00話 睡魔に勝てるのは睡眠だけです。
今日も、ただなんとなく生きていた。ただなんとなく、息をしていた。
ベッドにもぐるとたまに、どうしようもなく自分が嫌になるときがある。今はそんな気分だ。
俺には目標もなければ生きがいもない。植物と同じだ。ただ雨が降るのを待って、雨が降ったら根から水を吸い上げる。その繰り返し。そこに目的なんて存在しない。
いや植物にだって、子孫を残すとか、ちゃんとなにかしらの目的はある。でも俺にはそれさえない。
初めからこうだったわけじゃない。昔はちゃんと生きる理由があった、夢があった。俺は小説家になりたかったんだ。そのために芸大の文芸学科に行った。大学を卒業したら、バイトしながら小説を書いた。新人賞に応募したり、ネットにアップしたりした。本気で小説家を目指していた。でも俺は、文章で飯を食っていくことができなかった。
何本書いても結果を残せず、いつの間にか書くことをやめていた。
夢をあきらめて就職しようとしたけど、芸大卒の元フリーターなんて雇ってくれるところはそうそう見つからない。断られ続けて、結局工場に就職。そこでずっと流れ作業をしている。
昔は自分が特別だと思っていた。授業で書いた作文が賞を取って、自分は天才なんじゃないかと思い上がっていた。
だが、現実はどうだ? 俺のやってる仕事なんて、ちょっと優秀なロボットがあればできるだろう。俺がいなくなっても誰も困らないし、代わりなんていくらでもいる。
わかりきったことだ。俺は特別なんかじゃない。
自分の現状に嫌気が指しながらも、俺は変わりたいとは思えない。いや、変わりたいとは思っていても、行動に移すことができないだけか……。
自分のクズさはよくわかってる。
あぁ……もう考えるのは疲れた。寝よう。
どんなに暗い夜でも、寝ればいつものように朝が来る。明日になれば、嫌な気分も忘れてる。俺は現実から逃げるように、目を閉じた。
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光が射し込んできているのを感じて、目が覚める。
「もう朝か……なんかぜんぜん寝れてない気がする。」
ごしごしと目をこすり、窓の外を見る。まだ太陽は昇っていない。なら何でこんなに明るいんだろう。
その答えはすぐに出た。なぜだか、床が光っているのだ。
なにこの超常現象? 床を良く見てみると、魔方陣のようなものが描かれている。正確には床ではなく、それが光っている。例えるならあれだ、光るパジャマみたいな感じだ。
うわー、趣味の悪い落書き……。誰だ、こんなことしやがったやつは! アパート出て行くときに修繕費がかさむだろ。
混乱して、わけの分からないつっこみを入れてしまった。落ち着け、こんな落書きあるわけない。なら、これはなんだ?
ああそうか、これは夢だ。明晰夢というやつだ。夢なら痛みを感じないはず。
そこで俺はなにを思ったか、壁に思いっきり頭突きをする。鈍い音とともに、激しい痛みが襲ってくる。脳が揺れるような感覚。壁の向こうから、隣人の「うるさい!」という声が聞こえた。竹内さん、起こしちゃってごめん。
どうやら、夢ではないようだ。じゃあなんなのこれ。まさか、ガチの魔方陣? だとしたら、なんのために…… いくら考えても答えは出ない。
ああもう、いいや! 寝よう。きっと、この魔法陣もあれだ。明日になれば消えるかんじのやつだ。俺は目をつぶり、もう一度現実逃避を開始する。
しばらくの間毎日更新。余裕があるときは2,3話あげます。