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短編集 いろいろ

ロックンロールが寝返った

作者: 鉛風船

 今日は一段と筆が乗らない。理由はわからない……いや、わからなくはないのか――私は今ひたすらに眠い。理由はよくわからない。昨日友人とゲームをしていたからかもしれない。最近流行りのPUBGとやらを日付を跨いで遊んでいたからかもしれない――こう考えてい見ると、なんだ理由など明白じゃいかと白々しい、昨日の自分を叱り飛ばしたくなる気持ちになる。

 最近、日が上がるのも早くなり、目覚めが早くなってきた。故に、睡眠時間だけが削られるという未曾有の危機に瀕している。我ながら爺なのではないか、それはないしても、前世は雄鶏だったのではないかと自分の体内時計の正確さに嫌気が差してくる。今もつらつらと筆を執っているが、こうしている間にも睡魔は私の中に入り込んできて、その心地のいい甘い声で、ほら寝ておしまいと誘惑するのだ。

 私は断じて負けやしない。睡魔なんぞに負けやしない。今は午後三時半……まだまだ明るいのだぞ、皆働いたり遊んだりしている時分なのだぞ、と自身に言い聞かせ、重石のついたまぶたをつっかえ棒で固定している。何より、私にはエナジードリンクがあった。巷では評判のよろしくないこれも、私にとっては頼もしい戦友であった。加えて、私には睡魔必殺の妙技がある。ヘッドフォンだ。ここから流れてくる音の奔流は、ポップスなどという耳に障らない音だけを集めた有象無象ではない。クラシックやジャズといった上等なものでもない。ロックンロールという体の底から叫びたくなるような、力を象徴する音の濁流なのだ。これで私の耳元で囁く睡魔の声を鏖殺し、まぶたに乗せてある重石を取り払うのだ。

 しかし、今日の睡魔は一味違った。この二つを以てしても抗い難く、私が本来進めねばならない小説の執筆も、このように中断せざるを得ない状況になっている。そもそも、この文章も睡魔を振り払うための気晴らしに過ぎない。睡魔の為に一時的なスランプに陥っている私への叱責の意味も込めて書いているのだ。こんな駄文を書いている暇があるのなら本筋を進めろ、と自身に言い聞かせているのだ。

 その成果が出るのは果たしていつなのだろうか。私はこの話をいつまで書き続けなければならないのだろうか……いけないいけない。このままでは睡魔に負けてしまう。このような考え方をしていると、直に机に突っ伏して眠りこけてしまうだろう。ロックンロールが子守唄になってしまう――それだけは避けなければ。

 ああっ、どうしても頭から一度寝てしまおうというおぞましい考えが離れない。書かなければ……と自身を鼓舞しても、その直後に手を止めてみたらどうなる、という睡魔の囁きが聞こえてくる。私はそれが怖い。睡魔が人間の三大欲求の一つなのは知っている。しかし、それは夜にだけ現れて欲しい。昼間は私の時間である。一日の三分の一は睡魔に譲ったではないか。それでもまだ欲するというのか……強欲な奴め。

 ……それは違う――私の都合のいいように解釈してはならない。元来、私が日付を跨ぐまで遊んでたのがいけないのではないか。夜を侵犯し、蹂躙したのは私なのでは……それを睡魔のせいにし、あまつさえ睡魔を悪魔のようにいうなど……私はどうかしていたとしか思えない。睡魔は妥当な要求をしているに過ぎないのだ。私が幾ら小手先を弄しても勝てないわけである。怒っているだろうか。睡魔は私の勝手な行動に怒っているのだろうか。もしそうなら謝った方がいいのだろうか。

 だが、私と睡魔の戦争は始まってしまった。この戦いに講和はない。どちらかが敗北するまで続く。私が負けるか、睡魔が負けるか……今は昼だということを加味すると私に有利なのは間違いない。とはいえ、相手は睡魔だ。昼であろうと夜であろうと唐突に現れる。睡魔に四六時中臨戦態勢とはいくまい。私は有効な手立てが思い付かなかった。

 こうしている間にも睡魔の侵攻は止まらない。ロックンロールも寝返りそうな動きを見せた。選曲をディープパープルにしてもあまり意味がないように思えた。エナジードリンクも無くなった。後はカフェイン頼みである。援軍はいないのか。私は叫びたくなった。

 気付けば筆の速度も遅くなっている。ここで私は異様な満腹感に気が付いた。私は昼御飯にラーメンの大盛りを食べていたのだ。戦線が一気に睡魔側へ傾いた。思わぬ伏兵である。無論、昼食後の睡魔が協力なことは知っている。しかし、いつもならばエナジードリンクで対処が出来た。それが出来ないのは単にラーメンの量があまりにも多かったからである。久しぶりに食べたので…………ああ、これ以上は筆が進まない……私は眠たい……猛烈に眠たい……何を書いたらいいのかまるで見当がつかない……駄目だ、まぶたのつっかえ棒も折れてしまった……ロックンロールも寝返った……カフェインだけが善戦した、

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