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傭兵サフィーアの奮闘記  作者: 黒井福
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第20話:井の中の蛙

 ブレイブ達からの襲撃を辛くも退けてから二日後、サフィーア達遺跡に向かう一行は遺跡から一番近くにある街である『アルフ』に到着した。

 予定では、この街で一泊し休息と物資の補給、それと傭兵の追加を行った後改めて遺跡に赴き占有権確保が完了するまでクロード商会のアイラ達を護るのが今回の仕事だ。


 正直、何事も無く終わるとはサフィーアは微塵も思っていない。既に一度襲撃を受けているのだ。向こうの依頼主がこの程度で諦めるような相手ならばそもそもブレイブ達を差し向けたりはしないだろう。必ず遺跡でも襲撃があるに違いない。それも、先日よりも戦力を増強させて、だ。

 予想され得る敵戦力の増強に備える意味でも、また現在の近接戦闘職のみと言う偏った戦力の問題を解消する意味でも、この街での傭兵の追加は重要な意味を持っていた。


「で、その追加の傭兵ってのはもうこの街に来てるんですか?」

「えぇ。会長から連絡がありました。この街のギルド支部にて既に待機して頂いているとの事ですので、私は今からそちらに向かいます。お二人も共に来て頂けますか?」

「あたしは良いですよ。クレアさんは?」

「勿論、ご一緒させてもらうわ」


 こうしてサフィーアとクレアの二人はアイラに付いて行ってギルド支部に追加の傭兵を迎えに行った。正直、この街では二人はやる事も無かったし暇潰しにはちょうど良いと言うのもあった。勿論、共に戦う仲間となる者達との最初の挨拶が大事と言うのも理由の一つだが。


 傭兵ギルドの支部とは、何処もそうだが活気があるものだ。依頼発注用の受付にはこれから依頼を出そうと言う者が列を成し、依頼を映し出したスクリーンの前には無数の傭兵がひしめき合っている。依頼受注用の受付では若い男の傭兵が受付嬢に色目を使い、少し離れた待合スペースではパーティーを組んでいるらしき数人の傭兵が何事かを話し合っていた。

 そんな傭兵や依頼人達を尻目に、アイラは真っ直ぐ総合受付に向かって受付嬢に話し掛けた。


「失礼、私クロード商会で会長秘書を務めておりますアイラ・クロードと申します。会長のビーネ・アーマイゼから傭兵が数名雇われている筈なのですが?」

「はい、お話は伺っております。こちらへどうぞ」


 受付嬢に案内されてアイラはギルド支部の奥へと向かっていく。サフィーアとクレアもそれに続くと、三人はそのまま応接室へと連れられていった。

 部屋の前に立つと、受付嬢は扉をノックして室内で待っているだろう傭兵達に向けて声を掛けた。


「失礼します。依頼人のクロード商会の方がお着きになりました」


 受付嬢が部屋に入り、後に続いて三人が入る。

 三人が入ると、室内には5人の傭兵が思い思いにソファーに座ったりして待機していた。その内の一人、銀色の額当てを着けた少女が彼女らに向けて笑みを浮かべながら近付いてきた。


「あ、どもどもッス! お宅が依頼人ッスか?」

「依頼を出したのは会長ですが、依頼人と思って頂いて構いません。クロード商会の会長秘書を務めております、アイラと申します。こちらのお二人は先立って依頼を受けて頂いた傭兵です。彼女らと協力して、今回は宜しくお願いしますね」


 話し掛けてきた傭兵と挨拶を交わすアイラの様子は、六日前サフィーア達と初めて出会った時と比べれば大分物腰が柔らかくなったように見える。何だかんだ言いつつも、学ぶべきところはしっかり学び次の機会に反映させているらしい。

 サフィーアの中で彼女に対する評価が上がった。


 一方、傭兵の方はアイラとの挨拶を終えると今度はクレアの方に近付いてきた。


「いやぁ、まさか姐さんとご一緒できるとは思わなかったッスよ! こりゃ今回の依頼は成功したも同然ッスねぇ!」

「こらこらこら、今回の依頼はクロード商会の連中の護衛よ。護衛依頼は護衛対象に何かあったらその時点で失敗なんだから、そこんトコロ気を抜くんじゃないわよ」


 陽気に楽観的な事を言う少女に対し、クレアは厳しい言葉を投げ掛ける。ここら辺は彼女の体験談も入っているのだろう。気にはなるが、多分突っ込むべき内容ではない。


 思考を切り替えて、サフィーアはクレアに話し掛けてきた少女をまじまじと観察する。

 身長はサフィーアよりも頭半分くらい低い。恐らく十代後半だ。肩にはスリングを使ってライフルを掛けているので、銃士であることは確実だろう。ライフルである事を考えると、ジョブは後方支援を得意とする『スナイパー』と言ったところか。

 だがそれ以上に気になるのは、彼女が身に着けている銀色の額当てだ。只の額当てなら別に珍しくも無いが、彼女の額当てはよく観察するとアイマスクの様にも見える。その様な物を持っているのは、彼女が知る限り一つの種族しか存在しなかった。


