第7話:鮮血の瞳
1対11と言うかなり厳しい状況での戦いにサフィーアが覚悟を決めて挑もうとしたその時、あらぬ方向から女性がサフィーアと傭兵二人の間に飛び出してきた。
「たぁッ!」
「な、グッ?!」
「ゲハッ?!」
予想外の出現をした女性は剣士二人と向き合うと、グローブを付けた拳で二人を殴り飛ばした。目にも止まらない鋭い拳は寸分違わず彼らの顔面を捉え、一撃で昏倒させてしまう。
女性は彼らを殴り倒すと、サフィーアを守る様に立ち塞がり帝国兵達と対峙した。
「え?」
突然の事に一瞬唖然となるが、状況はすぐに理解できた。援軍である。全く予期していなかったが、何故か彼女に味方が現れたのだ。
しかもその増援にサフィーアは見覚えがあった。クレアだ。やはりと言うか、彼女は傭兵で闘士だったらしい。それもかなりの腕前の、だ。
彼女は一瞬サフィーアの方を見て小さく笑みを浮かべると、次の瞬間にはバート達に鋭い視線を向けた。
「な、何だお前はッ!?」
「あんた達ね、ここ最近消えた傭兵と最後に一緒に行動してたって三人組はッ!」
「何ッ!?」
「やり過ぎたわね。捜査依頼がギルドから出てたわ。ここまで来るのに苦労したんだから、大人しくお縄について貰うわよ!」
どうやらクレアはサフィーアの援護を目的にして来たわけではなく、バート達をとっちめる為に来たらしい。とは言え援軍は援軍だ。有り難いことに代わりはない。
「依頼中にメンバーに欠員が出るのは傭兵にはよくある事だから、依頼に連れ出して攫うってのは考えた方ね。そこんところは褒めてあげるわ」
「ぐ、ぬぅ――――ッ!?」
「ただし、ギルドの受付嬢を甘く見すぎよ。彼女達は不審なあんた達をばっちりマークしてたから」
「ぐぐぐ…………ッ!?」
狼狽して唸ることしかできないバートを見据えながら、クレアは構えを取った。同時にマギ・コートで全身を強化したのだろう、迸る魔力が彼女のスカートの裾をたなびかせる。
「くそ、やれ!?」
彼女が戦闘態勢に入ったのを見て、バートと兵士達が一斉に引き金を引いた。9つの銃口から吐き出される銃弾を防ぐべく、サフィーアは咄嗟にウォールを抱き上げマントを広げて体を守った。
一方、クレアの方はと言うと、迫る銃弾を見切って避けるかグローブに付いた装甲で弾き飛ばした。それどころか、ただ弾くだけでなく相手に弾き返して反撃までしてみせた。
「ガッ?!」
「チィッ!?」
弾き返された銃弾に帝国兵の一人が倒れ、それを見たバートは思わず舌打ちをする。今ので確信した、彼女はAランクの傭兵だ。
何も知らない者は、闘士を剣士の下位互換的存在と認識している。人間が相手ならともかく、モンスターを拳一つで倒すのは不可能に近かったからだ。
しかし実際はそんなことは無く、闘士は剣士に引けを取らない活躍が期待できた。魔力による肉体強化は、闘士を剣士・銃士と同じ土俵に上がらせたからだ。勿論、全ての闘士が彼女と同じことが出来る訳ではない。飽く迄も理論上は出来ると言うだけで、実際に行うには豊富な経験によって裏付けられた確かな実力が必要だった。
そしてそれを事も無げに実行できた、彼女の実力はただのベテランレベルでは済まされない。
「フフン!」
「す、凄いッ!?」
弾丸返しを行ってみせたクレアは得意気に笑い、サフィーアはそんな彼女に驚愕と尊敬の眼差しを送った。飛んでくる弾丸を防ぐ為に弾く事はサフィーアも一応出来るが、彼女の様に弾いて返すことは出来た例がなかったのだ。
一方の帝国兵達は、彼女に普通の銃撃が通用しないと見るや戦い方を変えてきた。ライフルに銃剣を付けて接近戦を挑みに掛かったのだ。曲がりなりにも正規の訓練を受けた兵隊達だ、その瞬時の切り替えや動きは流石と言えよう。
