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傭兵サフィーアの奮闘記  作者: 黒井福
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第11話:生態不確定

明けましておめでとうございます。今年も一年宜しくお願いします。

 太陽の光を遮るほどに木が生い茂った深い森の中。

 そこでサフィーアは手にした剣を、目の前に居るモンスターに渾身の力を込めて振り下ろした。例え相手が小さくても手加減はしない。中途半端な力で剣を振るった結果、切り裂けずめり込んだ状態で隙を晒したなど笑い話にもならない。


 やる時は全力で、だ。


「デヤァッ!!」


 振り下ろした剣が、彼女の目の前に居たモンスター――茶色い肌に尖った長い耳を持つ、ゴブリンと呼ばれるモンスターを袈裟懸けに切り裂いた。ゴブリンは切り口から夥しい血を撒き散らして断末魔の叫びを上げ息絶える。


 だがサフィーアに休んでいる暇はない。何しろゴブリンは、平均して20匹前後で一つの群れを作ることがほとんどなのだ。彼女が一匹仕留めた隙を突いて、次どころかその次、そのまた次のゴブリンが一気に襲い掛かってくる。


「あぁん、もうっ!? こっち来ないでッ!?」


 流石にこの数を一度に捌き切る事は出来ないので、サフィーアはレガースのエレメタルに魔力を注ぎ込んで蹴りを放ち、風属性の魔法で暴風を発生させ複数のゴブリンを一気に遠ざけた。


 その瞬間、彼女の背後を取っていたゴブリンが彼女に向けて弓を放つ。粗末な素材で作り上げた質の悪い代物だが、当たり所が悪ければただでは済まない。


「くぅんっ!!」


 しかしその矢は、サフィーアに命中する事無く肩に乗ったウォールが振るった尻尾で弾かれあらぬ方向へ飛んで行った。

 つい数日前までは迂闊に肩に乗せたまま戦うと振り落としてしまうかもしれないという理由で、戦闘中は近場に避難させられていたウォールも、ここ数日で大分サフィーアとの連携が上手くなった。今では巧みに立ち位置を変え、サフィーアの死角からの攻撃に対し適格な援護が行えるまでになっていた。


 ウォールによって防がれた矢が地面に落ちると同時にゴブリンの敵意には気付いていたサフィーアが振り返り、引き金を引いて魔力を充填させた剣を振り下ろし斬撃からなる衝撃波『地裂漸』を放つ。

 放たれた衝撃波は見事にゴブリンを吹き飛ばしたが、彼女はそれを確認する事無く明後日の方に向け剣を振るった。同時に彼女が一撃を放った直後の隙を突こうと飛び掛かっていたゴブリンを切り裂く。


「たくもう、本当に数だけは多いんだからッ!」


 ぼやきつつサフィーアは更に剣を振るい、新たに飛び掛かって来たゴブリンを切り裂いた。その直後、サフィーアはその場で大きく飛び上がった。

 刹那、彼女が居た所に合計4匹のゴブリンが一斉に飛び込んだ。


 もしあそこで一歩でも行動が遅れていたら、瞬く間に彼女は無数のゴブリンに集られ押し倒されていただろう。その光景を思い浮かべ身震いしつつ、サフィーアは再び引き金を引くと眼下のゴブリン達に向けて剣を振るった。すると剣に充填されていた魔力が青白い斬撃となって飛翔し、ゴブリン達を纏めて切り裂いた。彼女が持つもう一つの技『空破漸』である。


「ふぅ。今ので大体12、3匹ってところかしら?」


 今ので一時的にでも周囲から向けられる敵意が無くなったことを能力で察知したサフィーアは、着地と同時に一息つくと自分の戦果を確認した。それと並行して、ちょうど空になった薬室にポーチから取り出したクリップを差し込んで新たな弾を装填する。


 その最中、サフィーアは同じように複数のゴブリンを相手にしているクレアの方に視線を向けた。あちらはサフィーアとは違い途中で弾の装填などが必要ない為、体力と集中力が続く限り戦い続ける事が出来る。現に今も、複数のゴブリンを相手に見事な立ち回りを見せていた。囲まれていると言うのに、逆に完全にゴブリンを圧倒している。


