食いをする生徒もいるのだろう。しかし、彼女の目的は買い食いではない。

店の前には特別な待機席が存在し、そこにはいくつかの一人用の椅子が複数置かれていた。どうやら、何かのゲーム専用の待機列と言うべきか。

彼女は、その内の一つに座る。スカートからパンツが見えるようなポーズをする訳でもなく、普通に座ったので周囲の男性は残念がった様子だ。

 到着と同時に、彼女は今まで学校で着用していた眼鏡を外し、カバンから取り出した別の眼鏡に変えていた。それ以外にも、彼女は同じカバンから小型の端末を取り出す。

取り出した端末はスマートフォンではなく、類似したような薄い端末だった。その正体は、様々なゲームアプリをプレイ出来る事に特化した端末である。

彼女の場合は携帯電話すら持たないというか、別に持ち歩いている端末のショートメール機能だけで事が足りると考えていた。

それに加えて、彼女は学校ではあくまで優等生で通している事情もある。しかし、コンビニまで足を運んでわざわざゲームをプレイするというのだろうか?

 それでも、彼女にはここでゲームをプレイする事に理由があった。自宅に帰ったとしても、どうせやる事は同じである。

据え置き機かアプリゲームか、その違いでしかない。ならば、家に帰る前にプレイしようという事のようだ。それに加えて、歩きスマホでも仕様と言うのであれば警察に捕まりかねないだろう。

(こんなものか)

 五分が経過し、一つ目のゲームのログインボーナスを入手後に二つ目のゲームへと即座に切り替えた。

最初にプレイしたのはファンタジーRPG系、二つ目はオンラインカードゲーム系。その他にも彼女は複数のアプリゲームをインストールしているような気配がする。

何故、彼女はここまでゲームをインストールしているのか? それだけのゲームをすべて消化できるのか? 様々な謎があるのだが、それは本人にしか分からないだろう。

端末のトップ画面を見る限りでは、先ほどのゲーム以外にもパズルゲーム、リズムゲーム、育成辺りのアイコンが確認出来た。

「照月、ここにいたのね。学校を探しても見つからなかったから、何処に行ったのかと」

 ゲームをプレイしていた照月と呼ばれた人物の影になったのは、秋月千早あきづき・ちはやだった。

照月と呼ばれた女性は、そのまま彼女の声を無視して三つ目のゲームを立ち上げようと目当てのアイコンを探している。

「聞こえているんでしょ? 照月アスカ」

 自分の名前を呼ばれた事でアイコンをタッチしようとした右手が止まる。照月てるつきアスカ、それが彼女の名前だ。

照月の方は思わず手を止めてしまったが、ログインはしていなかったので大丈夫だろうという事で、端末の電源を切る。

「今日はとっておきの場所を案内するって、言ったはずだけど」

 秋月の言葉を聞き、照月は思いだした。昼食の時にそんな話を聞いて、OKをしたのをすっかり忘れていたのである。

「そう言えば、そんな話もしていたわね」

 照月の方は集中力も途切れたので、ゲームを切り上げたような反応だった。

不満と言う訳ではないのだが、せっかくの時間をキャンセルされたのは手痛い位である。



 午後三時、二人が向かっていた場所は国道から若干離れた場所にあるフィールドだった。ただ広い場所と言う訳でなく、駐車場と建物が存在する。

入り口近くにある立て看板には『ARゲーム』という文字が書かれているし、雰囲気的にはゲームセンターの一種なのかもしれない。

店構えもゲーセンのそれと同じだが、唯一の違いは不良のたまり場みたいなネガティブイメージのあった昔とは比べ物にならない環境だろう。

全エリア禁煙、高校生は午後五時まで、それ以外にもナンパ行為や盗撮が禁止されている。どうやら、ARゲームを設置する為にも様々なルールが徹底されているようでもあった。

「店内には入るけど、すぐに別エリアに出るから」

 秋月は照月に声をかけると、すぐに何かを取りに向かった。照月にとって、ゲームセンターはある意味でも楽園と言っても差し支えがない。

ARゲームと言っても、拡張現実を使っている様な機種は歩いてすぐの場所にはない。大抵が他のゲーセンにもあるような体感ゲームやクレーンゲームが多かった。

しかし、メダルゲームは見かけないのが唯一の疑問個所である。ここはマニア向けなのか?

(ARと言っても、特に特徴的なゲームがある訳でも――)

 秋月を待っている間、他のゲームをプレイしようと考えるが、逆に時間を無駄にする可能性も否定できない。

プレイしたいゲームはありつつも、ここは秋月の言うとっておきのゲームの為にも我慢する。

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