しかし、今回は相手が悪かった。
「甘いッ!!」
クレアは向かってくる帝国兵達に向けて、拳を握り締め突撃する。あっという間に両者の距離は縮まり、彼女に一番近い位置に居た三人の兵士が銃剣を付けたライフルで斬り掛かった。刺突、袈裟斬り、唐竹に振るわれる3つの斬撃が襲い掛かる。
それらの斬撃をクレアは捌き、防ぎ、躱して逆に正拳突き、手刀、回し蹴りで反撃した。
「グオッ?!」
「ギャッ?!」
「ガフッ?!」
瞬く間に三人が倒されたが、帝国兵は怯まず突撃する。しかもその攻撃は、彼女だけでなくサフィーアにまで向かった。
「そりゃ、見逃しちゃくれないわよねッ!!」
彼女にも三人の兵士が向かってくる。彼女に対しては銃剣だけでなく銃撃も行うらしく、一人は離れた位置から銃口を向けている。
「舐めんなッ!」
サフィーアは向かってくる二人の兵士を迎え撃つ。兵士達の銃剣による斬撃に彼女も手にした剣で対応する。二対一という状況であることもそうだが、流石は正規の訓練を受けた軍人だけあって一筋縄ではいかず、サフィーアは防戦一方であった。
その防戦の最中、彼女に向けて離れたところに居る兵士からの銃撃が襲い掛かった。前衛の兵士二人を相手に必死になっているのを見て好機と見たのだろうが、彼女はその銃弾を剣で弾いた。
「な、くそッ!?」
その後も何度か前衛が攻める合間を縫って援護射撃が行われるが、サフィーアにはまるで通用しない。
と、ここでサフィーアは前衛の兵士二人から距離を取った。後方に飛び退いて離れた場所に移動した彼女に前衛の兵士二人は銃剣を構えて突撃する。
「そらぁっ!」
彼女はその二人に向けてその場で回し蹴りを放った。その距離はどう見てもやや遠い。普通に考えればそこからでは届くことは無く、無様に足を振り回すだけで終わる未来しか見えない。
ところが次の瞬間、彼女が蹴りを放つとそれに合わせて突風――と言うより暴風が放たれ、二人の兵士を木に思いっきり叩き付けた。
「ッ!? 風属性の魔法かッ!!」
離れたところから銃口を向けていた兵士は今し方サフィーアが何をしたのかすぐに見抜いた。
今の時代、属性魔法も決して珍しいものではない。『エレメタル』と言う特殊な鉱石さえあれば、魔力の扱いを知る者なら誰でも属性魔法を操る事が出来るのだ。事実、サフィーアの右脚のレガースには一番上の所に装飾の一部になるように青い宝石の様な見た目の風属性のエレメタルが装着されていた。
離れていた兵士はサフィーアに対抗してか手を突き出すとそこから魔法で生み出した火球を放った。凝縮された業火が、サフィーアを丸焦げにせんと突き進む。
サフィーアはその火球を、苦も無く肩マントで防ぎきってしまった。
「何ッ!?」
「飾りじゃないのよ。このマントはねッ!」
サフィーアの言う通り、そのマントはただのマントではない。100年近くを生きたドラゴンの皮を鞣して作り上げた特注品だ。彼女が“師匠”から卒業記念に譲り受けた、年季の入った逸品である。
ドラゴンは生きた年月が長ければ長いほどその能力も高くなる。特に100年以上生き続けたドラゴンの強さはそれ以下の年月を生きたそれとは一線を画しており、その素材も当然尋常ではない性能を発揮する。今彼女が身に付けているマントは、ただの銃弾は勿論生半可な魔法なら魔力を通して強化しなくても防ぎきれるだけの性能を持っていた。
サフィーアの言う通り、飾りで着けている訳ではないのだ。
そして防御だけでは終わらない。サフィーアは遂に、今まで使用していなかった剣の引き金を引いた。ハンマーが薬室内の弾丸の雷管に当たる部分を叩く。
瞬間、青白い魔力の火花が飛び散と同時に薬莢が排出され、刀身が青白く発光する。
