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第一話

昔々、あるところに伝説の勇者一行がいた。

一人は剣士。その剣さばきに勝るものはおらず、斬られるもの全てがその剣の前に魅了されたという。

また、彼は優しく、困っている人を放っていけないような人間だった。

一人は魔法使い。彼女が放つ魔法は大地を焦がし、海を割り、空を揺るがすほどだったという。

また、彼女は魔導書が好きで、彼女が自身が書いた魔導書は世間に大きな影響を与えたという。

一人は召喚士。妖精、竜にとどまらずいろんな生物を召喚することができた。

また、彼女は修道女でもあり、神に毎日祈りをささげたそうな。

一人は盗賊。盗賊といっても、悪を働いて稼いでいるような輩を世間に公表し、盗んだお金を困った子供たちに使うような善人であった。

また、獣人族であった彼女には耳が生えており、十人の話の内容を理解したり、細かな仕草で誰が嘘をついているかなども分かったそうだ。

彼らは数々の苦難を乗り越え、魔王を倒し、世界は平和になった。

平和になった世界では全ての人が彼らに感謝し、永遠に後世にまで名を残した…

…ここまでが記録に残っている勇者の記録だ。

そう、確かに勇者一行はたくさんの人から感謝され、たくさんの富と地位、名誉を手に入れた。

ここまではよかった。

魔王軍による様々な被害。自分たちが買った装備の数々の代金。自分たちの旅の生活費。それらは、王国が全て勇者一行の財産から差し引いた。

そうすると、驚くべきことに勇者一行の財産は一生遊ぶことはおろか、一年は遊んで暮らせるかくらいのお金にしかならなかった。

そして、平和になった世界で俺たち勇者の存在は必要なくなった。

そう、つまり俺たち勇者は一時的に無職になったのだ。

そんな俺たちの物語である。


「あー…働きたくねぇ…」

魔王を倒した後、伝説の剣士と語り継がれた俺はただの農民になっていた。

王様から貰った報酬で家と畑を買い、汗水たらして働く。そんな毎日を送っていた。

「アーサー、口ばっか動かさないで、手を動かしたらどう?」

そして伝説の魔法使いも農民となっていた。

赤交じりの黒髪、紅の眼をも持つ少女。伝説の魔法使いアーカイラス・ワルプルギス

昔は黒いローブに聖樹から作られた杖ををもってたんだがなぁ。

今じゃ農作業着に鍬をもって畑を耕す彼女にはどこにもその面影がない。

「うるせぇなあ…お前は空間制御魔法で自分の周りの気温を下げてんだろ。今の気温何度だと思ってるんだよ!35度だぞ!俺にもっと働いてほしかったら俺にもその魔法かけろや!」

「嫌よ。なんで私の貴重な魔力をあなたに使わなきゃいけないのよ。土下座して、『アーカイラス様どうかお願いします』って頼んだら考えないでもないけど」

「ふーんそんな態度もそこまでだぜ…俺は知ってるからな。お前が『誰でも簡単にできる!魔導入門書!」を書いたってな!あれ、面白かったぜ。『魔法とは感じるものだ。習うより慣れろ』あーおかしい!どうやったらあんな恥ずかしい言葉を思いつくんだよ!やばい、また思い出し笑いで腹筋が…」

「あ?」

アーカイラスの片眉がつりあがる。どうやら相当頭に来たらしい。

「…へぇ。あんたそんなに私の雷魔法を食らいたいんだぁ?」

「はぁ?俺はいつもパーティのいつも最前線で戦ってたんだぜ?魔法体制がほぼ最大の俺にそんなもん効くと思ってんの?馬鹿なの?」

「いやぁ久々に雷魔法放つからなぁ。手加減できないかもしれないなぁ。でもアーサーが魔法防御がほぼ最大で私の雷魔法受けてもいいって言ったから、それを受けて死んでも自己責任よねぇ?」

互いの顔は笑っているが、目はお互い全然笑っていない。

お互いがじりじりとちかづいていく。

「唸れっ!トールの鉄槌!!」

「貫け!光明の剣!!」

「やめないか二人共!」

俺たちの喧嘩が(まぁほぼ命懸け)始まる直前。そんな声がどこからともなく聞こえてきた。

聞きなじみのある声。その声の主は二人ともがよく知っていて、アーカイラスも表情をゆがめている。

「…久しぶりね。アル」

その声の主はいつの間にか俺たちの間に立っていた。

アルターネ・アトライマ。

善の塊のような人間で、困っている子供たちにお金を配るような人間。

物を盗む様子は風のようで、悪を徹底的に許さない獣人族。

最近は失踪してたと聞いていたが…

「お前らここで何をしてるんだ!お前らが全力で力を使ったらここ一帯が吹っ飛ぶぞ!アーカイラス!特にお前の魔法はここで使ったらどうなるかくらいわかるだろ!」

「だってぇ…アーサーが…」

「だってもさってもあるか!自分たちが買った土地や家全て吹っ飛ばすきか!」

そういったアルターネの鋭い眼光がアーカイラスに向くと、アーカイラスが涙目で自分言い聞かせるように「私は悪くないもん…」と呟いた。

怖いよなぁ…あいつの眼。獣に睨まれるみたいだもんなぁ。

そして、今度はその鋭い眼光が俺へと向く。蛇に睨まれた蛙のごとく、身動きができなくなる。

「お前も十五歳相手にむきになってどうする!何が原因でこうなった!」

「ああ…いやえっと、アーカイラスの本が最終的な引き金なんだが…」

「ああ、あの本!『誰でもできる!魔導入門書!』か!あれは確かに傑作だった!思い出しただけで笑いが…クスクス…」

「アルまで私の本をいじるのっ!?」

もうアーカイラスは無邪気な子供のように泣いていた。眼の下を真っ赤にして、なんだかすげえ申し訳なかったような気がする…

「わかった。後でアイス買ってやるから…」

「本当!?」

「それでいいのかアーカイラス…」

アルターネは呆れているが、アーカイラスが泣き止んだしまぁいっか。

「じゃあ一番高いマジックチョコレートの奴ね!」

罪悪感が一気にフットンダ。殴ってやろうかこいつ☆

そんなことをしたらまたアルターネに怒られるからやらんけどね…

そんなことを思っていると俺はふと大事なことを思い出す。

「そういやアルターネお前は何でここに来たんだ?失踪してたって聞いたが…」

「…ああ、危うく本題を忘れるところだったよ」

そういうと、アルターネはポケットから封筒を俺に渡す。

「アーサー、アーカイラス。話は後だ。私についてきてくれ」



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