第二話
「で、俺たちに頼みたいことってなんだ?」
タガラナの町は基本的に半獣族がすんでおり、賑わいを見せていた。
そんな中普通の農民の格好をした俺たち人間二人が道を歩いているとなると、やはり目立ってしまう。
アルターネに連れられて、タガラナの街に来た俺たちだったのだが、ここに来るまでアルターネはずっと口を閉じたままだった。
アーカイラスはアイスを買ってもらってご満悦の様子だった。
正直、畑仕事を一日すっぽかしてまで来たんだからこれ相応のことじゃないと怒るぞ?
まさか、自分だけは盗賊として今も活躍してるからって俺たちを足元に見てないよな?
そう考えていると、ずっと口を閉じていたアルターネが口を開いた。
「ここの街を覚えているか?」
「覚えてるも何もここは半獣族のお前の故郷だろ?」
「そうだ。そして私がお前たち三人とあった場所でもある」
「ああ、懐かしいなぁ。確かお前が俺たちの財布を盗んだことから始まったんだよな?」
「あの時は本当すまなかった。昔のこととはいえ謝るべきだろう」
「いや、もういいよ。済んだことだし…」
「でも、なんでパーティ加入する流れになったんだっけ?」
アイスを食べ終わったらしいアーカイラスが顔をにやけさせながら、口を開いた。
「アーサーあんな印象的なパーティ加入だったのに忘れたの?十七歳なのにゴブリン並みの記憶力なのね。あのときは…」
「やめろ、アーカイラス!それ以上言うな!」
突然アルターネの顔が赤くなり、アーカイラスの口を塞ぐ。
そんなに印象的だったけ?本当に覚えてねぇ…
アルターネはまだ顔を真っ赤にしながら、咳ばらいをして話題を変えるように話し始めた。
「実は私はここ最近、悪徳商売をやっている商人の家に忍び込んだのだが…これを見てくれ」
「これは…」
タガラナの町のはずれにバツ印がついている。
ここは確か使われてない地下倉庫だったはずなのだが…
「恐らくその商人、モンスターとつながってるらしいのだ」
そのことを疑問に思ったアーカイラスが口を開く。
「モンスターを生み出していた魔王は私たちが倒したじゃん。どうしてそんなことが言えるわけ?」
「魔王軍の生き残り…という可能性もなくはないだろ」
魔王。この世界を脅かした存在。
俺たちが魔王を倒したところで、生き残りが死ぬわけではない。
「すまない。お前たちに迷惑をかけたくなかったんだが、念のためだ。報酬はきっちり払わせてもらうよ」
「よっしゃ!いっちょやりますか!」
「あの…ちょっと待って…」
威勢のいい俺の掛け声とは裏腹に、アーカイラスは元気のない声でつぶやいた。
アーカイラスが急にうずくまり、お腹を抑える。心なしか顔色が悪く見える。
「どうした!大丈夫か?」
「言いづらいんだけど…」
アーカイラスは気まずそうに、そして震えながらこう言った。
「お腹…壊したみたい」
「アルターネ!そっちはどうだー!」
「異常なしー!そっちもどうー!」
「同じく、異常なしだー!」
俺たちはアーカイラスに鉄拳制裁を加えた後、アルターネと一緒に倉庫の散策に来ていた。
倉庫は広く、薄暗い。しばらく手入れがされていないのか、石造りの壁、地面には苔が生えている。
あの場でお腹を壊したアーカイラスはそこら辺の宿で休ませておくのももったいないのでとりあえず担いできたのだが…
「お腹痛い…頭痛い」
「てめえさっきからぶつぶつうるせえな!魔法で何とか出来ねえのか!」
背中から伝わってくる二つの感触で俺まで頭がおかしくなりそうだ。
しかも、ちょっといじいじしてるからいつもよりかわいく見える…
「ねぇ…今なんか変なこと考えてない?」
「考えてるかあほ!」
見透かされてた!こん畜生!
女子ってなんでこんなに気づくの早いんだよ!