「はぁぁぁぁ…………」
「させるかッ!!」
明らかに大技を放つつもりで溜めるのを見て、それを阻止せんと帝国兵は右手に持ったアサルトライフルのストックを脇に抱えて引き金を引き、左手からは再び炎属性の魔法による火球を放った。その射線上にウォールが入ってくる。ウォールは飛んでくる銃弾と火球を見据えると――――
「くぅんッ!!」
額の宝石を煌めかせ、サフィーアと帝国兵の間に光の障壁を張った。障壁に当たった銃弾は敢え無く弾かれ、火球も阻まれてサフィーアまで届くことは無かった。
「ナイスよウォールッ! ハァッ!!」
攻撃を完全に防がれたことで一瞬隙を晒した帝国兵に、サフィーアは上段から剣を振り下ろした。直前に障壁を解除して横に飛んだウォールが居た場所に剣が叩き付けられると、そこから衝撃が地面を伝って帝国兵に向けて一直線に奔った。地面を割きながら走る衝撃を前に帝国兵は果敢にも逃げずに攻撃を続けるが、衝撃が銃弾と火球を弾き飛ばしそのまま帝国兵も吹き飛ばした。
「ぐあぁぁぁぁっ?!」
衝撃に吹き飛ばされた帝国兵は受け身も取れず地面に叩き付けられ、そのまま意識を手放したのか動かなくなってしまった。
三人の帝国兵を倒したサフィーアは、残心を忘れず警戒しながらもクレアの方の戦いに目を向ける。
そこではちょうど彼女の方も残った帝国兵を倒すところだった。
「ハッ!!」
クレアが気合と共に両手を突き出すと、そこから火球が放たれ帝国兵に直撃した。
「ぎゃぁぁっ?!」
火球の直撃を喰らった帝国兵は絶叫を上げながら吹き飛ばされた。彼女の火属性魔法の威力はそこそこ高かったのか、火球は帝国兵を吹き飛ばすだけに留まらず身に纏っていた装甲服も粉砕してしまう。今ので帝国兵は全て倒された。
これで残るは――――
「ぐ、くぅ――ッ!?」
銃士の傭兵、バートただ一人。
「さて、大人しくしてもらおうかしら?」
「立場逆転ね。ま、災難だったと諦めなさい」
「くぅんッ!」
サフィーア、ウォール、クレアが徐々にバートと距離を詰めていく。彼が周囲に目を向けるが、彼の仲間は全員倒れている。帝国兵も全滅しているので、完全に孤立無援状態だ。
「畜生ッ!?」
これ以上の抵抗は無意味と悟った彼は、踵を返して森の奥へ逃げようとした。ライフルも手放しているあたり、本気で逃げに徹しようとしているらしい。
背を向けて闇夜の中に消えようとするバートをサフィーア達は追い掛ける。元より彼は本来グリーンラインに居る筈の無い完全武装の帝国兵と大きく関わっているのだ。逃がす訳にはいかない。絶対にとっ捕まえて、イートの街の警備に引き渡す。
「グゥッ?!」
「ん?」
その時、逃げようとしていたバートが苦悶の声と共に突然立ち止まった。その様子に異変を感じたサフィーア達が足を止めると、彼はゆっくりと振り返った。
「うッ!?…………何?」
彼が振り返った瞬間、サフィーアは全身を震わせ自分の体を抱きしめた。みるみる顔色が青くなり、吐き気を催したのか慌てて左手で口を押えた。彼女の異変にウォールが肩に飛び乗り、心配するように頬を舐めている。
一方クレアもバートを凝視していた。正確には、彼の額を凝視していた。何しろそこには、つい先程までは絶対無かったものが付いているのだ。
「赤い、目玉?」
それは、深紅の目玉だった。瞳も白目も全て赤い、正しく異形の眼球が彼の額に張り付いていた。まるで眼球が根を張る様に、額や頬に血管が伸びている。
「Bugururu、Gurururu…………」
彼の口から、人のものとは思えない唸り声が上がる。本来の彼の目には正気の色は無く、狂気と破壊衝動以外感じられなかった。
