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傭兵サフィーアの奮闘記  作者: 黒井福
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第1話:始まりの朝

 翌朝、先日大物の討伐を終え見事傭兵ランクの昇格を迎えたサフィーアは、窓から差し込んだ朝日に目を覚ました。


「ん、んぅ?」


 朝日に顔を照らされ一度顔を顰めた彼女は、目に残る眠気を落とす様に瞼を擦りながらベッドの上で上体を起こした。体を起こすとそれまで彼女の体を包んでいたシーツが重力に引かれて落ち、下着だけに包まれた彼女の発育の良い胸が露わになる。


「ん…………くぅ~…………はぁ」


 ベッドから起き上がったサフィーアはその場で大きく体を伸ばして全身の筋肉を解すとベッドから降りた。彼女はそのまま寝惚け眼を擦りながら、室内のハンガーに掛けてある衣服を手に取り着込んでいく。下は動き易さを重視したホットパンツと銀色に輝くレガースで覆われた膝下までのロングブーツ、上はライトブルーのシャツのみだ。何時もはその上に更に白い長袖のジャケットを着るのだが、今はまだハンガーに掛かったままだった。


 未だ残る眠気に思考を邪魔されつつ着替えた彼女はその場で腰を捻り、屈伸し、背中を思いっきり仰け反らせた。それによって引き延ばされた筋肉が血管を絞り、血液を高速で循環させ酸素が脳に送られる。酸素が送られたことで脳の働きが活性化し、残っていた眠気がほとんど吹き飛んだ。


「ん…………よっし!」


 眠気がある程度吹き飛んだことで、それまで半眼だった彼女の目が大きく開かれ瞼の下に隠れていた大海原の様な深い青色の瞳が姿を現した。


 殆ど完全に目が覚めた彼女はベッドサイドに立てかけてある鞘に納まった自身の相棒である剣の整備に移った。傭兵にとって、武器は最も身近な相棒。これを疎かにしては仕事に支障を来す。

 サフィーアはベッドに腰掛けると、立てかけておいた鞘から相棒である剣を抜いた。


 剣の中に銃の機関部を持った、何とも不思議な見た目の銃剣ともいうべき武器。そんな武器の機関部を彼女は手慣れた様子で分解し、パーツ一つ一つをオイルを染み込ませた布で磨き、そしてまた組み立てる。剣と銃が一体化した複雑な武器を、彼女は鼻歌交じりに組み立てていった。

 組み立て終わると刀身を朝日に当て、可笑しなところがないか確認し最後に数回トリガーを引いて動作に異常がないか確かめた。


「ん。いい感じ、っと」


 好調な動作をする相棒に機嫌を良くしたサフィーアは、剣を鞘に納めるとベルトで腰に吊るした。そのままハンガーに掛けてある白いジャケットに袖を通すと、さらに左肩に体の半分ほどを覆うマントが伸びた肩当てを装着する。そして最後に背中まである瞳と同じ海色の長髪を白いリボンで縛ってポニーテールにした。


 準備完了。


「さ~てと、まずは朝ごはんっと」


 身嗜みを整えた彼女は、いい感じに日が昇り朝食を摂るにはベストな時間になったのを見て宿の食堂に向かうべく部屋を出ていった。



***



 食堂に向かったサフィーアは、適当に開いている席で朝食を摂りながら片手で携帯を弄っていた。一見すると行儀が悪いように見えるかもしれないが、決して知人とメールのやり取りをしている訳ではない。ネットに繋いで情報収集を行っているのだ。やっぱり行儀が悪いように思えるが、時間を有効活用することは傭兵としては決して間違ったことではなかった。

 大きく見出しになっている情報の中で、今最も目を引くのはやはり世界情勢であろう。特に、現在の帝国の動きは決して無視できないものとなっていた。


「最近は帝国の動きも怪しくなってきたわねぇ」


 トーストに割った目玉焼きの黄身を付けて食べながら、サフィーアは溜め息をついた。


 現在のこの世界の勢力を大雑把に分けると、中央大陸の東側を占める『ジュラス共和国』と西側を支配する『ムーロア帝国』、中央大陸から海を隔てて北に位置する北方大陸の『イブラハ連邦』、そして北方大陸と同じく海を隔てて中央大陸から遠くにある西方諸島の小国家群に分けられる。その内共和国と帝国の間には無数の独立した小国が存在しており、中立の立場であるそれらによって両国の間には通称『グリーンライン』と呼ばれる不可侵領域が形成されていた。

 現在サフィーアが居るのも、グリーンラインに存在する独立した小国の一つのオブラと呼ばれる国である。

 しかしここ最近、帝国が頻繁にそのグリーンラインに対しちょっかいを掛けているのだ。具体的には国境ぎりぎりに軍を待機させたり、酷い時には領空侵犯も平然と行う。

 それのみならず、酷い時には言い掛かりに等しい理由を付けて一部の独立国を武力支配までする始末だった。これには周辺諸国からも非難轟々であったが、帝国は全く意に介した様子を見せないどころか懲りもせない。寧ろ更に戦力を増して、今にも攻め入らんとしている有様であった

 頭に思い浮かぶのは、どう頑張っても中央大陸の二大大国である帝国と共和国による全面戦争だ。


「戦争かしらねぇ。傭兵にとっては稼ぎ時と言うけど…………やだやだ」


 嫌な考えをスープと共に飲み干したサフィーアは、手早く食器を返却口に返しその足で傭兵ギルドへと向かった。と言っても、傭兵ギルドは彼女が宿泊していた宿のすぐ近くに存在していたので、歩いて数分もかからず到着していた。