「ごめん、ちょっと聞いていい?」

「ん? 何スか?」

「あなたってもしかして、『サード』?」

「そッスよ。ほら!」


 サフィーアの問い掛けに少女は笑みを浮かべながら頷くと、額当てを両目の所まで下した。額当てがアイマスクの様に彼女の両目を塞ぎ、露わになった額では普通の人間には存在しない第三の目が瞼を開いていた。


 彼女らの種族名はサード。外見上は人間と殆ど変わらないが、ただ一点額に第三の目を持っていることが最大の特徴であった。この第三の目がなかなかの高性能で、裸眼でありながらスナイパーライフルで使用する高倍率スコープに匹敵する視力を有している。更には赤外線で物を見る能力が備わっていたりと言う優れ物なのだが、その高性能故に普通の目と同時に使用すると情報量の多さに脳がオーバーヒートを起こしてしまうのだ。

 それを防ぐ為に、サードは状況に応じて額の目と普通の目を使い分けていた。アイマスクの様な額当てはその為の物であり、形状は人によって違うがサードは誰もが身に着けていた。


 だからこそサフィーアは彼女がサードであると直ぐに見抜けたのであるが、つい最近レッド・サードと名付けた怪物と遭遇した事もあってかちょっと警戒してしまったのだ。

 彼女の額についていた目は普通の目と同様黒い瞳だったので、その警戒は杞憂に過ぎなかったが。


「お宅、もしかしてサードを見るのは初めてっスか?」

「ううん、そうじゃないの。ちょっと気になっただけよ、ごめんね」

「いえいえ、お気になさらず。あ、自己紹介まだだったッスね! 自分、シルフ・グラスっていうんス!」

「サフィーアよ。サフィーア・マッケンジー。今回は宜しくね」

「宜しくっス!」


 シルフはサフィーアと自己紹介を済ませると、彼女の手を取りぶんぶんと大きく振った。なかなかのアグレッシブさに少し圧倒されたサフィーアだが、少なくとも悪い人物ではないようだ。


 互いに友好を深める二人を余所に、クレアは他の傭兵達を交えてアイラと今後の事について話し合っていた。


「これで傭兵が総勢7人、か。この中でB+以上の奴は?」

「俺がA-だ」


 クレアの問い掛けに、弓を装備したエルフの銃士が答えた。他の者にも問い掛けたところ、残りは良くてBランクが精々らしい。サフィーアと共にいるシルフに至ってはB-だ。

 正直に言うと、ちょっと心許無いと言うのがクレアの評価だった。ビーネの事だから数合わせで適当に雇ったという事は無いだろうが、ブレイブと言う存在を含めた連中を相手するには不安が残る。

 その不安が表情に表れていたのか、アイラが険しい顔でクレアに問い掛けた。


「やはり、これだけでは不足ですか?」

「向こうもジャクソンが抜けた穴を埋める為に、当然戦力を補充してる筈だからねぇ。一応一撃ぶち込んでやったとは言え、ブレイブも健在だし」

「いぃっ!? も、もしかして相手側にブレイブの兄貴が居るんすか!?」

「そうよ。だから気を抜くなって言ったの」


 それを聞いてシルフはなんてこったとでも言うように天井を仰ぎ見て額に手を当てた。


「ま、マジっスかぁ。う~あ~、兄貴が相手となると確かに今回の依頼は厳しそうッスねぇ」

「あなた、クレアさんだけじゃなくてブレイブとも知り合いなの?」

「駆け出しの頃世話になったんス。だから兄貴の強さはよっく知ってるっスよ」

「もしかしなくても…………有名?」

「姐さんと違って二つ名が付くほどじゃないっスけどね。んが~、兄貴が相手と知ってたら絶対受けなかったッスよ。勝てる気しないんスもん」


 呻くように言うシルフを見て、サフィーアは自分が如何に井の中の蛙であったかを思い知った。

 彼女は傭兵を始めてまだ1年程度。その間特に他人の評価や評判なんかは気にしないでいたが、ちょっと他人の風評や評判なんかに無頓着過ぎたかもしれない。何しろ、クレアに二つ名がついているという事実ですら今初めて知ったのだ。