「気を、付けてください。あれ、普通じゃないです」
「見れば分かるわ。って言うか、貴女こそ大丈夫なの?」
「な、何とか。もう落ち着きましたから」
そう返すサフィーアの顔はまだ青さが残るが、吐き気は引いたのか呼吸は安定している。両手でしっかり剣の柄を握っている様子からは頼りなさを感じない。
クレアは彼女の様子に頷き、構えを取るとバート“だったもの”と相対した。サフィーアも剣を構え、いつでも迎え撃てるようにする。
「あれ、何だか分かる?」
「『サード』に見えますけど、正直自信無いです」
「そうよね、私もよ。でも呼び名が無いのは不便だから、とりあえず『レッド・サード』とでも呼んどきましょうか」
「深紅の三つ目ですか、分かり易くていいですね。嫌いじゃないですよ、そう言うの」
二人はお互いに顔を見合わせ一瞬笑みを浮かべ、すぐにそれを引っ込めた。見た目以外完全に別物となったレッド・サードが今にも飛び掛からんと身構えているのだ。
睨み合うサフィーア達とレッド・サード、まず最初に仕掛けたのはレッド・サードの方だった。徐に額の眼球に魔力を集束させると赤い閃光を放った。
「くぅんッ!」
クレアに向けて放たれた閃光を、前に出たウォールが障壁で防いだ。かなりの威力があったのかウォールは足を踏ん張っていたが、それでも防ぎきることには成功する。
その隙をついて、サフィーアとクレアは同時に飛び掛かった。
「狙うはあの目よ!」
「了解ッ!」
二人は拳と剣を相手の額の目に向けて振り下ろす。ほぼ同時に繰り出されたそれを、レッドサードはマギ・コートで強化した腕で防いでしまった。普通の人間の魔力とは異なる、赤い魔力光を纏った腕がクレアの拳とサフィーアの剣を受け止める。それと同時に額の瞳が再び怪しい光を宿した。
それを見た瞬間のサフィーアの判断は早かった。
「クレアさん、あたしの後ろにッ! ウォールは倒れてる連中を守ってッ!」
サフィーアはクレアを庇いながら後退し、同時にウォールに指示を出す。その際、マントを正面に広げマギ・コートで強化するのを忘れない。マギ・コートは肉体だけでなく、衣服等も強化できるのだ。
その強化されたマントに、彼の放った閃光が直撃した。二人を同時に消し飛ばすつもりだったのか、先程と異なり閃光は右から左に薙ぎ払われた。直撃を喰らえば胴体が真っ二つになっていただろう閃光だったが、マギ・コートで強化されたマントは閃光を見事に弾いてみせた。
薙ぎ払われた閃光は彼女達だけでなく後ろにも被害を及ぼすので、放っておけば倒れている帝国兵達も危険なのだがその為にサフィーアはウォールを向かわせていた。ウォールは可能な限り横に広く障壁を張り、閃光の被害から帝国兵やウィンディ達を守ったのだ。
「へぇ、良いマントじゃないッ!」
「特注品だそうですからね。読みが当たって良かった」
目玉が額に埋め込まれず露出している形状を見たサフィーアは、あの閃光はかなり広範囲に撃つ事が出来ると踏んでいたのだがどうやら当たったらしい。あと一瞬判断が遅れていたらクレアか後ろで倒れている誰かがやられていただろう。そう考えるとサフィーアはゾッとした。
「Gijaaaa!!」
一方のレッドサードの方は正しく獣の様な声を上げると、マギ・コートで強化した両腕を振り上げて飛び掛かってきた。よく見ると、手が変異しているのか指先に鋭利な爪が伸びている。強化された上にあんなものが生えた手で攻撃されようものなら、こちらがマギ・コートで強化していてもただでは済まないだろう。
それに対して、サフィーアの後ろから飛び出したクレアは怯まず相手に接近し格闘戦を仕掛けた。一撃で地面をも抉る程のパワーを持つ相手の一撃を、彼女は流れるような動きで受け流していく。
