08 呪詛――亜深の事件2
よりによってあの事件で、
3つの事件がつながった。
「常磐って……常磐正志!?」
物部が喰らいつく。2人は驚いて顔を見合わせる。
半年前。
電車。
常磐。
それだけで、こんな強い反応を示すほど、まだ物部の頭には残っているのだ。
あの、「現実にあってはならない事件」が。
だが、その程度でうろたえるようでは警察官として失格だ。
みだりに感情を出すべきじゃない。口を滑らしてはいけない。
「知っているんですか……?」
「君達こそ、どうして……?」
まずい。あまり言わせてはいけない。
俺は物部を押しやって、話を戻す。
「……それは、誰だ?」
知っている。それが誰だかは俺も知っている。
だが、どうして彼らが知っている?
どうしてこの事件にあいつが関係する?
「……」
水樹は、やはり言いにくそうだった。
「言っても、信じてもらえないと思っている?」
「……」
図星のようだった。
まさか。
沈黙が続く。
どう聞き出せばいいのか。
こちらの情報を与えずに、自然に。
聞いてから、そんなのは夢だと笑い飛ばせるように。
彼らを安心させた上で、その情報を生かせるように。
「……風浪さん、もういいですよ。この子らも知っているみたいです。
こっちの知っていることを話せば、分かってくれると思います」
物部が痺れを切らした。
俺は溜息をつく。
これだからこいつは。
嘘がつけない。隠し事ができない。
良いことと思われるかもしれないが、要するに我慢が出来ないのだ。
物部があの事件に遭遇したのは失敗だった。
そしてそのあと、上手く説得できなかったのも失敗だった。
どちらにしろ、俺にはどうすることもできなかったのかもしれないが。
他言無用を厳重に確認し、俺は話を始めた。
「そうだったんですか……」
水樹は呆然としていた。綿原も目を白黒させている。
しかし、俺達の驚きはその比じゃない。
人身事故で止まった車内で、その原因となった常磐と会っていた!?
そのとき、常磐は確実に死んでいた。
そしてその後、俺達が見た、加納を殺した怪物が、常磐だったというのか。
「まさか……そんなことが……」
物部は絶句した。
こいつには後で他言無用を重ねて言っておかなくてはなるまい。
彼らの話によれば、
水樹、綿原、相川、風見の4人が電車に乗って談笑していたところ
人身事故が起き、風見は現場が見たいがために最前車両に移動した。
残った3人が追いかけると、最前車両には誰もいなかった。
神林も同じく他の車両から前に移ったようだ。
そこにその時点で既に生きていないはずの常磐が合流した。
すると他の車両にも人は全く見られなくなった。
常磐が後で語ったところによると、異空間に閉じ込められたらしい。
そこで怪物に襲われたりと、色々と怖い目にあったようだ。
普通の人なら、そんなの作り話だと吐き捨てるだろうが、
俺達はそうではなかった。
何しろ、俺達が、同時刻、同じ場所で、同じような体験をしていたのだ。
物部が余計なことを言わなければ、俺も
そんなのは夢だから早く忘れろと誤魔化していたのだが。
彼らは常磐の人相をぴたりと当てた。
車両左最前の窓に書かれた血文字にも気付いていた。
「それで……どうなったんだ?」
「……常磐さんは、僕の話を聞いてくれました。納得もしたようでした。
そうしたら……突然いなくなって……
いつの間にか僕たちも元の世界へ戻っていました……
最後に常磐さんは言っていました。
私を殺した人間には裁きを下さなくてはならないと」
加納は、事実、殺された。
辻褄は、合う。
信じざるをえない。
「あの人は……まだ成仏していなかったのよ!
それで私達を殺そうとしているのよ!
綾乃ちゃんも……隼人君も……神林さんも……みんなそれで……!」
最初は何を言っているのかと思ったが、
話を聞いた後だと、それも否定できない。
でも、待て。
「何故君達が今になって殺されなくてはいけない?
君達が何か罪を犯したか? それともそんなこと関係ないのか?
それに何故、現場に居合わせなかった君達以外の人間を巻き添えにする?」
動機が、無い。
綿原をなだめた後、連絡先を聞いて、2人を帰らせた。
彼らの身辺を警戒しておいたほうがいいかもしれない。
3人の接点はその電車に居合わせたことのみ。
偶然じゃないのなら、水樹と綿原にも何らかの干渉が行われるかもしれない……
考えすぎだ。
人は、不規則なものでも何か法則があると考えたがる。
法則で説明がつきそうになると、それに飛びつく。
それが違ったらまた別の法則を考える。
いつか、完全に法則が当てはまるかもしれない。
そうして、科学は発達してきた。
だが、もともと法則なんて無いものに対して法則を考えるのは無駄だ。
杞憂であることを、願う。
物部和洋:
風浪の部下 真面目だが間抜け