 尤も、ゴブリンは単体では非常に弱いモンスターなので、ゴブリン相手に優勢を取れても全く自慢にはならないのだが。


「ん? あぁっ!?」


 等と悠長に構えていたら、クレアの背後に大きな影が近付いていることに気付いた。ゴブリンは勿論、クレアよりもずっと大きい。しかもただ大きいだけではなく、相応に筋肉質で表皮も堅そうだ。


 これは流石に不味いとサフィーアが警告しようとしたが、クレアの方もそいつには気配で気付いているのか振り向きざまに渾身の右拳を叩き付けた。


 しかし…………


「ぐっ?!」


 クレアの右拳は、背後に接近していた大型のゴブリン――『グレーターゴブリン』によって容易く掴み取られてしまった。すかさず左の拳を叩き付けるクレアだったが、何とグレーターゴブリンはそれすらも掴み取ってしまう。


 両手を掴まれ無防備を晒す羽目になるクレアを、グレーターゴブリンはそのまま持ち上げ両腕を大きく振りかぶった。恐らくそのまま地面に叩き付けるつもりなのだろう。ベテランの傭兵ともなればマギ・コートで底上げできる防御力もかなりの物になる筈なので、それで彼女が致命傷を負う事はないだろうがそれでも大きな隙を晒すことは間違いない。

 まだ他にも仲間が居る中で、ゴブリン相手に隙を晒すのは命取りだ。特に女性だと色々な意味で。


 サフィーアはクレアを援護するべく駆け出し、同時に引き金に指を掛けて何時でも空破漸か地裂漸を放てる用意をした。弾一発当たりの魔力の充填時間は精々20秒程度なので、無駄撃ちは出来ない。


「ん?」


 とそこでサフィーアは、クレアが妙に仰け反っていることに気付いた。受動的に空中に下半身を投げ出されたにしては少し反り過ぎだ。まるで自分から体を仰け反らせているかの様――――


「せりゃぁっ!!」


 その認識は正しかった。グレーターゴブリンがクレアを地面に叩き付けるべく両腕を振り下ろそうとした瞬間、彼女はそれに合わせて腕を引き寄せ同時に腰を曲げて膝を突き出した。結果、グレーターゴブリンの腕の力とクレアの腕の力が合わさった膝蹴りは、グレーターゴブリンの顔面を陥没させるほどの威力を発揮し一撃で倒してしまった。


「あ、ありゃ?」

「よっと」


 援護しようとしたら自力で問題を解決されてしまい、暫し唖然となるサフィーア。そんな彼女を余所に、クレアは周囲に目を向けた。


 今2人が居るのはイートから少し離れた所に位置している、小さな村の近くの深い森の中。二人は依頼でゴブリン退治に赴き、つい先程まで数えるのも億劫になるほどの数のゴブリンを相手にしていたのだが、今は影も形も見当たらない。

 これで全て倒したのかとも思ったが、森の奥に目をやるとまだ複数のゴブリンが彼女たちの様子を窺っているのが見える。先程まではグレーターゴブリンが居るという事で気持ちが大きくなっていたのか、被害など物ともせず数に物を言わせて攻撃してきていたが、この場のリーダー格と思しきグレーターゴブリンが倒れたことで旗色が悪い事を察したのだろう。次の瞬間には一斉に残った全てのゴブリンが森の奥へと消えてしまった。


 逃げていくゴブリンを2人は油断なく睨み続ける。どれほどそうしていたか、周囲からゴブリンの気配が完全に消えた頃を見計らってクレアが口を開いた。


「どう、サフィ?」

「ばっちり、こっち意識してます」

「ま、あれだけ派手に暴れればね」


 2人がゴブリンの生き残りを見逃したのは、別に慈悲の心があった訳ではない。敢えて逃がすことで連中の巣穴に案内してもらうのだ。

 本来であれば絶えず付かず離れずの距離をキープして追跡するか、追跡用の発信機をくっ付けて巣穴の場所を知るのだが今回は必要ない。何せサフィーア――正式にパーティーを組んでからクレアは親しみを込めてサフィと呼んでいる――が居るのだ。ゴブリンが彼女の事を意識している限り、その思念を逆探知して居場所を知る事が出来る。


