01話 異世界転移というやつですね。
光を浴びて、目が覚める。間違いない、今度はちゃんと太陽の光だ。昨日のあれはやっぱ夢だったんだ。
いやー良かった良かった。
おれは安心して、目の前に広がる青空を眺める。
ん? 空? ちょっと待て。天井はどこ行った。よく見れば壁もねえな。マンションごと消えてやがる。もちろん、お隣の竹内さんの部屋もない。
どうやら、いま俺は広場のような場所にいるらしい。
もっとよく周りの様子を見るために、俺は身体を起こそうとする。しかし、上手く身体が動かない。まだ29なのに、一人で起き上がれないって赤っ恥だぞ。運動しないとな……
そんなことを考えながら、もう一度俺は身体に力をこめる。
が、びくともしない。
なんだこれ、金縛り?
ふん! ふん! 何度も挑戦するが、まったく起き上がれる気配がない。いやまず、身体に力が入らない。
ふん! ふん! ふぉああああああ。
……駄目だ。一回あきらめよう。
そんな俺の努力を知ってか知らずか、周りに数人のおっさんたちが集まってくる。おっさんたちは皮製のベストに皮製のズボンと、すごく変わった格好をしている。まるで、ファンタジー世界の村人のような……
おっさんの一人が口を開く。
「上手くいったのか?」
「さあ……魔法は発動してたはずだけど……。」
「おい! ガンテツ! お前のスキルで鑑定してくれ。」
なるほどね。魔法にスキルね。
んー、これあれだな。いよいよあれだわ。異世界転移だわ。正直空が見えたとき、いや昨日の魔法陣のときからそんな気はしてたんだよね。一応小説家志望だったから、こういうパターンの話はなんども読んできたんだよ。
信じたくなかったから、考えないようにしてたけど。
ちょっと話しかけてみるか。
「おい、そこの村人A! 起こしてくれないか? 上手く力がはいらないんだ。」
おっさんたちが急にざわめき始める。「喋った。」「いや、そういうもんだって賢者様が言ってたろ?」「でも、ほんとに喋ると……」
人が喋って、ざわめくって失礼なやつらだな……ん? 人? 人とは限らないのか。
……わかった。これ人外に憑依したパターンだわ……。だから、上手く身体を動かせないのか。異世界転移なんてもう書きつくされてるから、この先の展開みえみえなんだよ。
で、俺はなんになったのさ。スライムか? 蜘蛛か? はたまたヤ○チャか?
さっき、ガンテツと呼ばれてたおっさんが、大声をだす。
「成功だ! 鑑定結果を言うぞ。武器名:デスサイズ 攻撃力:+360 固有能力:魂を喰らう物 武器種:魔剣」
え? なに? 何を鑑定したの?
「やったぞ……ほんとにできたんだ魔剣が……」
ん? マケン?
「当たり前だ……成功してなかったら何のためにあいつらは……。」
「そうだな。でもこれで報われる。この魔剣があれば……」
待って、なんで「この」のとこで俺を指差すの?
俺は全身に感覚を集中してみる。あるかわからない神経を研ぎ澄ませ、自分の身体の境界をさぐる。
んー、なんとなくわかった。俺の身体は1.8メートルほどの細長い棒先から、直角に大きな刀が飛び出している。といった感じの形状だ。
あー、良かった。剣じゃない。鎌だ。それもくそでっかい鎌。なるほど、だからデスサイズか! 合点がいった。
いや、そこ重要じゃないわ! いやいやいや、なんで異世界行って魔剣にならなきゃいけないの? 人間じゃなくても、せめて生き物であってくれよ!
てか、剣になるってパターンも某小説投稿サイトじゃ書かれまくってるよ! 全部途中で更新とまってるよ!主人公が動けないって相当リスク高いからな!
そんな俺の脳内つっこみを知る由もなく、おっさんの一人が話しかけてくる。そういえばこの身体、どうやって見たり聞いたり喋ったりしてるんだろう。
「おはよう、デスサイズ。私はユリウス。一応この村では村長で通ってる。わたしたちが魔法で君を生み出したんだ。」
村長か、たしかに他よりは立派な服を着てるな。にしても、「生み出した」ねぇ。ずいぶんと偉そうなことで。魂引っ張ってきただけだろ。
「俺を生んだのは母さんだし、名前もデスサイズじゃない。若宮達也という親にもらった名前がある。」
おっさんたちは、ぎょっとしてなにやら会議のようなものを始めた。こいつらさっきからなんだ。人を呼び出しといて自分たちだけで話しやがって……。
「どういうことだ。」「知るかよ。」「賢者様の話じゃ、魔剣の精神は魔法によって生み出されるって……。」
なんだ? 俺の名前に驚いてるのか? ふふふ、そうだろうな。
俺の名前はいままで明かされていない。村人のうち二人は名前が明かされ、お隣さんなんて二回も名前が出てきたのに、俺の名前は奔放初公開! 読者も知らなかった情報だからな。
ユリウスが前に出て話かけてくる。
「おい、デスサイズ。」
「達也だ。」
「失礼した。では、タツヤ。君が母から生まれたというのはどういうことだ。」
「どういうことだもなにも、そのままの意味だよ。俺はもともと人間だからな。こことは別の世界の。」
ざわめく村人たち。「異世界人?」「ほんとにいたのか……。」「しかし、なぜまた…」「とんでもないことをしてしまったんじゃないか?」
「どうして、君は魔剣に?」
「それはこっちが聞きたい。お前らがやったんだろ?」
「……すまない。本来は新しい魂が生み出され、剣に宿るはずなんだが……」
「失敗か。」
「そうなる。本当にすまないが、我々には君の魂をもとの場所へ返す方法がわからない。」
ユリウスが申し訳なさそうに下を向く。本当に想定外だったのだろう。まぁ、わざわざ魔剣に異世界人の魂こめる理由なんてないしな。
だが、異世界から魂拉致ってきて、もとの場所に返せませんなんて「失敗ですごめんなさい」じゃ許されないぞ。
それに自分で言うのもなんだが、俺の性格は良いほうじゃない。
おっさんたちの申し訳なさそうな顔を見渡し、俺は口を開く。
「いいよ。気にするな」
「「「へ?」」」
おっさんたちがはもった。
「いいのか?」
「んーまあ、起こっちゃったもんはしゃあないし。正直、あの人生に未練はないからな。」
おっさんたちが安堵の表情を浮かべる。
そうだ、俺はあの人生に未練なんてない。あんなのは退屈で、憂鬱で、最悪だ。
俺をこっちに連れてきたおっさんたちにはむしろ感謝したいくらいだ。つまらない人生から脱出するきっかけをくれた。
剣になったのには初めは戸惑ったが、よく考えれば悪くない。だって魔剣だぜ? 特別な感じがしてすごく良い。決めた。俺は元の世界に返る方法をさがしたりはしない。テンプレなんてくそくらえだ。
この世界で魔剣として生きていこう。生きるという表現が正しいかは知らんが。
次回最初のヒロイン登場!