「そっちはなんかあったか?」
「いや何もなかったぜ…そっちは?」
こっちも何もなかった、とアルターネが答える。
アルターネの勘が外れたのかと思った矢先、アーカイラスが突然叫ぶ。
「ねぇ!あそこちょっとおかしくない!?」
「ん?どこだ」
「あの壁を見て!」
背中にいるアーカイラスを下ろし、指が指された壁に近づいてみると、少しくぼんでいるところがあるのがわかる。
よく見ないと気づかないくらいのくぼみだ。
押せと言わんばかりのそのくぼみに押したいという衝動が湧いてくる。
「よし。押すか!」
「馬鹿!早まるな。罠かもしれん…」
その声に体が反応し、急いで手を引っ込める。
「ああ、確かにな。わりい早まった…」
アルターネの言う通りここは慎重に周りを調べてから押すべきだ。
しばらく冒険をしていないとはいえ、そんな基本を忘れていたら勇者(元)失格だ。
長らく探索とかしてなかったからな…この手の罠は警報が鳴ってモンスターが……
「え?もう押しちゃったよ?」
「「え?」」
地下倉庫に警報の音が響き、続々とモンスターが集まってくる。
警報が鳴り終わった後にはもう敵に囲まれていた。
「これで確かにあの貴族とモンスターのつながりはわかったが…」
「おい、アーカイラスどうすんだよ!馬鹿!」
「あたしだけのせい!?あんたも押す気満々だったじゃん!」
アーカイラスと俺が言い合いをしていると、その中のモンスターの一匹が話し始めた。
「けーけっけ!あの貴族の言う通りだった!ここの地下倉庫に潜んでいれば、お宝を狙った市民が近寄ってくるってな!」
「どういうことだ!」
アルターネは怒りの混じった声で叫ぶ。
「ここにお宝があるって噂を流せば、市民は勝手に寄ってくる!それを俺たちが食っちまうって計画さ!しかも、ラッキーなことに弱そうな農民二人と盗賊!お前らやっちまいな!」
その声を合図に、モンスターたちが一斉に襲い掛かってくる。
が、
仮にも元勇者の俺たちにそんなのは効くはずがなかった。
というか、威勢を張ってたにしてはレベルが低すぎる。
そんな奴らをボコすのは、赤子の手をひねるようなものだ。
「真空斬」
「プロメテウスの炎」
「疾風迅雷」
周りを囲んでいたモンスターたちは一匹二匹と倒されていき、ついには俺たちに丁寧に状況説明をしてくれたモンスター一匹になっていた。
「ひいいい!勘弁してください!お願いします!あの貴族にいいようにこき使われていたんです!何でもしますから!」
「つーかこいつゴブリンじゃん。丸焼きにして食っちまおう」
「ゴブリンの皮は魔道具に必要不可欠だからちゃんと残しといて」
「お前覚悟はできてるんだろうな…」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
俺たちのそんな声と共に、ゴブリンの声は広く暗い倉庫に響いて消えていった。
「はぁなんか疲れたわ…」
倉庫から帰ってきた俺たちはタガラナの宿屋で休んでいた。
俺はソファーでぼっーとしていて、アーカイラスは魔導書を寝っ転がりながら読み、アルターネは報告書の作成にいそしんでいる。
ゴブリンに財宝のありかを聞き出すと(実力行使)、地下倉庫には、貴族が不正に手に入れた財宝の数々が眠っていた。
アルターネはそれを世に公表し、その財産を持ち主に返すそうだ。
そもそも、あんないかにもな罠に引っかかる奴いるの?
あ、俺たちだったわ。
そんなことを思っていると、アーカイラスが疲れた様子で話し始めた。
「あんなザコ相手にあたふたした自分たちが情けないわ…」
そもそもはお前が全部悪いんだよ、馬鹿野郎!
「でも、上級ダンジョンだったらほぼ積んでたぞアーカイラス。気をつけてくれよ…」
「はいはい…」
そんなアルターネの注意に、間の抜けた声で返事をするアーカイラス。その返事と共に、俺の頭に稲妻が走った。
「そういや、あのゴブリンの言葉で思い出したんだが…」
「ん?なんだ?」
俺は気の抜けた返事をしたアルターネの方へ向き、間をおいて言い放った。
「お前が仲間に入るときって土下座して何でもしますって」
「ああああああああああああああああ!」
俺はアルターネに殴られて、深い眠りについたのだった。