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イースポーツオブサンダーボルト  作者: 桜崎あかり


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第5話:ダークフォース


 三月二八日、最近になって入荷した谷塚駅近くのゲーセン、そこでは新入荷と言う事もあって入場制限が行われていた。

晴天と言う事もあって、雨が降っている時よりは客の入りが多いのは明らかだが、それ以上に客足が多いのには理由がある。

入荷した機種がヒーローブレイカーという事もあるのだろうか? VR版とAR版を両方入荷するとは、このゲーセンはどれ位の広さがあるのか?

様々な疑問は出てくるだろうが、そう言った疑問はプレイヤーにとっては関係ない。ゲームマナーを守りさえすれば、細かい大人の事情は気にしないのである。

 そして、新規で始めようというプレイヤーがセンターモニターを見つめていた。

服装は地味だが、女性プレイヤーであるのは確かだろう。そして、その視線はセンターモニターのあるデモムービーに向けられる。

【この世界はヒーローを求めている】

 この人物が見ているのは、ヒーローブレイカーのデモムービーだった。他のARゲームではなく、こちらへ即決したのには別の理由があるのだろうか。

様々なヒーローアバターがアクションを披露したり、アンノウンと思わしき敵と戦うシーンもあったり、ムービーとしては密度の多い部類かもしれない。

ストーリーに関しては説明がなく、最初のキャッチコピーと思われる物以外で特に文章はない。ゲームタイトルは最後で表示されるので、そこまでは文章がないという意味だが。

《現在、一〇分待ち》

 そのムービーの上部には待ち時間を知らせるテロップが表示されており、このゲーセンで一番注目されている機種を思わせた。

実際、長蛇の列は出来ていないが待機列は存在していた。あまりにも列が長くなると管理が大変なのだろうか?

何とか入場できた照月てるつきアスカと秋月千早あきづき・ちはやは、プレイが終了してゲームからログアウトする所だった。

その一方で、プレイヤーの数人が妙な動きを見せる。まさか、プレイヤーを襲撃しようというのか?

(プレイヤーを襲撃すれば、逮捕では済まない。それこそ――)

 その様子を見ていたモニターを見ていたプレイヤーは叫び声にも似たような奇声をあげているプレイヤーのいる方角を振り向く。

すると、彼らが行おうとしていたのは割り込みである。割り込みと言っても、ARゲームでは整理券制度が存在する事もあって普通に空いた後で筺体にログインが出来るはずもない。

プレイする為には呼ばれた整理券番号を持つプレイヤーが、該当番号のガジェットを専用の機械にタッチする事で初めて認識される。

「やはり、そう言う事か」

 照月と秋月が奇声をあげているプレイヤーに気付くよりも早く、これに気付いたのは身長が一七〇満たないような赤髪の少女だった。

その彼女は、奇声をあげている一人の男性を取り押さえようとするが、とっさに彼が凶器を持っていそうな仕草を見せた為に――。



 数分後、ガーディアンが駆けつけたタイミングでは赤髪の少女は二人の男性を無力化していたのだ。周囲にいたギャラリーもその動きを読み取ることは出来ないほどに手際が良かったらしい。

結局、彼は凶器は持っていない。持っていれば銃刀法違反は確定だろう。もしくは、テロ行為を起こそうとしたとしてSNS上で炎上する。

実際にSNSに様子をアップしようとスマホを持って撮影をしようとした人物もいるが、何故かスマホの撮影機能は動作しなかった。

(何なんだあいつは)

(何をしているのか見えなかったぞ)

(あの人物には常識が通じないのか?)

(一体、何が起こったのか?)

(撮影が出来なかったのは、どういうことなのか)

 ギャラリーが様々な事を思う中で、ガーディアンに拘束された男性は少女の方を睨みつける。

しかし、それも徐々にフェードアウトしていき、最終的には見えなくなった。そうなってからはギャラリーも別の場所へ向かったり、バラバラになっていたが。

(ゲームで起きた出来事はゲームで解決するべき。暴力や圧力等に訴えた段階で、彼らは負けていた。選択を誤ったのよ)

 彼女は左目に眼帯をしており、その状態であの立ち回りをしていたのかと思うと――周囲も驚きを感じるしかなかった。

そして、彼女は特にゲームをプレイすることなくその場を離れる。残っていた一部のギャラリーが気が付いた時には、彼女の姿はない。

「さっきの人物は一体?」

「赤髪の眼帯で思い出した。あいつはセンチュリオンだ」

「センチュリオン? まさか?」

「ソレはないだろう。彼女はプロゲーマー並の実力があるが、ARゲームには手を出す人物と思えない」

 周囲も彼女の特徴を見て、SNSで検索してようやく正体に気付くレベルだ。それ程にSNSが便利になり、ある意味でも凶器になりうる瞬間でもある。

彼女の名はセンチュリオン、プロゲーマーに匹敵するような実力はあるがプロではないし、アマチュアゲーマーと言う訳でもない。

一種の都市伝説と言えるのかもしれないが、その真相は不明だ。

(センチュリオン? これは面白いネタを見つけた物ですね)

 ギャラリーから若干離れた位置、そこにいたのはアルビオンである。

ARスーツにメットも被っているが、それでも不信人物と言われないのには理由があった。

「まさか、あのアルビオンがARゲームになるとは」

 ゲーマーの一人が、アルビオンの装着しているスーツを見て特撮番組のアルビオンと勘違いをする。

ARゲームにアルビオンのクロスオーバー系ゲームがリリースされたことで、彼を不信人物と思う様なゲーマーは皆無だったのだ。

ある意味でも「木を隠すなら森の中」と言うべきかもしれない。アルビオンはこうしたラッキーにも恵まれ、センチュリオンにも気付かれなかったのである。

(とりあえず、今回はこれ位にしましょうか。後はダークフォース側でも動きがあるようですし)

 アルビオンは何か含みを残しつつもその場を後にした。特に彼はゲームをプレイする為に来た訳でなく、あくまでもセンチュリオンの目撃情報を元に接触をしようとしていたのである。

今回は遭遇できたが接触は実現せず、その部分では失敗したと言えるような状況だった。

 

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