「オーケー、それじゃ早速追い掛けるわよ。案内お願いね」

「あ、はい」


 クレアは作戦通り、ゴブリンがサフィーアの事を意識してくれている事に満足そうに頷くと、戦闘に巻き込まないように離れたところに置いてあった荷物を担いだ。サフィーアも慌ててそれに続き、思念が飛んでくる方に向け歩き出す。


 休む間もない行動に、サフィーアはこっそりと溜め息を吐いた。正直、ゴブリン退治と聞いた時は大したことないと思っていたのだが、その認識が甘かったことを思い知らされた。


 まさか、『生態不確定』の依頼がこれほどハードだったとは思ってもみなかったのだ。


 歩きながら水筒を傾け、水で喉の渇きを癒しつつサフィーアは依頼を受けた時の事を思い出した。



***



 数時間前――――


 サフィーアがクレアとパーティーを組んでから、早くも数日が経っていた。その間、ギルドに出された依頼はどれもこれも派手さの無い、言ってしまえば地味な依頼ばかりだったのだがクレアはその内容を気にすることなく……と言うか逆に人気の無い依頼を積極的に受けていた。

 何故そんな依頼ばかりを受けるのか? めぼしい依頼が無いのであれば他所の街に移動した方が良いのでは? とサフィーアが問い掛けた所、クレアは次の様に答えた。


「傭兵なんて定期的な収入が見込めない職業だからね。適度に依頼を受けて資金には余裕を持っておかないと。それに、人気の無い依頼を積極的に受けておけば、ギルドからの心象も良くなるのよ」


 特にギルドからの心象は割と重要だった。これが良いと受付嬢なんかがさらっとお得な情報を齎してくれることがあるのだ。

 例えば、周辺のモンスターの生息分布の変移や盗賊団の存在、何らかの理由で自衛力の下がった街の存在などである。地道に様々な依頼を受けていくよりも、そういった情報を手に入れ傭兵活動に活かす方がずっと大きな稼ぎに繋がる。


 そんなちょっとした知恵などを教えてもらいつつ、クレアと共にスクリーンに映し出された依頼を選んでいたサフィーアは、この日奇妙な依頼を見つけた。

 その依頼がゴブリン退治だ。


 ゴブリン退治自体は何もおかしくは無い。連中はある日突然増え、近隣の街や村に牙を剥く。対応が遅れると小さな村などはあっという間に全滅してしまうので、存在が確認された場合即座にギルドは傭兵達に討伐依頼を出す。

 今回もそのパターンだろうと思っていたのだが、よく見るとその依頼にはおかしな部分があった。


「え、B-?」


 普通ゴブリン退治の依頼は傭兵ランクC+で受けれる(流石に傭兵なり立てのC-、Cランクにはモンスター退治系の依頼は回されない)のだが、そのゴブリン退治の依頼はB-から受注可能となっていた。

 これは何かおかしい。そう感じたサフィーアは早速クレアにこの依頼の存在を知らせた。すると彼女は若干表情を険しくさせ口を開いた。


「これは早い内に私が片付けといた方が良いかもしれないわね」

「普通のゴブリン退治と何が違うんですか?」

「ここよ」


 サフィーアの質問に、クレアは依頼内容に記されている一文を指差した。

 そう、『生態不確定』と言う一文を、だ。


「これがどういう意味か知ってる?」

「ギルドの方でその依頼に関わるモンスターの生態がいまいちはっきりしないって意味ですよね?」


 依頼を斡旋するに際して、傭兵ギルドはまずその依頼に関係する周辺の生態調査を行う。例え簡単な依頼に見えても、その周囲に非常に危険なモンスターが居た場合高ランクの傭兵でなければ任せられないからだ。

 ギルドの手が届く範囲には各地に調査員が存在し、彼らが細かくモンスターの生態調査を行った結果を基にギルドはそれぞれの依頼の受注可能ランクを設定するのだ。

 しかし、偶にギルドの調査が思うようにいかず不十分な情報しか集まらない場合がある。そんな時、ギルドはその依頼を生態不確定な依頼として設定し、場合によっては通常よりも受注可能ランクを引き上げることがあった。少しでも経験のある傭兵だけが受けれるようにし、不測の事態に対応できるようにする為だ。