 早速彼女はギルドのロビーにある大型スクリーンの前に立つ。そこには今現在ギルドが受け付けている依頼が全て映し出されているのだ。


「ん~~…………」


 彼女は片手にPDAを持ってスクリーンを眺める。このPDAはギルドからの支給品で、傭兵達はスクリーンに映し出された依頼に振ってある番号をPDAに入力して受付に持っていく事で依頼を受けれるのである。因みにこのPDAの起動にはギルドのIDカードが必要なので傭兵以外には使用できない。

 事実、今スクリーンの前には早くも多くの傭兵達が今日の依頼を何にするか考えながらサフィーアと同じようにPDAを覗いていた。老若男女、年齢は勿論種族すら違う者達が一つのスクリーンの前に集まってスクリーンとPDAを交互に見たり近くの者と話している様子は、朝市などに近い活気を感じさせ熱気に溢れていた。


 サフィーアは壁一面に達する程の大きなスクリーンを隅から隅まで眺め、手頃な依頼がないか探した。基本的に傭兵には定期収入は無いので、安定した生活費だけでなく傭兵としての活動を維持する為には様々な依頼を熟して資金を稼がなくてはならない。

 のだが…………。


「う~ん、どの依頼もいまいちねぇ」


 目の前に広がる依頼を紹介するスクリーンをざっと見た限り、やれ下水道に湧いた小型モンスターの駆除だの、やれ街の外壁の修理だのルーキー専用と言った依頼ばかりが目に付くのだ。傭兵は何でも屋的側面を持っているのでこういう依頼が回ってくるのは当然の事なのだが、それと依頼を受けるかどうかは別問題である。

 しかし何もしないと言うのはそれはそれで問題だ。生活や活動の為の資金が手に入らないし何より理由なく長期に渡って傭兵としての活動をしないでいると、傭兵ギルドから除籍されてしまう。当然そうなると身分証にもなるIDカードも失効してしまうので、非常に面倒なことになるのだ。


 そんな訳で何かしらの依頼を受けないといけないのだが、さて何を受けたものやら。


「ん?」

「あ、サフィーアさん!」


 どんな依頼を受けるかで悩んでいた彼女に、背後から声を掛ける者がいた。見ればそこには、フォーマルなスーツに身を包んだ女性、傭兵ギルドの受付嬢であるナタリアの姿があった。この街の傭兵ギルドの筆頭受付嬢と言っても過言ではない人物で、サフィーアもこの街に来てからと言うもの何度か彼女に依頼を斡旋してもらったことがある。


「もしかして、受ける依頼で悩んでらっしゃいますか?」

「え? あぁ、うん。そうだけど」

「それでしたら、ギルドから一つ依頼したいことが―――」

「ごめん、用事思い出したわ」


 ナタリアが全て言い切る前にサフィーアはその場を離れようとする。対するナタリアは慌てて彼女を引き留めた。


「ちょちょ、待ってください!? 何も逃げなくたっていいじゃないですか!?」

「あんた達がそういう言い方するときは大抵面倒なことにしかならないからよ!」

「いいじゃないですか、依頼で迷ってたのは事実なんでしょう?」

「こっちにも選ぶ権利ってものがあるのよ!」

「まぁまぁそう言わずに。ぶっちゃけると今表示されてる依頼とそんなに大差無いレベルですから、ね?」


 二人の押し問答は暫く続いた。肩マントの裾を掴んで必死に懇願するナタリアと、それを必死に引き剥がそうとするサフィーア。受付嬢と言う印象で言えばどちらかと言うと貧弱なイメージを抱かせる役職に反して、意外と力持ちなのかサフィーアは振り解けずその場に釘付けにされてしまった。

 ふと気づけば、二人の周りには人っ子一人いなくなっていた。サフィーアと同じように今日の依頼を吟味していた筈の数多くいた他の傭兵達は、サフィーアが押し問答に勝った時自分に矛先が向かないように既に退避している。引き際を間違えない、良い傭兵達だ。


 サフィーアは一人貧乏クジを引く羽目になったことに大きく溜め息を吐いた。


「あぁ、もう。分かったわよ。受ける。受ければいいんでしょ?」


 そして引き剥がすことを諦め、大人しくギルドからの依頼を受ける決意をした。実際ロクな依頼がなかったのは事実だった。何を選んでも同じなら、点数稼ぎの意味も込めてギルドからの依頼を受けた方がずっと建設的だ。

 ただ、大抵こういう場合の依頼の内容はアホらしかったりひたすらに面倒臭いものが多かったが。


「で? 何よ、依頼って?」


 果たして今回の依頼は――――


「依頼は…………ペット探しです」


――――やっぱりアホらしく、そして面倒臭いものだった。

どうも、初めましての人は初めまして。にじファン時代からご存知の方はお久しぶりです。黒服改め黒井福と申します。


以前は二次創作を執筆していましたが、この度オリジナルでの小説を執筆してみました。拙い部分が多々あるかとは思いますが、温かい目で見つつお付き合いいただければ幸いです。



2019,04,03

 ハーメルンで投稿している方への指摘で説明部分が長くてくどいと言われたので、必要な部分以外を削って更に部分的に加筆してみました。

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