 モンスターや自分の居る場所の近隣の情勢ばかりを気にし過ぎた。もっと広い視野で情報を集めるべきだったのだ。


「ねぇ、恥を忍んでお願いがあるんだけど」

「ん?」

「他に有名どころな傭兵とか居たら教えてくれない?」

「良いっスけど、知らずに今までやって来たんスか?」


 痛いところを突かれ、サフィーアが苦虫を嚙み潰したような顔になる。言われても仕方のない事だが、言われたら言われたでやっぱり心に来るものがあった。


「ぶっちゃけ、他の傭兵の事なんて気にした事なかったから」

「……因みにお聞きしますけど、傭兵やってる期間と今のランクは?」

「傭兵は始めてまだ一年ってところ。ランクはB-よ」


 サフィ―アの傭兵歴を聞いた瞬間、シルフは一気に得意気な顔になった。頭半分背が高いサフィーアが自分の後輩と聞いて気分が大きくなったのだろう。


「そういう事なら仕方ないっすねぇ! ここは一つ傭兵歴四年のあたしが覚えておくべき傭兵の先輩方を教授してやるっス!」


 実際傭兵としてはサフィーアの方が後輩なので、シルフの態度は決して間違っていない。だが実力に関しては完全にサフィーアの方が上であろう。

 と言うのも、シルフがB-に昇格したのはつい最近の事だ。大体二年もあればB-に昇格してルーキーを脱却できる事を考えれば、彼女の単純な実力はお察しレベルと言う事である。勿論人格的に問題があると言う可能性も否定できなかったが、彼女の場合人格は問題ないだろうから昇格が遅れた理由はやはり戦闘での活躍に起因しているものと思われる。


 サフィーアが一年でルーキーを脱却したと言う事実を華麗にスルーしつつ、シルフは現時点で知っておくべき傭兵の名を挙げていく。


「まずそこに居るクレアの姐さんっスね。姐さんは闘姫の二つ名で呼ばれるほどの実力者っス」

「おぉ、カッコいい。他に二つ名持ってる傭兵って居るの?」

「モッチロン! 二つ名ってのは要はインパクトのある人に付けられるニックネームみたいなものっスから。ブレイブの兄貴もちゃんとしたのは付いてないっスけど、その内何かしらの二つ名が定着するのは確実っス」

「他の二つ名持ちってどんなの?」

「ん~とぉ、あたしが知ってる限りじゃ、『魔銃士カイン』に『銃剣ディンゴ』。あとは『予見者ヴィレッジ』、『独眼オグマ』は注意が必要っスよ」


 次々と挙げられていく二つ名持ちの傭兵をサフィーアは片っ端から頭に叩き込んでいく。その中に一人、聞き覚えのある名前がある気がしたが、今は敢えて無視してシルフの話に耳を傾ける。


「他に話題のある傭兵って居る?」

「良くない話を聞く傭兵なら」

「教えて」


 良くない話を聞くと言う事は、人間的に問題のある傭兵と言う事だ。そう言う奴は敵に回っても味方に回っても碌な事が無い。敵になれば卑怯卑劣の限りを尽くされて痛い目に遭うだろうし、味方になってもいざと言う時に捨て石なんかにされる可能性がある。

 サフィーアは能力的にそう言う行動に映ろうとする輩が分かるが、注意するに越したことは無い。


「エリザベート・ブラウンっス。姐さんのライバル的な立ち位置っスけど、評判は天と地ほども差があるっス。勿論、悪どいって意味で」

「共闘してる傭兵を囮にしたり?」

「それもあるっスけど、あの人とにかくサディストで有名なんスよ。噂っスけど、負かした相手を気が済むまで甚振りまくったなんて話も聞くっス」


 サフィーアは思わず顔を顰めた。話を聞いただけで人を判断するのは宜しくないが、恐らく絶対仲良くできる性質ではないだろう。

 彼女とクレアが仲良く出来ているのは、その本質が割と近いからに他ならなかった。二人とも正々堂々を好むし、生死に関わらず勝敗が決すればそれ以上相手を追い込むような真似は好まない。それが彼女達にとっての普通だからだ。

 人間とは、価値観の違う相手を無意識の内に拒む性質がある。だからこそ世界中の者が分かりあう事は出来ないし、無意味とも言える争いが起こる。それは過去の歴史が証明してきた事でもあるし、現在進行形でムーロア帝国が行ってもいた。

 故に、サフィーアが現時点でエリザベートを相手に苦手意識を抱くのも当然の事と言えた。

 出来れば相対したくはない、それがサフィーアが真っ先に抱いた印象であった。


 そこで彼女はふと考えた。では、ブレイブはどうだろうか?

 彼とはまだ一戦交えただけ、それもほぼ一方的に敗北しただけの関係でしかない。全てを知る事が出来たと考えるのはお世辞にも言えないが、それでも、彼はかなり正々堂々としていたような気がする。

 アイラ達に必要以上の被害を出すつもりは無かったようだし、サフィーアに対してだって勝敗が決したと判断した時は止めを刺さず降伏を促していた。それでも彼女が覚悟を決めて対峙した時は、それを正面から受け止めて手を抜かずに全力で仕留めに掛かってきた。相手の覚悟に対し、正々堂々と答えようとしたのだ。


 正直に言えば、彼女は嬉しかった。最初は未熟だからと言う理由で弄ばれていたが、決死の覚悟には応えてくれたのだ。その姿勢には非常に好感が持てる。


 だからこそ、彼女は改めて決意する。今度こそ、絶対彼に認めさせてみせると。


 今度は覚悟だけでなく、彼女の実力も、何もかも全てを見せつけ認めさせるのだ。


 サフィーアはそう固く決意するのだった。

今更な気もしますが、感想や評価は勿論受け付けています。誤字脱字へのご指摘も含め、よろしくお願いします。

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