 これ位の事は傭兵ギルドに登録する際にチュートリアルで説明されるので、サフィーアも当然知っていた。それに対しクレアは満足そうに頷いた。


「ん、よく出来ました。偶に居るのよ。こういう序盤に教えてもらう情報を聞き流して痛い目を見る馬鹿が」

「はぁ。で、この場合は何がそんなに不味いんですか?」


 言っちゃあ何だが、ゴブリン退治でそこまで警戒する必要があるのかと言う気がする。

 サフィーアも過去に何度かゴブリン退治の依頼は経験しているし、二度か三度はヒヤッとする場面もあったが、逆に言ってしまえばその程度だ。Aランクのクレアが深刻そうな顔をする必要の事とは思えなかった。

 そんなサフィーアの様子に、クレアは苦笑を浮かべている。まるで同じような光景を何度も見てきたような様子だ。


「ま、これに関しては、口で言うより実際に体験させた方が良いかもしれないわね」

「へ?」

「ゴブリンに関しては、この言葉の重みが違うってこと」


 そう言うとクレアはPDAを操作し、その依頼の番号を入力した。受けるつもりのようだ。それを見てサフィーアもとりあえず自分のPDAに同じ番号を入力する。


 その後、二人は受付で依頼を受注し、場所が離れているからという事でギルドで移動用の車をレンタルしついでに諸々の準備を整えてゴブリン退治に赴いたのだった。



***



 その結果が、通常よりも遥かに多いゴブリンの集団と見たことも無いゴブリンの上位種の出現だった。

 記憶にあるゴブリン退治とはまるで異なるそれに、サフィーアは肉体的にはともかく精神的には大分疲労していた。


 若干足取りの重いサフィーアの様子からいろいろと察したクレアが、諭すように話し掛けた。


「どう? 生態不確定のゴブリン退治は?」

「正直、思ってた以上にしんどいです。何ですか、あの数とあのデカブツ?」


 出発前にクレアが言っていた言葉の意味を骨身に染みて理解したサフィーアは、肩を落として大きく溜め息を吐きながら訊ねた。確かにゴブリンは高い繁殖力を持つが、それでもあの数ははっきり言って異常だ。それに加えて彼女が初めて見るグレーターゴブリンの出現。


 何れもサフィーアにとっては未知の体験であった。


「あの数は単純にゴブリンが異常繁殖した結果よ。少しの間天敵や傭兵が出なかっただけであいつら一気に増えるから、本当はいろんな傭兵が定期的に間引き目的で討伐しなきゃならないんだけどね」

「ゴブリン退治は人気無いですからね」


 ゴブリン退治はモンスター討伐系の依頼の中では、リスクの割に報酬が安いという事でどちらかと言えば不人気な依頼だった。傭兵ランクC+から依頼を受ける事が出来るがそのレベルの傭兵は大物を討伐して手早くランクアップを狙う為ゴブリン退治を避け、高ランクの傭兵は高ランクとしてのプライドがある為ゴブリン退治など受けない。

 結果多くのゴブリンがのさばる事となり、天敵が現れなかった場合は更に繁殖スピードは跳ね上がる。その末があの異常な数のゴブリンという訳だ。


「あのデカブツは?」

「あれは群れが一定以上の大きさになると出始める異常変異個体よ。ゴブリン絡みで生態不確定とくると高確率で遭遇するわ」


 これはゴブリンに限らず、群れを持つ全てのモンスターに共通する事象であった。個体レベルで弱いモンスターは弱いなりに群れることで単体レベルでの力不足をカバーし、更に増えると群れの中から特別な能力を持った個体が出現するようになる。


 そしてこれこそが生態不確定認定されたゴブリン退治の依頼が通常の物よりワンランク受注資格が高くなる理由であった。


「普通の討伐系依頼だと生態不確定は『他のモンスターが乱入する可能性があるから気を付けろ』って意味になるんだけど、ゴブリンの場合は『どれだけ群れが膨れ上がってるか分からないし異常変異個体が出るかもしれないから気を付けろ』って意味になるのよ」

