第6話 出発、そして哀しみ
「それじゃあ早速異世界へ行ってもらいますっす。僕はここであなたのプレイを見守っとくっす」
ソラシドが調子に乗っている。そして屁が臭い。だが僕にとっても良い取り引きなので図に乗らせておけばいい。
しっかりと1350円を受け取り、身支度を整えようと立ち上がるが、
「座って下さい! 時間がなく早く異世界へ行ってもらわないと禁断のチートが解除されてしまいます。メフィスト物語を立ち上げて、早くプレイなうを!」
ソラシドに促され、パソコンを立ち上げ、ソフトを起動する。「冒険の続き」を選択しようとしたら、蝿を叩くかのように手をパシッとされた。
「すいません。でも時間無いんです。中央左下に小さな小瓶があるでしょう? そこをクリックして下さい」
指図をされるのは嫌いだが、隣でアセアセされると余計暑くてイラするので、ここは従っておく。クリックすると「今プレイしている人の名前を入力して下さい」と指示がきた。
「ここは『ソラシド』enterで」
次に今度プレイする人の名前を入力して下さいと出る。
「ここはあなたのフルネームでお願いします」
「厳島空っと・・・」
「名前負けしてるっす!」
「うっせーソラシド」
ぼそっと言い、enter ボタンを激しく叩く。その瞬間自分がパソコンの中に吸い込まれ、霧のように溶けていなくなるのがわかった。
「今気付いたんだが、今回の『勇者交代』、僕と同じような奴が他にもいるのか?」
「それは行ってからのお楽しみです。勇者空・・・いや空豆さん頑張って下さいっす」
ソラシドは永遠の別れを惜しむような哀しい顔をしていた。