「たぁぁりゃぁぁぁぁッ!」
攻撃を受け流されて無防備を晒した相手の懐に、クレアは容赦なく強力な連打を叩き込んだ。ただの拳ではなく、炎属性の魔力で強化された拳だ。次々に叩き込まれる炎を纏った拳は、相手を空中に浮かび上がらせる。
しかしやはりこいつは普通の相手ではなかった。連打を受けながらもそいつは一瞬の隙をついてクレアの両手をそれぞれ片手で受け止めてしまったのだ。
「あっ!?」
「Gururu…………」
クレアの両手を掴んだレッドサードは、両腕を左右の斜め上に向けて大きく広げた。合わせて引っ張られた彼女の両腕から、ミシミシと嫌な音が響く。
「ぐぅ、あぁっ!?」
苦悶に表情を歪めるクレアを前にして、レッドサードは額の眼球に魔力を集束させた。あの閃光をこの至近距離から放つつもりだ。両腕を拘束されている以上、彼女はこれを回避することは勿論、防ぐことすら叶わない。
「はぁぁぁぁッ!」
絶体絶命、その言葉が過った瞬間、サフィーアの声がレッドサードの背後から響いた。クレアが注意を引き付けている間に後ろに回り込んだサフィーアが、剣を構えて飛び掛かるところだった。このまま行けば、反撃を受けることなく無防備な背後を突ける。
しかしレッドサードには常識が通じなかった。背後から迫る彼女の存在に気付いたそいつは、なんと体を正面に向けたまま首だけを真後ろに向けたのだ。人体の構造を完全に無視した動きに、首から骨がへし折れる嫌な音が響く。
「なっ!?」
見れば、先程までは頬まで延びていた目玉からの血管が気付けば首の下や両手の先にまで伸びている。やはり本体はあの目玉、それ以外がどうなろうと問題ないらしい。
レッドサードはそのまま背後にいるサフィーアに向けて閃光を放つ。相手は変わったがそれでも至近距離、しかも彼女は攻撃動作に入っている。このタイミングでは回避することもマントで防御することも出来ない。
「舐める、なぁぁぁッ!」
額の眼球が赤く煌めき閃光を放つ、その直前にサフィーアは引き金を引き閃光に向けて振り下ろした。刹那、青白い魔力光を放つ刀身が深紅の閃光を真正面から切り裂いた。
「Gii!?」
意外な事に、レッドサードにもまだ驚愕するだけの感情があったらしい。自慢の閃光を目の前で切り裂かれ、剝き出しの赤い眼球の瞳孔が大きく開く。
その隙を見逃さず、サフィーアは再び引き金を引きレッドサードを袈裟懸けに切り裂かんと剣を振り上げる。振り下ろす直前、彼女は一瞬だけレッドサードの赤い瞳を強く睨み付け――――
「ハァァァァァッ!!」
相手の体を左肩から右脇に掛けて大きく切り裂いた。魔力を纏った剣、マギ・バースト状態の剣での一撃はレッドサードの体を右胸から上と左胸から下に両断してしまう。その際に手の力が緩んだのか、クレアは拘束から抜け出した。
「Oaaaa――――?!」
レッドサードは断末魔の叫びを上げ、体を両断されながらその場に崩れ落ちた。恐ろしいことに、それでも直ぐには死なず右胸から上の方がもがく様に動いていた。途中何度か赤い眼球が魔力の光を宿すが、閃光が放たれることなく光は空しく散っていった。流石に宿っている肉体の方が限界以上に損傷すると本体の眼球の行動も著しく制限されるらしい。
とその時、深紅の眼球が真上を見上げた時、その視界にクレアの姿が映った。右拳に炎を纏い、今正に振り下ろされんとした拳を掲げた状態で。
「これで、終わりッ!!」
振り下ろされる拳に向けてレッドサードが最期の悪あがきに閃光を放つが、先程とは比べるべくもない威力のそれが彼女の拳を止めること叶わず。
謎の深紅の眼球はクレアの振り下ろした炎の拳に焼かれながら叩き潰されたのだった。