第五話
「いらっしゃいませー」
帰るためのお金がなくなった俺たちはカトライヤの店で働くことになった。
ほぼ一日中働かされる割に給料は俺とアーカイラス二人で三千マニー。
三時間働きっぱなしだったので休憩をもらおうとすると
「そんな余裕あると思ってんの?」
笑顔でそんなこと言われてしまったからもう苦笑いするしかない。
ブラックじゃないですかやだー。
「ちょっとーまだぁ?」
「いつまで待たせんだぁ、ゴラァ?」
「すいません、只今!」
今の所持金が八万マニー……まぁ飯あり宿ありで一週間くらいなら耐えられるか。
……あの一日中死んだ顔のサキュバスに比べたら五百億倍ぐらいましなんだけどな。
そんなことを思っているとさっきまで厨房にいたアーカイラスがいないことに気づく。
「なぁ、カトライヤ。アーカイラスは?」
「え?ああ、アーカイラスなら今着替えてもらってるよ」
「着替え?あいつが何で着替えるんだ?」
「厨房はあたしとサキュバス、それに私の精霊で何とかなるから接客にと……」
「ああ、そういうことね」
「ねぇ……カトライヤ。これ恥ずかしいんですけど……」
アーカイラスは顔を赤くしながら、店の裏口から姿を見せた。
こ、これは……
「メイド服……?」
「いいねー!似合ってるよアーカイラスちゃん」
「カトライヤ、あんた覚えてなさいよ……」
アーカイラスは俺たちを物凄い形相で睨みつける。
アーカイラスにメイド服は何というかいつも魔法使いみたいな格好してるから、何というかギャップがすごい。
赤いロングヘアーにメイド服……
「似合ってて、かわいいな」
「へ?今なんて」
突然、カトライヤもアーカイラスもキョトンとした顔で俺を見つめる。
へ?俺なんか変なこと言った?
「え、ああ、うん。なんかいつもと違う格好だからさ、ほら意外で何というか、俺も混乱してて」
「あ、ああ、そういうことね。まぁ……何というかありがと……」
俺のしどろもどろな言い訳に、なぜか少し残念そうな返しをしたために、そんなぎこちない会話が成立する。
しばらくの沈黙が生まれた後、その沈黙をぶち壊そうとカトライヤが背中を押す。
「ほらほら、二人とも仕事に戻って?今が一番忙しいときなんだから」
「その必要はないぞ。カトライヤ」
ドアが開き、声が店内に響く。
その声は俺も、アーカイラスも、そしてカトライヤも知っている声だった。
最近聞いた鋭い声。
アルターネ・アトライマがそこにはいた。
アルターネはカウンター、カトライヤに向かって歩き出す。
「ア、アルターネ何でここに」
「ああ、アーサー。お前たちもここにいたのか?」
「ひ、久しぶりね。アルターネ。今日は何の御用で……」
カトライヤは怯えた声でアルターネへそんなことを言う。
アルターネは顔に笑顔はあるものの、目が笑っていない。
「なぁ、カトライヤ。話は聞いたぞ」
「な、何のことでございましょうか?」
あのカトライヤ姉さんもアルターネの前では敬語だ。
確かに、勇者時代カトライヤがキレたとき暴走を止めてたのもアーカイラスだったな……
アルターネがパーティーメンバーになる前は、こいつがキレたらどうしようもなかったし。
「お前、街の人間を勇者の肩書を使って洗脳しようとしてたんだって?」
「そ、それはあのサキュ……」
「とぼけるなよ、カトライヤ。私はその前の話をしているんだ」
アルターネの声が荒くなっていくのとは対照的にカトライヤの声はどんどん小さくなっていく。
「いや、それは……あの……すいませんでした」
「全く……謝るべきは私ではないんだが……まぁ昔のことだしな。咎めてしかたあるまい」
「ねぇ、アルターネ。お前、本当はそれだけの用件じゃないでしょ」
アーカイラスが何かに勘づいたように俺も何かに勘づく。
こいつがくるときは、大体……
「ああ、そうだ。今日はお前たちに頼みがあってきたんだよ」
面倒ごとに巻き込まれるんだよなぁ!
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更新頻度は少しづつ早めていけるよう頑張ります。
どうか温かい目で次回も見てくださると嬉しいです。