♪ 2.宿泊室(夜) 4
セロフィートにより《 宿屋 》へ投下された『 UMA 』は、怒りに我を忘れ、壁と屋根が壊された《 宿屋 》で大暴れを始めた。
──*──*──*── 狙われた宿屋
何の予告も前触れもなく、爆音が《 宿屋 》を襲ったかと思えば、其の直後に壁と屋根が、派手に爆発した。
壁と屋根が壊れた矢先、ポッカリと穴の空いた部分から突如、巨大な『 何か 』が落ちて来た。
良く良く見ると、巨大な『 何か 』は動いている。
見た事のない怪物である。
巨大な怪物は、グルルルル──と唸りながら、《 宿屋 》で暴れ始めた。
怪物は容赦なく、《 宿屋 》の宿泊者達に襲い掛かる。
手練れの〈 冒険者 〉達や腕の立つ〈 旅人 〉達が愛用の武器を手に取り、次次と怪物に攻撃を仕掛けるが、怪物には全くと言っていい程、攻撃は効いておらず、ダメージを与えられない。
怪物に鷲掴みにされた者は、首筋を噛まれた。
身体中の血液を吸い尽くされ、干からびていく。
怪物にとって、《 宿屋 》は御馳走の宝庫だった。
何故かと言えば、此処にある餌は、逃げるどころか、次次と餌の方から向かって来るのだ。
餌が食べ放題である為、怪物は遠慮なしに次次と人間を襲い、血を吸い尽くしていく。
《 宿屋 》で起きている騒ぎを聞き付けた〈 警察官 〉も大勢やって来た。
野次馬も少しずつだが増えて来ていた。
──*──*──*── 宿屋
セロフィートは〈 魔法陣 〉に映る光景を静かに傍観している。
セロフィート
「〈 警察官 〉だけでなく、野次馬も集まり出しましたか。
敵わないと解りながらも、無謀に挑み、無駄に命を散らせる人間達の愚行は何時見ても可笑しい。
ふふふ…。
こんな光景、マオには見せられませんね」
ふと、セロフィートは左の薬指に光るプラチナの指輪を見た。
セロフィート
「………………」
マオとお揃いの指輪を見るとマオの嬉しそうな笑顔が脳裏に浮かんだ。
マオの笑顔は、セロフィートに向けられてはいるが、現在のセロフィートに向けられている訳ではない。
マオが自分の大事な心臓を捧げて迄も、〈 契約 〉を交わし、人間を止めてしまってでも、日夜『 一緒に居たい 』と一途に想い続けているセロフィートは、現在のセロフィートではなかった。
マオの厚意で《 マーフィ宅 》に招かれたセロフィートの方である。
セロフィートが就寝中に入れ替わった事をマオは知らないでいる。
マオはずっと《 マーフィ宅 》に招いた時のセロフィートだと思って、セロフィートに叶わぬ恋をしちゃっている訳だ。
セロフィートは真実をマオには告げずに、マオが想いを寄せているセロフィートの振りをしているのだった。
何故、そんな事をするのかというと、理由は1つしかない。
セロフィート
「表情と態度がコロコロ変わるマオは面白いですし。
当分は教えてあげません♪
マオ自身が気付く迄、黙っているのも一興ですね」
クスリ…と指輪を見詰めながら笑う。
セロフィートの中身が入れ替わっている事に、マオが気付く事等有り得ないのだが、どうやらセロフィートは少しだけ期待をしている様だ。
好意で接していた目の前のセロフィートが、実は想い続けて慕っていた初恋の相手とは別人だったと知った時、マオがどんな反応を見せてくれるのか、セロフィートには楽しみで仕方がない。
入れ替わり前のセロフィートが、マオと出会う前に、どんな事をしでかして来たのか現在のセロフィートは魂に記憶されている記録のお蔭もあり、全て知っていた。
マオに少しだけ話した事もあるが、あんなのは序の口であり、氷山から滴り落ちる水滴の一滴に過ぎない。
2100年という短い年数の中で、入れ替わり前のセロフィートが行って来た事の全てをマオが知ったら、腰を抜かしてしまうだろうし、ショックも受けてるだろう。
もしかしたら、気を失って倒れてしまうかも知れない。
セロフィート
「ワタシは未だ優しい方ですよ、マオ。
君の絶望に歪む顔が見られないのは残念です……」
眠っているマオの黒髪を触り、二撫ですると、寂しそうな瞳でマオを見詰めた。
セロフィート
「──さて。
そろそろ、此方の《 宿屋 》にも、騒ぎの様子が伝わって来る頃でしょうか」