「それで、依頼の受注資格がランク一つ分上がるんですか」

「そういう事。特にゴブリンは数が増えれば増えるだけ累乗的に危険度が跳ね上がっていくから、実際にはランク一つ分程度じゃ済まない可能性もあるわ」


 毎年ゴブリン退治の依頼を失敗して命を落とす傭兵は必ず居るが、その半分は生態不確定とは言え相手はゴブリンだからと言う理由で侮る者が殆どだった。


 弱いモンスターは居るが、雑魚のモンスターは居ない。何時何処で誰が言ったのかは知らないが、サフィーアでも知っている言葉である。


「因みにですけど、こういう場合ゴブリンってどれぐらい増えてるものなんですか?」

「時と場合によるから一概には言えないけど…………記録だと最大で100匹の群れが確認されてるわね」

「ひゃ、100ッ!? そんなにッ!?」

「最初の内はそうでもなかったらしいんだけど、討伐に手古摺ってる内にどんどん数が増えたらしいわ。大方まだ群れがそこまで大きくない内にルーキーの女傭兵が何人か舐めてかかって返り討ちにあったんでしょ」


 ゴブリンによる被害で最も恐ろしいのは、女性を孕み袋にする事だった。奴らは主に人間の女性を攫うなどして巣穴に連れ帰ると、自分達の子孫を残す為の苗床にするのだ。

 とにかく生殖力が旺盛なので、被害に遭った女性は文字通り死ぬまでゴブリンの子孫を孕まされることとなる。一般人は勿論女傭兵も被害に遭う事があり、対応が遅れると爆発的な増殖を許してしまう。

 その結果、今回の様な生態不確定の状態を作り出してしまうのだ。


 以上の理由からゴブリン討伐は割と重要な案件なのだが、前述した通りゴブリン討伐は依頼の中では人気の無い部類で積極的に請け負う傭兵は少なかった。


 それでもゴブリンが大きな問題とならないのは、奴らがモンスター界の食物連鎖のピラミッドの最下層に位置しているからだ。ゴブリン自体は単体では人間の子供程度の身体能力しかないので、単体での能力に優れたモンスターが相手だと異常繁殖した群れであっても一方的に殲滅されることもざらだった。加えて、クレアの様なゴブリンの脅威を良く知る傭兵が積極的に討伐に出ることも、ゴブリンの増殖が大問題にならない要因だろう。


 閑話休題。


「今回もそれくらいの数が居ると思いますか?」

「ん~、それは無いわね。グレーターが一匹だけだったし、さっき倒した数も私とサフィで合わせて30匹位でしょ? 大きな群れだったらもっと数が来てる筈だし、残りは多分多くても20匹位じゃないの?」


 クレアの話に不安を滲ませるサフィーアだったが、クレアは全く気負った様子を見せずに言った。侮っている訳ではなく、長年の経験からくる推測だろう。サフィーアとは積み上げてきた年季が違うのだ。


「それより、連中まだこっちを意識してくれてる?」

「それはもう。あたしの事も結構怖がってるみたいですから、クレアさんなんて見ただけで逃げ出すんじゃないですか?」


 サフィーアの言葉にクレアは思わず苦笑した。先程の戦闘でグレーターゴブリンを仕留めたのもクレアだからという事でサフィーアはゴブリンが恐れているのはクレアの方だと思っているようだが、クレアに言わせれば寧ろサフィーアの方が恐れられているだろう。

 何しろサフィーアにはまともに攻撃が通用しないのだ。ウォールとの連携が上手くなったことも要因だろうが、何よりも攻撃に対する反応速度が尋常ではない。背後を取って不意を打てるかと思ったら即座に反応して防御どころか反撃までしてくるのだ。


 ゴブリンからすれば、単純に優れた技量で圧倒してくる分かりやすい強さを見せるクレアよりも、何だか分からないが確実に死角を取ったと思ったのに素早く反応してくる、サフィーアの方が不気味で恐ろしかったに違いない。


とは言え、その事は敢えて言わないでおく。言えば多少なりともサフィーアは気にするだろうし、何よりも――――


 クレアも、一度は同じ事を思った事があったからだ。

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